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未来の会

第122回 米FDAから「警告」を受ける異常事態に

第122回 米FDAから「警告」を受ける異常事態に
虚妄の巨城
武田薬品工業の品行

 どう読んでも広告の一種であるパブ記事としか思えないような武田薬品の報道が、『産経新聞』(電子版)の4月30日付に登場している。「『努力で追いつくのが日本人』 武田薬品、湘南アイパークと光工場のこれから」と題したこの記事は、一体何が言いたいのかにわかに理解し難いが、要するに「国際競争での生き残りをかけグローバル企業に変化した」武田が、いかに素晴らしい会社であるかを強調したいようだ。

 これがパブ記事でないとしても、会社サイドだけに立った典型的な提灯記事であるのは疑いない。冒頭に登場するのは「武田の国内最大の製造拠点」である山口県の光工場。社長のクリストフ・ウェバーが最初に訪れた際、「この工場は世界で戦えるのか」と疑ったとか。

光工場が象徴する武田の「光と闇」

 なぜなら、「終戦直後の昭和21年に開設した工場には旧来のルールも多く、従業員のほとんどが英語を話せなかったから」という。ところが「その後、光工場では幹部の中途採用を積極的に行うなどグローバル化を急いだ。それまでは担当者の感覚や努力に頼りがちだった作業も、スイスなど海外拠点のマニュアル化された合理的な方法を取り入れ、機械の自動化も進めた」結果、見違えるような「グローバル企業の製造拠点」に。

 めでたし、めでたしの成功物語調で、「ウェバー社長は再び光工場を訪れたさいに目を見張った。『デジタル技術導入が進み、プレゼンテーションはすべて英語で行われている。立派なグローバル拠点の一つに進化した。日本人、日本の企業の優れているところは努力して必ず追い付いてくるところです』」と感嘆したとある。

 これを読んで、随喜の涙を流す社員がいてもおかしくないかもしれない。だが、この武田の光工場、記事が出て約1カ月半後に別の媒体に登場する。それも、提灯記事ではなく。その一つの『日本経済新聞』(電子版)の6月17日付の「武田、米FDAから警告 光工場の品質管理で」と題した記事は、以下のように伝えている。

 「武田薬品工業は17日、米食品医薬品局(FDA)から、米国に医薬品を輸出する光工場(山口県光市)の品質管理体制などについて警告書を受け取ったと発表した。FDAは工場の無菌状態を維持するための手順に不備があったり、製造設備にエラーが出た際の原因特定が不十分だったりしたなどとしている」

 同記事によれば、「光工場がFDAから警告書を受けるのは初めて」というが、光工場どころか日本の製薬企業が外国の政府機関から「警告書を受ける」というのは異例中の異例だろう。

 ちなみに『産経』記事は「グローバル化した製薬企業には、命や健康を守る新薬開発を世界規模で進め、世界に届ける責任がある」等と御高説を垂れている。「責任」ならぬ利潤の鬼のようなメガファーマーが聞いたら、どんな顔をするだろう。本当に武田が「責任」意識で会社を運営しているとすれば、「品質管理」について警告されるようではよほど「責任」感が緩んでいるのか。あるいは「日本の企業」の武田がまだまだ「努力」不足なのか。

 この問題は、例の創業家筋の「武田薬品の将来を考える会」も重視し、この6月の株主総会の事前質問で次のように取り上げている。

 「工場の無菌状態を維持するための手順の不備あるいは製造設備にエラーが出た際の原因の特定が不十分だったという。これは、憂慮すべき重大な事故・事態と考える」

 「FDAから品質管理体制につき、警告書を受け、販売停止に至ることは過去の武田薬品からは、考えられない事態である。 業績評価並びに会社幹部と従業員の報酬の乖離、コミュニケーションの欠如、コスト削減や人員削減によるモラルやモチベーションの低下あるいは技術・経験の継承の断絶などが想定される」

賃金不払いはグローバルでなくブラック

 他紙あたりでこうした視点からの記事を期待したいが、ただ武田の光工場のあまり褒められない話題はFDAの件以前にもまだあった。取り上げたのは、『週刊ダイヤモンド』2019年6月22日号だ。

 「本編集部は武田薬品グローバルHR日本人事室名の内部文書を入手した。そこには18年9月〜19年5月にグローバル本社(東京)、大阪工場、光工場(山口)であった労基署による是正勧告事案4件、指導事案1件が記されていた」

 「36(サブロク)協定の時間外労働限度時間を超えて労働させたケースや、賃金不払いのケースなど。4月の是正勧告(36協定違反)も記載されていたが、加えて5月にも光工場で是正勧告(賃金不払い)があった」

 薬品業界のトップ企業が「賃金不払い」では、「グローバル企業」どころかブラック企業の方がより似つかわしい。実は武田は、経済産業省が制度設計する「健康経営優良法人2019(大規模法人部門)」(通称・ホワイト500)に19年2月に認定され、ブラック企業ならぬ「国のお墨付きの“ホワイト企業”だと世間にアピールした」(同誌)経過がある。

 ところが、「本編集部に6月上旬、現役の武田薬品社員から、『複数の社員が虚偽申請の事実を経産省に内部告発した』『近く認定がはく奪される予定』と憤慨する情報提供があった。本編集部の取材に対し、経済産業省ヘルスケア産業課は『返納があった』と説明」(同)したとか。

 つまり、こういう事だ。武田が「ホワイト500」の認定を申請したのが、18年11月。ところが、それと前後して武田は労働基準監督署から時間外労働等で是正勧告を受けており、その結果、19年6月に認定の自主返納に追い込まれたのだ。

 わずか4カ月という「ホワイト企業」の短い命だったが、その間に「グローバル企業の製造拠点」を舞台にした賃金不払い問題を起こしていた事になる。これでは、折角の『産経』の力作も台無しになるというもの。

 同誌は、ウェバーら幹部と社員の間の賃金格差等で「一部社員の間に経営中枢への不満がマグマのようにたまっているのは確か。その結果、前出の社員による本編集部への情報提供のような具体的な動きにつながっているのかもしれない」と推測する。

 折しも、武田ではリストラが始まっている模様だ。30歳以上で勤務年数3年以上の国内ビジネス部門の社員がターゲットにされているようだが、ならばこの際、「情報提供」が増えるのを期待したい。それによって案外、「グローバル企業」というイメージとは異なった武田のブラックな内実が明るみに出そうな気もするが。    (敬称略)

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