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未来の会
【「集中」の是々非々 79」】

「医師偏在と直美論争〜これは誰の責任なのか?」

「第三者の思考でしか考えられない日本人」

この記事(1,933文字)は130秒でお読み頂けます。

 「直美」という言葉が、医療界で半ば蔑称のように使われる時代になった。初期研修を終えた若い医師が、過酷な救急や地域医療を避け、美容医療へ進む流れを指す言葉だ。そこには「医師としての使命感を忘れた」という批判が込められている。

 確かに、日本各地では医師不足が深刻だ。地方の中核病院では救急体制を維持出来ず、産科や小児科の閉鎖も相次ぐ。高齢化が進む地域ほど医師が足りないという矛盾も起きている。もし全ての医師が都市部や自由診療へ向かえば、僻地医療や地域医療は崩壊する。それは紛れもない現実だ。

 一方で、医師にも職業選択の自由がある。長年の受験競争を勝ち抜き、莫大な学費や努力を重ね、国家資格を取得した以上、どの分野で働くかは本来自由であるはずだ。命を守る仕事だからといって、個人の人生全てを社会に捧げる義務があるのか。若い医師たちが「過酷な勤務」「終わらない当直」「訴訟リスク」「低い報酬」に疲弊し、より待遇の良い分野へ向かうことを、軽々に非難する事は出来ない。

 今、問われるべきは、「医師だけに犠牲を求める社会」で良いのかという問題だ。 日本では、医師不足が起きると、すぐに「医師の社会貢献の低下」が語られるが、医師個人の使命感に依存し続けるだけでよいのか? 地方自治体にも、自問自答すべき点があるはずだ。医師が来ない理由を、単純に「最近の若者の都心志向」と片付けていないだろうか。

 その地域に、若い医師が住みたいと思える魅力はあるのか。教育環境は整っているのか。配偶者の仕事はあるのか。文化的な刺激はあるのか。交通網はどうか。病院経営は健全か。医師を単なる“人員”として扱い、「来て当然」と考えてはいないか。

 厳しい言い方をすれば、「医師が来ない」のではなく、「医師に選ばれない地域」になっている可能性もある。

 もちろん、地方の首長にも言い分はある。人口減少と税収減に苦しむ中、限られた財源で病院を維持しなければならない。医師確保のために高額年俸を提示しても、数年で辞めてしまうケースも少なくない。地域住民からは「病院を守れ」と迫られる。首長にとって医師不足は、政治問題であり、住民生活そのものなのである。

 一方、地方の患者の立場になれば、問題はさらに切実だ。都市部では高度医療や最新治療を受けられる一方、地方では「近くに医師がいない」という理由だけで命の格差が生まれている。救急車で数時間搬送される高齢者もいる。患者にとっては、「医師の自由」より「命を守って欲しい」という願いの方が切実である。

 だからこそ、この問題は単純な善悪論では語れない。

 医師には確かに社会的責任が伴う。医療は単なるビジネスではなく、高い公共性を持つ仕事だからだ。一方で、医師だけに倫理や献身を求め続ければ、若者は益々、地域医療から離れていく。精神論だけでは、もはや医療は守れない時代に入っている。

 さらに言えば、医師とは本来、熾烈な受験戦争を勝ち抜いてきた「社会のエース達」である。かつて、日本中の秀才達は、医学部を目指した。それは社会的地位、安定、尊敬、そして高い使命感があったからだ。しかし、10年後はどうだろうか。

 AI、金融、半導体、宇宙産業、デジタル産業――。新たな巨大産業が次々に生まれ、若き才能達に莫大な報酬を提示する時代が来る。そうなれば、日本の最優秀層が、これまでのように医師を目指す保証はどこにもない。

 もし10年後、「医学部に最優秀層が集まらない時代」が訪れたらどうなるか。それは、現在の僻地医療問題など比較にならないほど深刻な国家危機となる。医療水準そのものが低下し、“国民の命を守る力”が弱体化するからだ。

 だから今、我々は考えなければならない。医師という職業を、次世代にとって魅力あるものとして維持できるのかを。

 国が、市町村が、地域医療を担う医師に特別報酬を支払う。住宅、教育、研究支援、税制優遇など、あらゆる政策を投入する。それは単なる「医師優遇」ではない。国民の命を守るための国家投資である。

 ところが現実には、「赤字病院が増えている」「地域医療が崩壊している」というニュースばかりが目立つ。それは、政治が医療を後回しにしてきた証明ではないのか。

今の時代、医療は国家安全保障そのものである。 感染症、有事、災害、高齢化――。どれ一つを取っても、医療崩壊は国家の脆弱化に直結する。

 日本人は、いつも第三者の立場で議論をしがちだ。「医師が悪い」「国が悪い」「自治体が悪い」と。しかし、本当に必要なのは、地方の患者の気持ちになり、疲弊する医師の立場になり、追い詰められる首長の現実を知る事ではないか。

 医師偏在問題とは、単なる配置の問題ではない。日本社会が、次世代の命をどう守るのかという覚悟そのものなのである。

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