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未来の会

人口減少で地方都市は衰退の危機

人口減少で地方都市は衰退の危機

子育てと労働環境を整備し、東京一極集中を脱却せよ

2050年には東京都を除く46道府県で人口が20年と比べて下回る——。地方では人口減少と高齢化が加速度的に進行するのに対し、東京への一極集中は強まるばかり。そんな推計を国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が昨年12月22日に公表した。こうした傾向は既に様々な統計で明らかになっているものの、歯止めが掛かっていない現状が改めて浮き彫りになった。

 社人研は5年に1度、国勢調査が実施された年から30年間の地域別将来推計人口を公表している。今回は20年の調査に基づいて都道府県と市町村別で推計し、その結果を公表した。

 推計によると、50年の日本の総人口は1億468万人で、20年と比べると2146万人減る。全都道府県の内、30%以上人口が減るのは、青森(20年を100とした50年の人口指数は61:以下同)、岩手(64・7)、秋田(58・4)、山形(66・6)、福島(68)、新潟(69・3)、和歌山(68・5)、山口(69)、徳島(66・8)、高知(65・2)、長崎(66・2)の11県。東北や四国地方で目立ち、最も低い秋田は58・4で、人口が20年の6割弱に縮小する。

 秋田県の佐竹敬久・知事は「長期的視点においては深刻なものとして受け止めている。県外に出た若い人たちを、どう戻すかが大事だ」と述べたと朝日新聞(23年12月23日付)が報じている。秋田では、高校や大学を卒業後に若者が県外に流出している事が人口減少の一因だ。若者のUターン促進や結婚に向けた出会いの場の提供など各種支援策を進めているが、思う様に効果を挙げていない。

 市町村レベルで見るとより深刻だ。50年の人口指数で最少を記録したのは群馬県南牧村で25・2。次いで、熊本県球磨村は26・7、奈良県野迫川村は27・5、北海道歌志内市で28・0、奈良県御杖村では28・5だ。南牧村では20年と比べ、4分の1迄減る見込みだ。野迫川村は20年の357人から50年には98人に迄減少する計算だ。何れの市町村も移住支援等に乗り出しているが、住居の確保等の面で移住希望者とのマッチングが上手く行かないケースも多い。

 減少率ではばらつきが有るものの、45〜50年には98・9%の市区町村で総人口が減る。半数未満に落ち込むのは約2割に達する。人口問題に詳しい大手紙記者は「自治体運営に支障を来す市町村も出て来るだろう。移住支援による人口増加策も限界となり、広域連携等をより考えて行かないといけない局面に入るだろう」と語る。

46道府県で2割以上が後期高齢者に

 人口減少と共に高齢化もより進む。75歳以上が2割を超える都道府県は20年ではゼロ。だが、50年には東京以外の46道府県で2割を超える。50年に75歳以上の割合が最も高いのは、こちらも秋田だ。32・2%とおよそ3人に1人が75歳以上となる。次いで青森(31・1%)、高知(29・5%)、岩手(29・1%)、徳島(28・8%)と続く。全国平均も23・2%と高く、25%を超えるのは28道県に上る。

 一番低い東京で17・5%。東京に次ぐのは沖縄だが、20・4%と2割を超え、福岡(21・3%)の順に低い。一般的に75歳を超えると医療費が嵩み始めるとされており、社会保障費の伸びにも拍車が掛かる可能性が有る。

 14歳以下の総人口も減る。これは全都道府県に及んだ。50年には秋田県で総人口に占める割合は6・9%に迄低下する。青森(7・4%)、岩手(8・0%)、福島(8・2%)、山形・北海道(8・5%)が続く。人口減少率や高齢化率と同様に東北の各県が目立つ様だ。

 一方で、東京の「一人勝ち」の様な状況が暫く続く見込みだ。日本の総人口に占める東京の割合は、20年は11・1%だったが、50年には13・8%に上がる。バブル絶頂の1990年で9・6%だった事を考えると、増加の一途を辿っている。

 背景に在るのは地方の経済や産業の衰退だ。北海道夕張市に象徴される様に地方に点在した炭鉱都市は何れも衰退した。中国やインドネシア等人件費が比較的安いアジア諸国に国内の大手メーカーの工場は移転した。若者の雇い入れ先が無くなり、就職や進学のタイミングで東京都心に転入する流れが続いているからだ。現在も20代の若者は転入超過だ。

 特に、若い女性の転入超過が著しい。総務省の人口移動報告によれば、2021年は東京への転入者は転出者よりも5433人多かった。男性の転入者は22万2220人で転出は22万3564人と転出超過だった一方で、女性は転入が19万7947人に対して19万1170人が転出と大幅に転入超過だった。東京の転入超過は女性によって維持された格好となっている。

産み働き易い社会改革で人口流出に歯止めを

多くの有識者が指摘するのが、東京には女性が社会で活躍しやすい環境が整っているという点だ。企業の本社が集中し、正社員で採用され易く、保育所も整備されている。物価は高いものの、若い世代が希望する共働きが地方よりも可能だ。産業に乏しい地方では、女性は非正規雇用が中心となり易く、働く環境も男性が中心だ。こうした地方特有の事情を嫌って女性の東京への転入は止まらないと見える。

 一方で、大学を卒業して正社員として働き始めても、教育費や住居費等が高く、東京は子育て環境として整っていない面も多い。政府は、子供を持ちたい人の希望が叶った場合に見込める出生率「希望出生率1・8」の実現を目標に掲げるが、1人の女性が生涯に産む子供の数に相当する合計特殊出生率は22年で1・26(全国平均)とその差は大きい。東京に至っては1・04と最下位だ。

 家族社会学が専門の山田昌弘・中央大教授は「子どもを産み、育てるためには男女ともに育児休業を取得しやすい環境作りが欠かせない。欧州ではフリーランスの取得制度が整備されている国もある。日本でも議論が始まっているが、その歩みは遅れており、検討を急ぐ必要がある」と読売新聞(23年12月23日付)にコメントしている。

 岸田文雄・首相が掲げる異次元と銘を打った少子化対策もインパクトに欠ける内容ばかりで、医療や介護の改革工程を見る限り社会保障費への切り込みも中途半端と言わざるを得ない。少子高齢化を克服して反転攻勢のムードは乏しい。

 そこで政府が頼るのが外国人の流入増加だ。22年10月末時点で日本で働く外国人は約182万人に上る。前年から5・5%増加し、国籍別ではベトナム、中国、フィリピンの上位3カ国で100万人を超える。12年は約68万人なので、この10年で100万人以上増えている計算となる。在留資格でみると、永住者らが多いものの、約2割を技能実習が占める。政府は「奴隷制度」と海外から悪名高かった技能実習制度に変わる新制度を始めたい考えで、別の受け入れ先で働く「転籍」がこれ迄よりも容易になる等、選ばれる国を目指して人権重視を意識している。しかし、自民党内から反発を受けており、思う様に制度作りが進んでいないのが現状だ。

 子育て環境の整備や社会保障制度の持続可能性、外国人の受け入れ等、表には現れ難い諸課題は徐々に深刻化している。岸田政権は先日の少子化対策をまとめただけで終わらせる事無く、あらゆる面で不断の取り組みが求められる。権力闘争をして立ち止まっている場合では無い。

 

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