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第168回 政界サーチ 〝出直し解散論〟の虚実

第168回 政界サーチ 〝出直し解散論〟の虚実

岸田文雄政権の低空飛行が続いている。安倍晋三・元首相の国葬敢行では、国家を二分した「分断の責任」を問われ、政権発足1年の節目は「不支持率5割」 という厳しい数字に見舞われた。国会では旧統一教会を巡って野党の攻勢が続き、首相官邸の活性化を目指した長男の政務秘書官起用も「身内贔屓」の批判が絶えない。やる事なす事が精彩を欠き、選挙に縛られずに腕を振るえる筈の「黄金の3年間」が霞んで来た。

 「長男の翔太郎さんは公設秘書であり、いずれ首相官邸の政務秘書官だろうと見られていたよ。先例は枚挙に暇が無いし、おかしな人事ではな↘い。でも、バッドタイミングなんだよな。世論が見えていないのかな。民間勤務の経験の有る翔太郎さんの起用は正に世論に機敏に反応出来るようにする狙いだったのにね」

長男の秘書官起用の真意は?

 自民党中堅は岸田首相への世論の風当たりが嘗て無い程強いと分析している。原因は庶民の財布を直撃する物価高と旧統一教会を巡る自民党のごたごたぶりに在ると言う。岸田首相が臨時国会の所信表明演説で旧統一教会の問題に言及し、「国民の厳しい声にも、謙虚に向き合う」と述べたのも世論の厳しさを痛感したからに他ならな↘かった。

 「所信表明演説で個別の宗教団体の話が持ち出されるなんて異例中の異例だ。嘗て、オウム真理教の事件が首相の演説で取り上げられた事が有るが、あれは国民に死傷者を出すテロ事件になっていたからだ。オウムは政府に敵対する組織だったから、懲悪で対処出来たけど、旧統一協会は政府に擦り寄り、内部に寄生する団体だから始末が悪い。すっきりさせるには、関連の濃い政権幹部を切り捨てる覚悟が要るからね。でも、党内のパワーバランスで、そうさせてはもらえない。はっきりしないから、国民の疑念は容易に晴れない」

 長男の政務秘書官起用が思わぬ世論の反発を↖受けたのは、人事そのものではなく旧統一教会を巡る対応への不満の表れだ、と中堅議員は見ている。自民党のベテラン議員は違う角度から政務秘書官人事を捉えている。

 「岸田首相は後継をはっきりさせようとしたんだろうね。名門政治一家を継ぐ、次世代の首相候補のデビュー戦といった所かな。デビューは早い程良い。小泉進次郎さんを見れば分かるよね。意識したのは当選同期の安倍元首相だったんじゃないかな。若いうちから、右派のホープとして注目されていたからね。岸田さんはどちらかと言うと地味だった。宏池会は東大卒の官僚OBが中心 だったからね。左派とは言わんが、自民党リベラルのホープ作りの第1弾と受け取ったね。親心半分、自民党総裁としてリベラル勢力を育む責任感が半分だろうね」

 ベテラン議員は「と、ここ迄は建前で」と一呼吸置いて、語り出した。

 「政務秘書官人事を巡って、党内には2つの見方が有る。1つは、来年春の統一地方選での敗北が前提だけど、5月に地元の広島市で開かれる主要国首脳会議(G7広島サミット) を花道に岸田首相が退陣するという花道論だ。長男に勉強させる機会を作ったのはその為という見立てだな」

 支持率が低迷しているとは言え、衆参両院で多数を握る現状で、政権をポイ投げするとは思えないが、広島サミット花道論は政権誕生から言われて来た事ではある。

 「もう1つが問題なんだ。円安は簡単には止まらない。世界の潮流だからね。ウクライナ情勢は予断を許さないが、ロシアが苦境なのは確かだ。タイミングは難しいが、国民の旧統一教会への憎悪を逆手に取って、悪貨を駆逐すれば良い。そう、衆院解散に打って出る。所謂、〝出直し解散論〟だ。リスキーだよね。自民党惨敗なら、即、首相退陣だしね。サミットもクソも無い。中国で習近平体制の継続が決まり、日中交渉の環境も整って来た。米国の中間選挙(11月8日) も見定め、経済状況も勘案しながらのワンチャンスだろうな。岸田首相は大人しそうに見えるが、強いウォッカを一気に飲み干す酒豪でもある。やるかもね」

