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未来の会

学生軽視・ダッチロール状態に陥った岩手医科大学

学生軽視・ダッチロール状態に陥った岩手医科大学
ガバナンスの欠如とシラバス軽視の典型

「人間への深い理解と共感、自然に関する正確な知識、社会に対する正しい認識と健全な判断力を養う一般教養から、現代医学のエッセンスを身につける基礎医学・社会医学・臨床医学を学びます。臨床実習では患者さま本位の医療の本質を捉えます」

岩手医科大学(学長・祖父江憲治。以下、岩手医大)HPに掲載されている言葉だ。しかし、その実像を知ると、この言葉が虚しく見える。

2023年10月23日昼頃、学生寮を出たまま行方不明になっていた岩手医大医学部1年生が、11月2日に岩手県宮古市浄土ヶ浜で痛ましい姿で発見された。父親からの緊急の届け出を受け、警察が情報を公開し、行方を追っていた。何が、若く将来有望な命を自殺に追い込んだのか? 希望に胸を膨らませ岩手医大に入学してから半年。この短い時間の中で彼の身に何が有ったのか? 誰も彼を救う事は出来なかったのか?

岩手医大生に続く不幸な事件

岩手医大には不幸な事件が繰り返し起こる理由が有るに違いない。今回、1年に亘る取材で、岩手医大の専制君主的な体質が見えて来た。一部の教授らの権限を最大限に優遇する思想が見え隠れする。学生中心の体制は無く、時には学生の人格を無視する様な対応を取る教授が跋扈する。学生の立場に立ち、問題を解決する姿勢が見えて来ない。これから書く元医学部生の不幸なる退学の件でも、祖父江学長は抗議をした親に対する回答の中に、「本学の複数の顧問弁護士に意見を求めましたが、『シラバスに於いて(略)違法との評価を受けない』『アカデミックハラスメントの存在を裏付ける証拠等は無く本件に於いてアカデミックハラスメントがなされたと判断する事は困難であると考えられる』との回答が得られました」と返信するが、この重要な判断をした弁護士の名前すら記載していない。実に事を軽視した文書であり、当事者感覚が見えない。まるで明治時代に戻ったかの様な考え方であり、HPに記載された言葉からは大きく懸け離れる。

過去にも見られた教授によるパワハラ・アカハラ

2019年度の話だ。岩手医大医学部微生物学の村本泰(仮名)・教授は学生との関係が悪化していた。理由の1つは、実習中に学生の携帯が発した「緊急地震速報」のアラームを、村本教授が許せなかった事が発端だ。神聖な場所である実験室にアラームが響き渡るとは何事だと言うのだろう。ここでは東日本大震災の教訓は忘れ去られていた。そして、村本教授は学生達に「不誠実な集団」というレッテルを貼った。まさに「パワハラ」だ。更には、彼等に対して恣意的な成績評価を行い、進級妨害とも言える行動を取った。学生に対して優越的な立場にある教授が「不誠実な集団」という言葉を放った上に、「恣意的な成績評価」を行うとは、正に時代錯誤な「アカハラ」である。そして「不誠実な」学生達に大学設置基準の条文に反する成績評価を行った結果、大量の留年者と退学者を出した。留年処分を受けた学生の1人であるA君は、村本教授の怒りに対し謝罪を続けたが、それが受け入れられる事は無かった。その後、A君はうつ症状を発症し退学した。彼は都内近郊で開業する父親の唯一の後継者だった。父親は岩手医大に状況説明を求めたが、やり取りに誠意が感じられないと文部科学省に申し立て、対処を要求した。又、法務省へは「佐々木真理・医学部長は、村本教授による何の落ち度も無い学生への不適切行為を正当化し、学生らの正しい主張を退け、退学や留年に追い込んだ。この様な行為は、学生らに対する人権侵害と考えます」と訴えている。「不誠実な集団」とされた学生達やその家族らの中には、人権侵害で刑事告訴を検討する者もおり、時効が成立する前に行動を起こす必要が有ると考えている。

文科省も、A君の父親の抗議内容が具体的な説明に基づくものと判断し、直ちに調査に乗り出した。結果、法人としての岩手医大と個人としての村本教授には、多くの問題点が有る事を確認したと言う。文科省からの返答には、「当省から大学側に微生物学の授業に於ける不適切な成績評価について事実確認を行いました。(略)各大学に於いて、シラバスで成績評価や評点配分を明示し、それに基づいて適切に成績評価を行う事が望ましいところ、岩手医大では、大学の規定の整備や適切な成績評価が徹底されていなかった事から、一層の教員への指導や整備体制を図ると共に、シラバスに関する規定の見直しとその結果を求めています」と有る。

シラバスの突然の変更で不合格、そして留年

A君の父親は「息子の微生物学の成績は、大学が文科省の方針を遵守していれば合格基準を満たしていた。又、不合格の科目も他の学生同様に再試験の機会が与えられていれば、例え不合格になったとしても、本人は納得した筈だ」と言う。「不誠実な集団」のレッテルが再試験の道を閉ざした。このレッテルを貼ったのは誰だ? 祖父江学長は父親からの問い合わせに対し、「文部科学省(以下、文科省)からも本件に対する照会が有り、文科省より『成績評価の方法や小テストの位置付けが学生に対して十分開示・説明がされないまま、成績評価が行われた事は不適切であった』との見解と共に、今後の適切な成績評価に関する各教員への指導や体制整備に努める事との指導を受けております。(略)本件に於いて、成績評価の方法や小テストの位置付けに関する説明に不十分な点が有り、誤解を招き得る表現がなされた事は反省すべきであり、今後、改善しなければならない事項であると考えています」と全面的に過ちを認めている。しかしながら、「本件に於ける成績判定自体が無効になるような事情は無いものと考えている」と父親へ通知した。

文科省がシラバスの運用が出来ていないと判断し、大学側へ通知しているにも拘わらず、佐々木医学部長はA君の父親への回答の中で「当大学のシラバスの成績評価基準や評点配分の記載は基準を満たしている。村本教授による微生物学の成績評価は適切であり、進級判定結果も問題が無い」と言い切った。父親への回答と、文科省からの聞き取り調査に対する回答に大きな乖離が有る事は許されるべきではない。それこそ「不誠実な学部長」のレッテルが似合う。医学部長は、文科省の大学設置基準(成績評価基準等の明示等)等の法令や、岩手医大医学部試験規程第9条すらも認識していないのだろうか。大学としての危機管理意識とガバナンスが欠如していると言わざるを得ない。

シラバスとは、大学又は担当教授と学生の契約書に当たるものであり、契約当事者のいずれか一方が勝手に変更する事は許されない。これは大学教育に於ける常識だ。村本教授は19年度に、自身が受け持つ学部2年生に向けた書類の中で「19年度シラバスを熟読せよ」との言葉を記しているが、今となってはジョークでしかない。

取材の中で、医学部長や村本教授への批判は続いた。「進級判定会議の後で、以前の説明と全く違う事を言われ、結果、不合格となった。全くもって納得が出来ない」「恣意的な成績評価の変更による進級妨害や、アカデミックハラスメントとも言える行為が見られる教授だ」等の声が次々と聞かれた。

今回の取材に対し、岩手医大からは「本学元学生の件については、プライバシーに配慮する必要が有る事から、個別事案への回答は差し控えさせて頂きます」との回答が届いた。

今、学生のプライバシーに配慮するのであれば、学長や医学部長は、「不誠実な集団」として扱われた学生らの人権を尊重するべきだった。

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