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未来の会

第8回「精神医療ダークサイド最新事情」精神科病院は「保安」組織なのか?

第8回「精神医療ダークサイド最新事情」精神科病院は「保安」組織なのか?
診療の向上で「医療」に転換を

 NHKが今年7月末に放送したETV特集「ドキュメント 精神科病院×新型コロナ」の中で、日本の民間精神科病院を束ねる日本精神科病院協会の会長・山崎學さんがふと漏らした言葉が波紋を広げた。

 「精神科医療というのはね、医療を提供しているだけじゃなくて、社会の秩序を担保しているんですよ。街で暴れている人とか、そういう人を全部ちゃんと引き受けている」「一般医療は、医療するだけじゃないですか。こっちは保安までも全部やっている」

 山崎さんといえば、同協会機関誌の巻頭言で「精神科医にも拳銃を持たせてくれ」という自院の勤務医の発言をそのまま引用して批判を浴びるなど、お騒がせな会長として知られる。無防備で「開き直り」とも取れる発言が、精神科病院のあり方に批判的な人たちを刺激するのだ。今回の「保安」発言でも、方々から反発の声が上がった。「精神疾患の患者は秩序を乱す存在だと決めつけている」「医療機関が保安を担うなど言語道断」等、もっともな批判といえる。

 だが私は、公共放送で業界の本音や実態を明かした山崎さんに拍手を送りたい気分だった。1950年代以降、国の隔離収容政策のもとで乱造された日本の民間精神科病院は、生まれながらにして「保安」の役割を担わされてきたのだから。

 8月半ば、東京・芝浦の日精協会館で山崎さんの真意を聞いた。「あの番組の収録には3時間も協力して、コロナ対策についてたくさん語ったのに、関係のない部分が使われた。あの流れで聞くと『保安』の部分は唐突で、変なことを言っているように聞こえるかもしれないが、間違ったことは言っていない」と山崎さんは強調した。更に「精神疾患のために街で暴れる人たちを、民間精神科病院がずっと受け入れてきた。本来は公的機関の仕事なのに、公は責任逃ればかりでやらないから、民間の我々が担わざるを得ない」と不満を語った。

 強制入院の一種である措置入院は、「自傷他害のおそれ」を要件とする。実際、家族を殴ったり家で暴れたりして措置入院になった経験のある人は、私がよく出入りする福祉事業所にも多く、レアケースではない。特に目立つのが、引きこもりを経て暴力に至るケースだ。長期の引きこもりは、真偽はともかく、その背景に「精神疾患がある」との解釈も可能なので、被害者である家族が刑罰を望まなければ強制入院につながりやすい。その際には、強制入院を成立させるためのご都合主義的な診断名が付けられることがある。典型的な幻聴や妄想がなくても、拡大解釈で「統合失調症」などとされるのだ。

 暴れる患者の多くは、理由もなしに脳が暴走するのではない。どうにもならない強いストレスを受け続け、追い込まれた結果、暴れるのだ。そのため入院治療でも、生活環境の問題やトラウマへの対処が重要になる。ところが、強制入院を喜んで引き受ける精神科病院の多くは、「面倒」で「手間のかかる」治療はしない。強い向精神薬で鎮静し、隔離や身体拘束までも用いて黙らせる。病院によっては電気ショックまでも利用する。そして患者たちは、生きるエネルギーを削がれてトラウマを深め、リカバリーからますます遠のいた状態で地域に戻り、福祉の世界に滞留していく。

 精神科病院が「保安」組織であり続ける現状は、精神医療の質の低さを物語っているともいえる。「保安」ではなく、「医療」を堂々と名乗れるような診療のレベルアップを望む。


ジャーナリスト:佐藤光展

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