
「実質ゼロ%」案には自民党内からも反発の声
政府は「給付付き税額控除」(中低所得者向けの所得連動型の新給付制度)をスタートさせる2029年4月迄の「つなぎ」として、2年限定で飲食料品の消費税率を1%に下げる意向だ。何れも兆円単位の財源を要する。其れでも与野党で構成する社会保障国民会議の小野寺五典議長(自民党税制調査会長)が6月26日の実務者会議で示した「財源案」は、赤字国債には頼らず、租税特別措置や補助金の見直し、税外収入等で賄うという中身の無いものに留まった。
具体案は年末に掛けての27年度予算編成に合わせて結論を出すと、丸ごと先送りしている。高市早苗首相が衆院選公約で「検討する」とした消費税減税有りきの泥縄式で、首相の体裁を取り繕う事が目的の様にも映る。この先も財源を示さないまま減税議論が先行すれば、財政悪化を懸念する金融市場が反応して一層の円安と国債下落に伴う金利高を誘発し兼ねず、与党からも批判を招いている。
先立っての6月17日、同会議の実務者会議で、小野寺氏は飲食料品の消費税率を1%に下げ、中低所得層には簡易的に現金を給付する消費税の「実質ゼロ%」案を示した。記者団には「各党の意見を出来る限り反映する様努めた。意見の異なる政党が集まって、一歩でも前に踏み出していく為の方策を提案した」と強調した。
小野寺案の飲食料品の消費税減税は、税率1%分が残る為、高市首相が掲げていた「ゼロ%」ではない。但し、その1%分(約6000億円)を財源に中低所得層の現役勤労者に現金を給付する案も組み合わせているのがミソだ。この現金給付は29年度からの実施を予定する所得連動型の本格的な新給付制度の簡易版として先行導入する。飲食料品分で1%の消費税を徴収してもそれを元手に中低所得層に還元すれば「実質ゼロ%」になる、という訳だ。
発言が揺れ動く高市首相
昨年10月の首相就任前、「国の品格として食料品の消費税率は0%にすべきだ」と主張し、「悲願」とまで口にしていた高市首相。だが、それ以降、首相の消費税減税に関する発言は揺れ動いてきた。
首相就任に当たり、首相は日本維新の会との間で交わした連立合意書に「飲食料品については、二年間に限り消費税の対象としないことも視野に、法制化につき検討を行う」と明記した。
それが首相に就任すると、「レジシステムの改修に時間が掛かり、物価高対策として即効性が無い」と言い始め、慎重姿勢に転じた。かと思いきや、今年1月の衆院解散表明時には「2年限定のゼロ%」を自民党の公約に盛り込むと主張し、給付付き税額控除について議論する筈だった国民会議の場に突如、消費税減税を議題として放り込んだ。
当時野党はこぞって消費税減税を訴えており、首相自ら「争点潰し」に出たと見られている。結果、衆院選で自民党は大勝した。当初、首相は小売り業界から「レジ改修に1年以上掛かる」と指摘された事で一旦は折れていたものの、政府・与党内に「税率1%なら3〜6カ月でレジの改修が可能」との妥協案が浮上し、これに飛び付いた。首相の意を汲む小野寺氏は6月に入り、飲食料品の消費税率1%と其れを財源とする現金給付を組み合わせた「実質ゼロ%」案を国民会議に示した。
しかし「出来ない理由ではなく、出来る方法について知恵を絞ってもらう事を期待する」等と言って強引に減税を進めようとする首相への反発も有り、「実質ゼロ%」案には自民党内でさえ強い異論が出ている。6月25日の同党税制調査会幹部(インナー)の会合はほぼ反対一色だったという。
更に幹部の一人で、財政規律を重視して消費税減税に反対してきた小渕優子元選対委員長はインナーを辞任する意向を明らかにした。小野寺氏の空疎な「財源案」に対しては「国民に受けるとかいう理由だけで(税率を)上げ下げしてしまうと社会に混乱を来す」(大岡敏孝元副環境相)、「1%は良い案ではないと思う」(西田昌司参院議員)等の反対論が相次ぐ。同党税調関係者は「早期の取りまとめは無理じゃないか」と話し、実際、6月中を目指した「中間とりまとめ」は先延ばしとなった。
