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「国論を二分する政策」が招いた「女性の高市離れ」

「国論を二分する政策」が招いた「女性の高市離れ」

首相の叫ぶ「国益」とは国民の利益か、戦前回帰派の権益か

高市早苗政権下で迎えた戦後81年の夏。人類は先の大戦の惨禍から何を学んだのか。核大国が非核保有国を威圧して恥じない国際秩序の荒廃に私達は為す術を持たないのか。広島・原爆の日の8月6日、高市首相は平和記念式典の挨拶で「我が国は『非核三原則』を堅持しており、唯一の戦争被爆国として、核兵器の無い世界の実現に向けた努力を弛まず続けていく使命を担っています」と述べた。

 「堅持する」でも「堅持していく」でもなく「堅持している」。政府の現行政策を説明しただけで、そこに高市政権としての方針や意思は含まれない。現職首相の式典出席が定着した1994年以降、2015年当時の安倍晋三首相が非核三原則に言及しなかった例(事務方のミスだったとして3日後の長崎の式典では堅持を表明)が有るものの、堅持の方針ではなく現状説明に止めたのは高市首相が初めてだ。

 我が国の国是とされてきた非核三原則「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」の内、「持ち込ませず」を見直し、緊急時には米国の核兵器搭載艦船・航空機が寄港、通過出来る様にすべきだというのが高市氏の長年の持論。首相就任後は発言を控えているが、現状説明の式典挨拶は「持ち込ませず」見直しへの意欲を示したものと受け止められた。

 中国、ロシア、北朝鮮という、核兵器を保有する権威主義国家の脅威と向き合わなければならない我が国の為政者として、安全保障政策を不断に見直す姿勢は理解出来る。だが、その前提として過去の歴史を直視し、日本の国家としての在り方を国民全体で議論しながら共有していく事が求められる。

 日本は嘗て国際秩序に挑戦する権威主義国家陣営の側で第2次世界大戦を戦い、亡国の敗戦を喫する中で数百万の国民が「天皇の赤子」として命を落とし、アジア全体に数千万の犠牲を強いた加害の歴史を持つ。その反省に立って極東国際軍事裁判(東京裁判)の判決を受け入れ、国際秩序を率先して守る国連中心主義を掲げて国際社会に復帰し、諸外国からの信頼を得てきたのが戦後の日本外交だ。

過去の戦争は反省せず、非核三原則は堅持せず?

 しかし、高市氏等、自民党の保守系議員や日本維新の会の幹部等が深い関係を持つ愛国運動団体「日本会議」は、先の大戦は「自存自衛の戦争」だったとして「東京裁判史観」を否定する。高市氏は戦後50年の1995年、国会の不戦決議に反対し「少なくとも私自身は、当事者とは言えない世代ですから、反省なんかしておりません」と言い放っている。

 そうした歴史観の延長線上に有るのが、天皇を「国民統合の象徴」と位置付けた戦後憲法下、上皇陛下と今上陛下が築き上げてこられた「国民に寄り添う皇室」像から、「日本民族の家父長」として君臨した戦前の天皇像に戻そうとする皇室典範の改正である。「国民に寄り添う皇室」の継承者として多くの国民から敬愛される愛子様の血統が将来の皇室に残るのを封じ、悠仁様以降の皇統を「国民に寄り添う皇室」を知らない旧宮家の男系男子に繋ごうとする戦前回帰の策謀を国民はすんなり受け入れるのか。

 皇室典範の改正を強行した国会審議が進む中、報道各社の世論調査で高市内閣の支持率が急落した。毎日新聞が7月に実施した世論調査では内閣支持率が6月の51%から10㌽減の41%と、政権発足以来初めて5割を割り、不支持率が44%となって支持・不支持が逆転した。注目すべきは男女別の支持率だ。男性では支持が50%と尚も半数を維持したが、女性では支持36%と4割を割り込んだ。

 女性天皇を容認する世論は女性でも男性でも多数を占めており、「愛子天皇」の芽を摘む皇室典範改正が女性の支持率急落に直結したと言えるかは微妙だ。毎日新聞の7月調査では「女性天皇を認めるべきだ」が72%(男性67%・女性78%)に上り、認める層の内閣支持率は37%に沈んだ。影響は有るかもしれないが、決定的な理由と迄言えるかどうか。

