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「医療の最前線」で新型コロナに立ち向かう ~医療従事者と病床を確保し治療薬の臨床試験を~

「医療の最前線」で新型コロナに立ち向かう ~医療従事者と病床を確保し治療薬の臨床試験を~
大曲 貴夫(おおまがり・のりお)1971年佐賀県生まれ。97年佐賀医科大学医学部医学科卒業。聖路加国際病院内科レジデント。2001年会田記念病院内科。02年テキサス大学ヒューストン校内科感染症科クリニカルフェロー。04年静岡がんセンター感染症科医長。07年同部長。11年国立国際医療研究センター病院感染症内科科長。12年同国際感染症センターセンター長。17年総合感染症科科長(併任)、AMRリファレンスセンター長(併任)。19年理事長特任補佐(併任)。Master of Science in infectious diseases (University of London)、医学博士。

新型コロナウイルスの感染が国内に広がり、この新しい感染症との闘いは長期戦の様相を呈してきた。新型コロナウイルス感染症とはどのような病気なのだろうか。また、日本の医療はどのように対応し、どのような戦略で闘おうとしているのだろうか。ウイルスが日本に入った当初から、最前線でこの病気と対峙してきた感染症の専門家に話を聞いた(4月17日)。

——現在、日本はアメリカやイタリアのような状態にはなっていません。何が違ったのですか。

大曲 諸外国の流行も日本の流行も、基本的には外国から入ってきた患者さんがいて、そこから2次感染、3次感染が起きて増えている状況です。海外から入ったウイルスを、公衆衛生対策として、うまく制御出来たかどうかの差なのかなと思います。ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)と言いますが、人と人の接触を避けたり、外出を避けたりする事が有効だという事は分かっていたわけです。そういった事を、早い時期からしっかりやれていたかどうかが、流行の差に影響を及ぼしているのかなという気はします。例えばアメリカでも、州ごとに対策に違いがあったようで、やはり最初から厳しくやったところが抑えられているようです。そういう意味で、日本の対策が早かったかというとよく分かりませんが、検疫はしっかりやっていたし、感染が市中に入ってからのクラスター対策も、日本はすごく頑張ってきました。今までのところは、それである程度の成果が出ているのかと思います。

——新型コロナ感染症で分かってきた事は?

大曲 ほぼ皆さんそうですが、最初は風邪と同じような症状が出ます。微熱、喉の痛み、鼻水等です。ただ、風邪は症状のピークが3〜4日目ですが、この病気の症状はだらだらと続きます。風邪が良くならない、という感じです。8割の人は、そうした状況が10日から2週間続いて治っていきます。残りの2割の人たちは重症化して、7〜10日目あたりから咳が出たり、呼吸が苦しくなったりします。それで胸部CTを撮ると、肺に影が見つかって肺炎になっている事が分かります。そして、最終的には5%前後の人が重い肺炎になって、人工呼吸器が必要になります。同じウイルスによる病気なのに、症状の軽い人から重い人まで幅が広い不思議な病気です。高齢の方や合併症を持つ方が重症化しやすいのですが、80代で感染しても軽い風邪で済む人もいれば、20代、30代でも急に悪化して、人工呼吸器が必要になるようなケースもあります。不思議な病気です。

必要な検査が行えるシステムを作る

——PCR検査の実施数が諸外国に比べて少ないようですが、これで良いのですか。

大曲 日本では主に肺炎の患者さんを中心に陽性者を探していくという方針で、その診断のためにPCR検査をやっていたのですが、3月前半くらいまでは、その方法が機能していたと思います。ただ、3月後半以降、患者数が急に増えてきたために、それまでの体制では十分に対応出来なくなったのだろうと思います。PCR検査を円滑に行うにはいろいろ複雑な手続きがありますし、それが円滑に流れるようには必ずしもなっていなかったという事だと考えています。保健所の受け入れ電話がパンクしていたり、検査を引き受けてくれる医療機関がなかなかなかったりして、そのため必要な検査になかなか対応出来ないという事はありました。PCR検査がきちんと十分な数行えるように、途中の段階で油を差して、システムがきちんと動くようにしていく必要があったのだと考えています。仕組みが足りないなら作らなければならないし、バリアになっているものがあるなら取り除かなければなりません。結果的に、これからPCR検査は増えていくと思います。

医療従事者を守る事で医療を守る

——東京都新宿区で、検査をスムーズに進めるための新システムが出来たそうですね。

大曲 新宿区にある当院では、PCR検査を行う外来を3月頃からやってきたのですが、感染者数が増えるのに伴って検査を受ける人が増え、1日に100人を超えていました。これは医療機関としてもかなり負担です。患者さんはいろいろな地域から来ていて、中にはかなり具合の悪い方も含まれていました。体調が悪いのに検査を受けられずに困っている人が結構いる、という事が分かってきたのです。これは感染症対策としてもいい事ではないので、患者さんが必要な検査をちゃんと受けられるようにしようという事で、新しいシステムを作る事になりました。特定の医療機関にだけ負担がいくのではなく、診療所の先生方も、中小規模病院の先生方も、大学病院やうちのような病院の先生方も、ちゃんと関われるようになっています。自然発生的にそういう話が盛り上がってきて、新システムをスタートさせる事になりました。新型コロナに対応していくには、流行の状況等に合わせて、医療体制を柔軟に作り換えていく必要があると思います。その1つの現れが、今回の新宿モデルかなと思います。

——医療崩壊の危機と言われていますが。

大曲 まず、医療崩壊をどう定義するかという話が必要でしょう。多分、皆イメージがばらばらなのだと思います。医療にとって重要なのは、なるべく死亡する人を減らす事、亡くなる人を出さない事ですから、そうならないように重症者を適切に診療出来る事が大切です。そのための医療体制が壊れてしまった状態が医療崩壊である、という定義の仕方はあると思います。一番きつい定義ですね。そういう事が日本でも起こり得るのかと考えてみると、東京でも起こり得るし、地方でも起こり得ると思います。

——特に東京は患者数が増えていますね。

大曲 ニューヨークとか、イタリアのミラノとかを見ていて思うのは、あれは決して他人事ではないという事です。東京でも十分に起こり得るし、ああいう状態は見たくないので、我々は騒ぎ過ぎ等と言われながらも大騒ぎしてきたわけです。一方、医療崩壊の定義を甘めに設定して、医療の歯車がどこかでちゃんと回っていない事が医療崩壊だとすれば、そういう事はあちこちで起きています。外来で診てくれる医師がいないとか、検査をなかなか受けられないとか、救急車の受け入れ先が決まらないとか、それらは医療の機能不全である事は間違いないわけですが、これを医療崩壊という人もいます。ただ、医療崩壊という言葉はあまり軽々しく使う言葉ではないと思います。

——医療崩壊を防ぐために重要な事は?

大曲 やっぱり人でしょうね。医師や看護師が足りなくなった状況というのが、一番厳しいし、なんとしても避けなければならない状況です。足りなくなる要因は2つあります。1つは、患者さんがあまりにも多くなり過ぎて、相対的に医師や看護師が不足する場合。もう1つは、医師や看護師が病気になったりして、医療現場にいる数が減ってしまう場合です。

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