
2026年2月の総選挙に於ける高市政権の圧勝は、1994年の小選挙区制導入から30年を経て、一連の政治・行政改革が「首相主導」体制へと収斂してきた事を示している。但し、石破茂氏が率いた前政権が少数与党として政権運営に苦しんだのも事実であり、制度変更の作用には揺らぎも有る。こうした中で、官僚機構が官邸の意向に配慮した対応を取る場面が指摘される一方、政治のリーダーシップの在り方によっては意思決定の停滞を招く可能性もある。政治を制度と行動の相互作用として分析する政策研究大学院大学の増山幹高教授は、この現状をどの様に捉えるのか。民主主義の制度デザインについて聞いた。
——政策研究大学院大学では具体的にどの様な内容を教えていらっしゃるのですか。
増山 本学は、一般的な大学とは少し性格が異なり、政策研究に特化した国立の大学院で、世界各国の行政官や実務家が政策形成の理論と実践を学んでいます。全学生の約3分の2が留学生で、その多くは開発途上国の政府から派遣された行政官、将来のリーダー候補です。残りの3分の1は国内の各省庁や地方自治体から派遣された行政官で、日本の政策の現場にいる人材です。教員についても、私の様な研究者と、行政経験の有る実務家教員が教育に当たっているところが特徴です。私自身は、代議制度に於ける権力の集中と分散が、民主主義の在り方や立法・選挙にどの様な影響を与えるのか、制度の設計が権力の行使の在り方をどの様に規定していくのかといった点を主に見ています。
——今回の総選挙での高市政権の圧勝は、日本政治の構造的な変化を示すのでしょうか。
増山 2月の総選挙で高市政権が絶対安定多数を確保した事は、単なる一時的な政治状況の産物ではなく、日本政治が1994年の政治改革以降、30年以上を掛けて積み重ねてきた制度的な帰結だと見ています。政治学では「拒否権プレイヤー(veto player)」という概念が有り、その数が多い程政策変更は難しくなるとされています。嘗ての中選挙区制の下では、派閥の存在が強い拒否権プレイヤーとして機能し、権力は分散していました。しかし、小選挙区制の導入や2001年の中央省庁改革以降の内閣機能の強化、特に14年の内閣人事局設置という大きな制度改革を経て、日本の首相は民意と人事権を背景に、党内や連立相手の制約を受け難くなっていると言えるでしょう。そして、こうした「首相主導」の流れは、場合によっては責任の所在が不明確な「官邸主導」の様相を呈する事も有ります。
競争が働かない「一強体制」の構造
——「一強体制」下での与野党の力関係や、勢力再編の可能性をどの様に見ておられますか。
増山 現在の日本政治は、市場に例えれば「独占」に近い状態にあると感じています。本来、選挙は有権者が政権を選び直す機会であり、そこに緊張感が生まれる筈ですが、現状ではその意味での競争が十分に機能しているとは言い難いと思います。その背景には、制度的な要因と野党側の戦略の問題が重なっています。小選挙区比例代表並立制の下では、特に小選挙区に於ける候補者の一本化が勝敗を大きく左右しますが、野党は必ずしもその点で有効な対応が取れていない面が有ります。加えて、内閣人事局を通じた官僚統制や内閣機能の強化による情報・予算配分の仕組み等、与党に有利に働き易い構造が定着してきました。野党は、本来ならば候補者を絞り込み、明確な対抗軸を示す必要が有りますが、実際には分裂したまま戦う構図が続いてきた。これでは、いくら政策を謳っても、有権者はそれが政権として実行されるというリアリティが感じられない。有権者からすれば、それは「1人の大人に対して複数の子供が挑む」様なもので、勝敗は予め見えてしまいます。実際、日本で有権者の選択によって本格的な政権交代が実現したのは、09年の1度に限られます。この時は、野党側が事前に選挙協力を行い、300の小選挙区の大半で与野党が「1対1」で競り合う構図を初めて作り出しました。有権者に対して「今日の政権か、明日の政権か」という明確な選択肢が提示された結果、投票行動が大きく動いた訳です。逆に言えば、こうした構図を作らない限り、小選挙区制の下では政権交代は起こり難い。今後、勢力再編が起きるには、自民党が大きく分裂したり、経済的な破綻や国際情勢が悪化したりする等の外部ショックを待たねばならないでしょう。



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