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「サル痘」は第2のHIVになるのか

「サル痘」は第2のHIVになるのか
国内でも確認。「偏見を持たず正しく恐れる」対策を

ついに日本でも感染者が報告された「サル痘」。欧米を中心に世界的流行が続くが、欧米で報告された患者の多くはゲイコミュニティーの男性という特性から、早くも「HIVの再来ではないか」と恐れられている。当時の苛烈な差別を教訓に、今回はそうした差別を広げるべきでは無い。気になるのは、急速に広がり始めたこの感染症が、HIVの様に死に至る病となってしまうのかどうかだ。

 「一時的かと思われた欧米での流行は収まらず、日本に入って来るのも時間の問題だと思っていた」と語るのは、感染症の取材が長い医療ライターだ。

 東京都は7月25日夜、欧州から戻った東京都内在住の30代男性がサル痘に感染していたと発表した。男性は6月下旬に欧州に行き、7月中旬に日本に帰国。帰国後、倦怠感や発疹、発熱、頭痛等の症状が有った為医療機関を受診し、東京都健康安全研究センターの検査で7月25日にサル痘と確認された。男性は欧州で、後にサル痘と診断された患者と接触が有ったという。

 「国内でサル痘の患者が確認されたのは初めて。普段なら大騒ぎになる所だが、今回はちょうど、新型コロナウイルスの第7波が急拡大している時期だった。その為、サル痘の話題が連日、大きく扱われる事は無く、患者のプライベートの情報もそこまで深掘りされなかった」と前出のライターは振り返る。確かに、連日、都内で2万人、3万人、4万人と凄い勢いで新型コロナの感染者が確認され、医療崩壊が叫ばれていた時期である。接触が無ければ広がる事は無いサル痘よりも、身近に感染者が次々と出ていた新型コロナの方に、皆の関心が行っていたのは理解出来る。

 ただ、報道はそこで終わった訳では無い。3日後の28日には、国内2例目のサル痘患者が報告されたのである。今度は、都内に滞在中の北中米に住む30代の男性で、7月27日に口内粘膜疹の症状で都内の医療機関を受診し、同日、サル痘に感染している事が分かった。

 「立て続けに2例確認された事で、国内でも感染拡大かと焦ったが、1例目と2例目の患者に接触は無かった。国内で感染が広がっている訳では無いと分かり、加えて患者が国内在住者では無かった事から、やはり報道は過熱しなかった」(同)

 2人とも国内でサル痘と確認されただけで、感染したのは海外と考えられる事、又、症状が有った為受診したものの容体は安定していて重篤では無かった事も安心材料となった。2人にはそれぞれ1人ずつ、国内に接触者がいたというが、感染は確認されていない。

サル痘の具体的な症状と治療法

 サル痘とは、どの様な感染症なのか。厚生労働省や感染症に詳しい医師によると、病原体はサル痘ウイルスで、アフリカにいる野生のサルやウサギ、リス等の動物と接触する事で感染し、7〜14日間の潜伏期間を経て発症する。発熱や頭痛等の風邪症状が現れ、その後、顔や手足等の皮膚に発疹が出る。ただ、今回の世界的流行では、発熱等の前駆症状が見られずに発疹が出る例も多く報告されている。又、発疹が出る部位も、肛門や性器等、接触が有った場所に多いという。

 発疹は殆どが数週間で自然に治り、医療が十分で無い地域での死亡例は有ったが、先進国での死亡は稀だ。日本では、動物や植物由来の感染症で、人から人への感染が稀な「4類感染症」に指定されている。治療薬として、天然痘とサル痘の治療薬として海外で使われている飲み薬「テコビリマット」が国内でも使用出来る可能性が有る。又、天然痘のワクチンにはサル痘の予防効果も有る為、厚労省は患者と接触する可能性が有る医療者に予防として接種する事を認めている。

世界的な感染拡大となった背景に何が

これ迄もアフリカでは感染が確認されていたサル痘だが、何故今、世界的な広がりを見せているのか。CDC(アメリカ疾病対策センター)によると、7月29日時点で世界79の国や地域で、約2万2500人の感染が確認されている。WHO(世界保健機関)は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言。アメリカ国内で最も多くの感染者が確認されているニューヨーク州や次に感染者が多いカリフォルニア州も非常事態を宣言し、ワクチン接種の動きを加速させている。

 患者の広がりと共に、各国からの症例報告も集まって来た。学術誌NEJM(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)に掲載された国際共同研究論文は、2022年4月27日〜6月24日の間に16カ国でサル痘と診断された528人の患者の症例を分析。患者の98%は男性と性交渉を行った男性で、年齢の中央値は38歳だった。

 気になるのは、患者の41%がHIV感染者であった点。又、検査を受けた377人中109人(29%)からは性感染症も見付かった。患者の増加に伴いブラジルやスペイン、インドでは死者も報告されたが、死者の中には免疫不全等の持病を抱えていた患者も居る。効果的な薬物の開発により〝死の病〟では無くなったHIVだが、サル痘への感染により治療が複雑になる恐れが有る。そもそも感染者が増えれば重症患者や死者が増えるのは新型コロナが証明して来た事であり、サル痘でもとにかく、感染拡大を止める必要が有る。

 「現状、感染拡大が見られるのは男性と性的接触を持つ男性である以上、先ずはゲイコミュニティーに警戒を呼び掛ける事は大事だ」と語るのは、HIV対策に詳しいジャーナリストだ。「大きなゲイコミュニティーが有るNYやサンフランシスコで先ず問題となって、その後に感染が世界に広がって行くのはHIVと同じ。HIVではゲイへの過剰なバッシングが起きたが、今回はそうした事を防がないといけない」とこのジャーナリストは警鐘を鳴らす。確かに現在の患者の多くは男性と性交渉を持った男性だが、「同性愛者は危険だ」「ゲイ男性が病気を広げる犯人だ」といった差別的な言説を広げないよう注意が必要である。

 サル痘はこれ迄、動物から人間にうつる感染症で、人から人への感染は稀だった。ところがここへ来て、人から人への感染でここまで広がってしまった。複数の研究機関によると、人に感染する事でウイルスの変異が加速している恐れが有るという。多くのウイルスは感染を継続する中で変異して行くが、この変異の過程で人から人への感染が容易になったり、毒性が強まったりする可能性が有るのだ。

 「サル痘によく似た天然痘のウイルスは、人から人への非常に高い感染力を持っており致死率も高かった。現代では世界から根絶されたが、生物兵器としてウイルスを保管している国も有る程だ。サル痘は天然痘に比べれば致死率は低く、感染力もこれ迄は低かったが、今後、天然痘の様になって行く恐れが無い訳では無い。人の体内に有る酵素が、ウイルスの変異を引き起こすという説も有り、先ずは人から人への感染を止めないといけない」(厚労省関係者)

 感染力がそこまで強くない、重症化する事は稀、と安心してはいられない。偏見を持たず、正しく恐れる事が、全ての感染症対策の基本である。

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