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未来の会

働き方改革が看護師「特定行為」の追い風に

働き方改革が看護師「特定行為」の追い風に
現状は医師の理解が得られず、活動機会も少ない

医師の判断を待たず、看護師が手順書に基づいた診療補助を実施出来る「特定行為」の研修が、2015年から始まった。勤務医からのタスクシフト先としても期待が寄せられており、厚生労働省は2025年までに特定行為研修を終えた看護師を10万人とする数値目標を設定したが、2019年9月時点で約1800人と、養成がなかなか進まない現実がある。

 特定行為研修は、団塊の世代が後期高齢者入りし、医療・介護の需要が高まる2025年に向けた体制を整備するため、特定の医療行為をこなせる看護師の養成を目的として、保健師助産師看護師法を一部改正し、特定行為を行う看護師に対する講習の受講を義務付けだものだ。

 特定行為とは、診療の補助行為であり、医師または歯科医師が、直接的(具体的)指示の下、看護師が、事前に準備した手順書により行う行為のうち38項目が該当する。例えば、「経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの位置の調整」「侵襲的陽圧換気の設定の変更」「抗不安薬の臨時の投与」「抗癌剤その他の薬剤が血管外に漏出した時のステロイド薬の局所注射及び投与量の調整」等、様々な領域が含まれる。

 これらを医師の判断を待たずに実施するには、実践的な理解力、思考力と判断力、高度かつ専門的な知識と技能が要求されるため、厚労省が指定する研修機関において研修を修了した者のみに認められる。

 2019年からは、特定行為研修の効率化を図るため、臨床で頻度の高い特定行為を組み合わせ、「術中麻酔管理」「外科術後病棟管理」「在宅・慢性期」「救急」の4領域のパッケージ研修が創設された。それ以前は、1行為ごとに研修を受ける必要があり、受講生の負担が大きかったためだ。

 例えば、熊本県では4施設が特定行為研修を実施しているが、熊本大学病院(熊本市)では、外科領域のパッケージ研修を行っており、38の特定行為のうち、外科で実施される頻度の高い手術後の傷の管理等、15行為をまとめて受講出来る。4月から1年にわたる研修の受講者は7人で、受講料は約80万円だが、一部を看護師の所属先の病院が負担するケースもある。大学病院で、教育環境が充実している事が強みだが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、eラーニングを使った講義も行った。

「タスクシフト」は必要不可欠に

 特定行為研修は、看護界を中心に期待が高い制度である。にもかかわらず、目標の養成者数10万人に対し、5%を切る低調な状況であり、その背景に、看護師の特定行為について、医師から理解を得られず、実際の活動機会も少ないという課題が挙げられる。

 こうした状況に鑑み、政府の規制改革推進会議は7月2日に答申を行った中で、特定行為研修について、2020年度中の「領域別のパッケージ化推進」「指定研修機関の拡充」等の検討を含めている。更に、2022年度の診療報酬改定に向けて、特定行為研修を修了した看護師の配置を促進するために、診療報酬で評価する事も盛り込まれた。

 答申で、医療・介護に関連する事項の第一番目に挙げられたのが、医療・介護職のタスクシフトの推進である。

 勤務医の働き方改革により、2024年度から、原則として年間の時間外労働が960時間までに制限される。これを実現し、また、増加する介護ニーズに限られたマンパワーで対応するためには、医師から看護師、看護師から多職種、介護職から介護ボランティアといった、タスクシフトは必要不可欠となる。

 中でも、医師からのタスクシフト先として、特定行為研修を修了した看護師の育成を強く求める内容になっている。2024年度までにパッケージ研修修了者数を1万人とする目標を掲げ、達成のための取り組みが挙げられている。

 具体的には、制度の周知をはじめとした具体的な推進策を2020年度に提示。5領域(在宅・慢性期、外科術後病棟管理、術中麻酔管理、救急、外科)以外でパッケージ化に適する領域の有無や、現行のパッケージ研修修了者数目標の妥当性を継続的に検証・検討。医師や病院経営者等医療関係者に対し、2020年度中に特定行為研修修了者の活用好事例を示し、継続的に制度の周知、といった内容だ。

新たな認定看護師制度もスタート

 2020年度から、新たな認定看護師制度もスタートしている。

 認定看護師制度は1995年に創設されたもので、「熟練した看護技術と知識をもち、水準の高い看護実践により、看護ケアの広がりと質の向上を図る」事を目的とする。1996年から養成が開始されて以降、21分野において、登録している認定看護師は合わせて2万人を超える。認定看護師を目指すには、それぞれの分野の実施機関で教育を受ける。

 制度が開始された四半世紀前は、 医療の高度化や細分化に伴って、看護の専門分化も進んでいた。それが今日では、複数の疾病が併存して病態が複雑化する等、疾病構造が変化している。また、医療提供体制も、病院中心だったものが地域や在宅中心へとシフトする等、様変わりしつつある。

 2020年からは、いくつかの分野の名称が、実態に即したものに変更された。旧制度の「救急看護」と「集中ケア」が統合され「クリティカルケア」となった。また、「緩和ケア」と「がん性疼痛看護」も「緩和ケア」の名の下に統合され、分野も19に再編された。

 更に、新たに、特定行為研修が認定看護師の養成課程に組み込まれた。認定看護師には特定行為研修を受講してもらい、新制度への移行が勧められている。新制度の教育時間は約800時間で、受講生は、特定の看護分野の専門性を高めるのと同時に、医学的知識をベースとした特定行為の研修も受ける事になる。

 医師の診療において、人手不足や長時間労働は、慢性的な課題である。看護師が特定行為を身に付ければ、医師が不在の場合でも、看護師が患者の病態から診療補助の必要性を判断して重症化を防げるようになる等、より広いニーズに対応出来るようになるはずだ。

 2019年11月、「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」(座長=永井良三・自治医科大学学長)において、148床の2次救急拠点病院を対象に特定行為研修を修了した看護師を配置したところ、医師による指示の回数が3分の1以下に減ったとする調査結果が報告されている。

 今後、更なる人口減少と超高齢化に向けて、在宅医療を含め、地域における医療を安全かつ適切に提供し続けるためには、看護人材の育成が急務だ。また、へき地を含む地域医療に従事する看護師には、時に他職種の領域まで含めた、包括的で高度な看護の実践が求められている。制度の定着に向け、医師の意識改革が必要だ。

 

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