 花道と解散……。両極端の見立ては、ベテラン議員らの酒の肴の様な気もするが、支持率回復に妙案の無い岸田官邸が置かれた厳しい状況は窺い知れる。3年間有るのだから、山谷は繰り返し訪れる。若い長男の官邸起用は、長期戦略を念頭に置いたとも取れる。退陣、解散といった極論ではなく、状況を見定め、全ての選択が可能なように「守備固め」をしたと受け取っておいた方が無難だろう。

気になる山口4区補選

ベテラン議員が岸田首相退陣の引き金になり得ると指摘した来年の統一地方選とは別に、東京・永田町で耳目を集めている選挙が有る。安倍元首相の死去に伴って行われる衆院山口4区の補欠選挙である。山口県は小選挙区定数「10増10減」案で定数1減の対象となっており、次期衆院選では小選挙区が3つになる事が確実視されている。山口4区は安倍元首相と林芳正・外相の先祖伝来の地盤で、その争いは先々代から続いている。言わば両家の因縁の地である。補選は現行の区割りで、来年4月以降に実施される。ここで、安倍元首相の後継候補が当選すれば、次期衆院選で林外相との間で、激しい公認争いが起こるのは避けられない。林外相は岸田派のナンバー2で、次世代の首相候補の1人とされる。安倍元首相の後継候補如何だが、岸田首相も巻き込んだ党内争いの火種に成り兼ねないと、自民幹部らが気を揉んでいる。

 そういう背景が有るから、現地では安倍元首相の死亡直後から候補者調整に動き出した。4区で連戦連勝の安倍元首相の弔い選挙であり、「後援会がまとまれば安泰だ」との観測も有ったが、人選は殊の外、難航している。

 自民党選対関係者によると、安倍元首相の母で、安倍家のゴッドマザーと称される洋子氏(岸信介・元首相の娘) が安倍元首相の通夜で「孫を出す」と発言した事で、後継問題が複雑化しているという。この発言で、有力視されたのは安倍元首相の兄の長男だが、本人は出馬を固辞したと伝わる。別の候補として、安倍元首相の弟、岸信夫・首相補佐官(山口2区選出) の長男も挙がったが、山口2区の後継が有力視されており、補選出馬の可能性は薄いという。

 後援会が当初、期待を寄せたのは安倍元首相の妻・昭恵氏だったが、その昭恵氏は葬儀のお礼に訪れた安倍派の総会で「補選には出ません」と明言した。補選が半年後に迫る中、後継候補がなかなか定まらないのだ。

 じれた山口県連内では「身内が駄目なら、安倍系の地方議員をショートリリーフで擁立」「敢えて誰も出さない」等の声も出始めているという。補選はパスして、次期衆院選に向けてじっくりと準備をしようという作戦だが、「元首相の後継決定にもたつく弱い組織と見下され、次期衆院選の公認調整に悪影響が出るのではないか」との懸念の声も出ている。

 一方、首相派閥の林外相の後援会は「現職優先の原則」を掲げ、「新たな3小選挙区は林、岸両氏と高村正大・前財務政務官の3人にするのが当然だ」とのスタンス。安倍家のゴッドマザー、洋子氏が伝統の地盤を易々と譲るとは考え難く、〝安倍・林戦争〟は避けられないとの観測がもっぱらだ。「安倍さんが存命でも公認争いは避けられなかっただろうが、後継問題絡みで複雑な事になっている。年明け前後迄には決めなきゃならないが、最後の最後迄もつれそうだ」と自民党選対関係者は頭を抱えている。

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