 本稿を執筆している8月上旬迄に内閣支持率が5割を切ったのは、国内主要報道機関8社の中では毎日新聞と時事通信の世論調査だけだが、この2社を除く報道各社の世論調査は電話で行われており、特殊詐欺が横行するこの御時世、知らない番号から掛かってくる調査の電話に応答する人の大半は中高年男性が占めるとみられる。毎日新聞は詐欺被害に遭う心配の無いインターネット調査、時事通信は面接調査を採用し、どちらも回答者の性・年代比率が人口構成に即している事から、女性の声をより適正に反映したデータになっているのかもしれない。毎日新聞調査では、今年3月から女性の内閣支持率下落が男性に先行する形で進行していた。

日米協調為替介入で作ったトランプ氏への「借り」

「責任ある積極財政」を掲げ、日本列島を強く、豊かにすると訴えて2月の衆院選で圧勝した高市政権だが、円安・物価高で国民の生活は苦しくなるばかり。経済が上手く行かないから、外交・安全保障分野で「高市カラー」を押し出して保守層の歓心を買おうとする。国家・国益を振りかざすタカ派政策は、腕っ節の力こぶを誇示したい一部の男性層には刺さっても、初の女性首相に期待した女性層は「首相は私達の方を見ていない」と興醒めしていく。「国論を二分する政策」を進めれば進める程、それを支持する層は喜ぶが、支持しない層は疎外感を抱き、国民の分断が進む。その流れの中で顕在化したのが「女性層の高市離れ」と見るべきだろう。

 民主主義国家に於いて主権者たる国民の利益と、国民を統合する国家の権益は相反しない筈だが、権力を握った側はしばしば、権力側の利益と国家の利益を混同し、個人の権利・自由より国家を優先する国家主義に傾く。その際に利用されるのが国民の分断だ。民主政治とは本来、国民を統合する為に説明と議論を尽くし、国民の間に有る利害の調整に注力すべきものなのに、高市政権は「国論を二分する政策」を強行する事で国民の分断を広げる道を選んだ。

 主権者たる国民は、国家権力側の主張する国益が真に国民全体の利益と言えるのか、権力を握る特定の人々の利益にすり替えられていないかを見極める必要が有る。国家情報会議の設置、国旗損壊罪の創設、皇室典範の改正と続いた国家主義的政策は、高市政権が真に国益と考える信念に基づくものなのかどうか。国家情報会議設置の先に政権が見据えるスパイ防止法の制定や、年末の安保関連3文書の改定に向けて日本維新の会が求めている非核三原則の見直しを含め、何れも日本会議が主張してきた戦前回帰政策の一環である事を考えれば、そこに戦後民主主義を修正する意図を疑わなければならない。

 今後の高市政権を左右するのは、来年4月から2年間に限って食料品の消費税を1%に引き下げる減税政策の成否だろう。これが財政への信任を低下させ、更なる円安・債券安の引き金になるなら、国民にとっては減税の恩恵どころか、インフレ不況が生活を直撃する最悪のシナリオも想定される。

 2022年、英国史上3人目の女性首相として注目されたトラス首相が財源無き大規模減税を打ち出してポンドと国債の暴落を招き、就任から僅か44日で辞任表明に追い込まれた。高市政権は「トラスショック」の二の舞を演じまいと、消費税減税の方針表明に合わせて円買いの日米協調介入というカードを切って見せたが、今後、減税財源の手当てに失敗すれば、一時凌ぎの為替介入と見透かされ、「高市ショック」が金融市場に襲い掛かる懸念も燻る。

 高市首相が与党内や経済界、地方自治体等の反対を押し切って進める消費税減税の政策目的は、果たして国民の利益か、首相の権益か。政権内では、為替市場の混乱に備える外為特会を減税財源に活用する案も取り沙汰されるが、外為特会は首相の財布ではない。日米協調の為替介入ではトランプ大統領が高市首相に恩を売った形で、この「借り」が日本の国益を損なう懸念も指摘しておきたい。

消費税減税等について会見する高市首相(首相官邸HPより)

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