野党は「世界三大がっかり」と反応
首相の一存で国民会議のテーマに「消費税減税」をねじ込まれ、小野寺氏からは同会議で議論した事も無い「実質ゼロ%」案を提示された野党は一層強く反発している。国民民主党の古川元久税調会長は「(シンガポールの)マーライオンの様な『世界三大がっかり』」と切り捨て、中道改革連合の赤羽一嘉副代表は「(財源に関し)実質的な事は何も書いていない。(租特の見直し等には新たな財源に回す)余力は無いのでは」と批判する。
「実質ゼロ%」案は2年間で10兆円程度の財源を要する。消費税収は社会保障に充当すると法定されており、代替財源を見出せなければ医療や介護等に大きな影響が生じる。又、飲食料品の税率8%の内、1・76%分は地方の税収だ。総務省によると、消費税減税に踏み切れば、地方交付税の減額分も合わせて自治体の収入は約1・6兆円程度凹む。地方からも「保育の無償化、訪問介護等住民サービスを維持出来なくなる」(熊谷俊人千葉県知事)といった不安の声が上がる。政府は交付金で補填する意向だが、財務省幹部は「税外収入含め、掻き集めている最中。只、未だ所要額には全然手が届いていない」と表情を曇らせる。
小野寺氏の提案には「農家や外食産業への支援検討」も含まれている。農家の多くは免税事業者ながら、消費税8%分を作物の価格に上乗せしている。消費税が1%になると7%分の収入が減る一方、肥料等の仕入れには引き続き10%の税率が掛かる為、打撃は小さくない。又、外食産業は税率10%のままだ。業界では「持ち帰りの飲食料品が1%になれば客が離れる」との懸念が広がっている。自民党は(農家等への)国の対応無くして(消費税減税の)制度設計は無い」(小林鷹之政調会長)と言うものの、支援には巨額の追加財源が不可欠となる。
「とりあえず、実行されてから2年後には元に戻すとはっきり申し上げておく」
6月22日の衆院予算委員会。高市首相は国民民主党の田中健氏から「2年後に消費税率を戻すのは大変だ」と指摘され、キッパリと反論してみせた。だが、自民党内で強く懸念されているのが、1%の暫定税率を2年後8%に戻せるのか、という点だ。同党税調関係者は「国民からは大増税と受け止められる。理解を得られる筈が無い」と断言する。
この他、物価の上昇局面で税率を下げても商品自体の値上げによって負担軽減効果が相殺される、との見方も根強く有る。熊野英生ABC経済研究所代表エコノミストの試算では、直近5年の食料品価格の上昇基調が続くなら消費税減税の効果は約1年3カ月で帳消しになるという。
高市政権は「日本成長戦略」でAI・半導体等17分野に今後15年で計370兆円超を投資すると謳う。経済成長が財政健全化にも寄与するというのが政府の言い分だが、「戦略」では政府の投資額の公表を見送り、財源についても示していない。表向きは「予算編成に予断を与えない」という理由だが、政官界では「財源は無く、繋ぎ国債で賄うしかないのでは」との見立ても囁かれている。29年度から本格導入する所得連動型の新給付制度には、2年限定とされている消費税減税と違い、数兆円単位の恒久財源が必要となる。租特や補助金の見直し等で賄うのは不可能だろう。確実な恒久財源を確保出来ない場合、市場の信認を得続けられる保証は何処にも無い。
首相は消費税減税案を7月に決定する骨太の方針に盛り込み、秋の臨時国会で関連法案を成立させた上で来年4月に施行する意向だ。しかしその道筋は揺らぎ始めている。
自民党の閣僚経験者は「首相は自らの面子に拘る余り、自分で自分の首を絞めている。消費税減税は撤回すべきだ」と言った後、ボソッと呟いた。
「もう減税で走り出している。(無傷で撤回できる)ノーリターンポイント(引き返せなくなる限界点)は過ぎたかもな」



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