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未来の会

カスハラには法律と組織で備える
医療界共通のガイドラインが必須

カスハラには法律と組織で備える 医療界共通のガイドラインが必須
桐生 正幸(きりう・まさゆき1960年山形県生まれ。山形県警察本部科学捜査研究所主任研究官を経て、2006年関西国際大学教授、14年東洋大学社会学部教授。21年から同大学社会学部長を兼務。犯罪心理学の視点からカスハラ問題の社会実装と解決に尽力。

高齢者人口がピークに達し、医療・介護の担い手不足が極限を迎える「2040年問題」。医療資源の枯渇が迫る中、疲弊する現場を更に追い詰めているのがカスタマーハラスメント、所謂カスハラである。長年の過当なサービス競争が培った「患者様」という歪な特権意識に対し、医療界が「性善説」に依拠し続ける事は最早許されない。26年10月の対策義務化を目前に、組織は如何にして最前線のスタッフを守り抜くのか。犯罪心理学の知見からカスハラ加害者の行動メカニズムを解き明かし、実証的なデータに基づく解決策を提唱する東洋大学社会学部の桐生正幸教授に聞いた。


——カスハラ問題に着目された経緯と、法整備が追い付いていない現状についてお聞かせ下さい。

桐生 研究を始めたのは、今から10年程前の事です。当時は「悪質クレーマー」等と呼ばれていたカスタマーハラスメント問題の実態を調査する内、SNSの台頭も重なって巧妙化し執拗化する、悪質な加害者の存在に関心を持ちました。これは単なる接客トラブルではない。対応者の尊厳を奪う、犯罪心理学の領域で扱うべき重篤な問題であると確信しました。しかし社会的な認知に比べ、法整備は圧倒的に遅れています。この構造は、嘗てのストーカー問題と酷似しています。英米に20年遅れて、日本で漸くストーカー規制法が成立したのは、1999年の桶川ストーカー殺人事件を経てからでした。事件が起きて初めて法律が動くという同じ轍を、カスハラ問題は今正に踏もうとしています。現場で孤立する被害者を救う為には、実証データに基づく法整備が不可欠なのです。

——クレームの質的変化を招いた背景には、企業側の初期対応による悪影響が有るのでしょうか。

桐生 仰る通り、企業側の初期対応が大きく影響しています。嘗ての日本企業には「お客様は神様です」という強固なポリシーが有りました。そうした中、99年に起きたのが「東芝クレーマー事件」です。製品の修理対応を巡る顧客とのやり取りで、東芝側担当者が「クレーマー」と発言した音声がインターネット上で公開され、不買運動に迄発展しました。これを境に、一般消費者が不満を直接窓口に伝えるだけではなく、ネット上で公開し不特定多数の賛同を得て炎上する事象が増えていきました。2009年には消費者庁の創設等、消費者の権利保護が進みました。景気低迷の中でサービス合戦に活路を見出した企業は、例えば飲食店で異物混入のクレームが入ると、事実確認もせずに返金して再提供する等、謝罪や安易な金品提供でその場を収める対応を重ねてきました。この「事勿れ主義」が加害者を増長させ、企業自身がカスハラを育ててしまったと言えます。「お客様は神様」は、カスハラ加害者のセリフに変わってしまった訳です。

——近年増加しているクレームの背景には、加害者のどの様な心理が有るのでしょうか。

桐生 従来の苦情が純粋な不満の伝達だったのに対し、近年のクレームは「自分の方がもっと知っている」「組織のやり方がおかしい」等と担当者を指導する「説教型」や、歪んだ正義感を振りかざす「処罰型」へ発展する傾向が有ります。彼らの目的は実利の獲得ではなく、承認欲求の充足に有り、構造としては自分より弱い立場の者を狙う煽り運転とほぼ同じです。全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟がサービス業従事者3万3133名を対象に行った調査(24年)では、直近2年以内にカスハラ被害を経験したと回答した人は46・8%に上ります。しかも同同盟の調査は17年から継続されており、この数値は一向に改善されていません。私はこのデータをプロファイリング手法で分析し、加害者を被害業種別に4つのグループに大別しました。60代男性が中心で上役からの謝罪要求が目立つ小売業の第1グループ、50代男性が中心で長時間拘束や理詰めが特徴のインフラ・ホテル業の第2グループ、女性比率が高く人格否定や威圧的言動が目立つ飲食業の第3グループ。そして医療・介護業界で顕著な第4グループは60〜70代が中心で、被害の長期化やセクハラまがいの言動が目立ちます。


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