SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

【「集中」の是々非々 81」】

【「集中」の是々非々 81」】

障害者雇用推進は困難な道のり?

「しかしながら、障害者との共生が求められる今の世の中」

この記事(2,487文字)は180秒でお読み頂けます。

読売新聞が複数回にわたって大きく報じた障害者雇用ビジネス。その中で指摘されたサンクスラボ(本社沖縄市)を巡る問題は、単なる仲介業者の不適切な行為として片付けてはならない。問題の本質は、障害者雇用促進法の理念を逆手に取り、企業が法定雇用率を達成したように見せかける「抜け道」として制度が利用されていたのではないか、という疑いにある。報道によれば、障害者は企業に雇用された形になっていながら、実際には企業の職場に通うわけでもなく、企業の業務を十分に担うわけでもない。支援業者の管理下で在宅勤務に近い形を取り、企業は雇用人数を確保する。つまり、障害者を本当の意味で企業の一員として迎えるのではなく、法定雇用率を満たすための「数字」として扱う構図である。これが事実であれば、制度の趣旨を踏みにじる極めて悪質な行為である。

障害者雇用とは、企業が障害のある人を職場の仲間として受け入れ、その能力を発揮できる環境を整えることである。ところが、仕事が十分に与えられず、企業との接点も極めて乏しいまま、雇用実態だけが帳簿上整えられていたとすれば、それは本来の障害者雇用とは言えない。実態を伴わない、いわば「偽装雇用」との批判を免れることは難しいだろう。

問題はそれだけではない。障害者雇用には各種の助成制度が設けられている。本来は障害者の就労環境を整え、職場定着を支援するための公的資金である。仮に制度の趣旨に反する雇用実態の下で、助成制度が利用されていたとすれば、障害者を支援するための制度を、企業の義務逃れや利益のために利用したとの厳しい批判を招きかねない。これは「知恵」ではない。「工夫」でもない。制度を欺く行為である。法定雇用率をクリアしたように見せるために障害者を利用したのであれば、企業倫理の観点から到底許されるものではない。刑事上、行政上の判断は当局に委ねるとしても、関係する企業や事業者には十分な説明責任がある。

政府は2026年7月1日から民間企業の障害者法定雇用率を2.5%から2.7%へ引き上げた。対象企業も従来の従業員40人以上から37.5人以上へ拡大された。日本経済新聞も7月2日付の社説で、障害者と共生する社会を築く重要性を説いた。まさに社会全体で障害者雇用を前に進める時期に、このような抜け道ビジネスが表面化した意味は重い。勿論、障害者雇用は簡単ではない。障害のある本人も、その家族も、将来の自立を願い必死である。しかし、希望すればすぐに就職できるほど現実は甘くない。企業側にも、受け入れ体制、仕事内容の設計、現場の理解、定着支援という難題がある。だからこそ支援事業者の存在意義は本来大きい。しかし、支援とは、企業の義務逃れを手伝うことではない。障害者と企業社会をつなぐ橋でなければならない。その橋が、法定雇用率をすり抜けるための裏道になった瞬間、制度は腐る。

実名で報じられた企業の中には、日本旅行やルイ・ヴィトン ジャパンも含まれている。報道によれば、日本旅行は読売新聞の取材に対して一部反論している。企業側の認識や実際の雇用状況については、今後、より具体的な説明が求められる。社会の公器である企業が、障害者雇用という重大な問題で説明責任を果たさなければ、その企業姿勢自体が問われる。企業は利益を上げれば良いだけの存在ではない。納税が当然の義務であるように、障害者雇用も社会の一員として果たすべき責任である。法定雇用率は、単なる行政上のノルマではない。企業の品格を測る物差しである。

障害者雇用を「数字合わせ」にしてはならない。障害者を「雇用率の駒」にしてはならない。障害のある人が働くということは、その人が社会の中で役割を持ち、誇りを持ち、自立へ向かうことである。その尊厳を企業の都合で利用することは、絶対に許されない。今、問われているのはサンクスラボだけではない。制度の抜け道を利用した企業の責任、それを見抜けなかった行政の責任、障害者雇用をきれい事として語りながら本気で現場を作ってこなかった日本社会全体の責任である。障害者雇用は慈善ではない。企業がはたすべき社会的責任である。法定雇用率2.7%の時代に必要なのは、数字を整える技術ではない。障害者と共に働く覚悟である。

『集中』では今後、障害者雇用の現場、企業の責任、制度の課題を継続的に取り上げていく。障害者の立場に寄り添い、その声を社会に届けるソーシャルハートフルユニオンとも連携し、障害のある人が誇りを持って働ける社会の実現を訴え続けたい。

また、『集中』は論じるだけの出版社ではない。2000年から「癒しと安らぎの環境」フォーラムを主催し、医療・福祉関係者約2000人が集う場を通じて、障害者支援や障害者雇用の推進にも継続して取り組んで来た。その理念は、誌面だけでなく実践にも生かされている。

現在、本誌では障害者特例子会社に編集業務の一部を委託し、誌面制作に必要な編集技術を一つひとつ指導している。一冊の雑誌が完成し、全国の読者へ届けられるまでには、障害のある皆さんの真摯な努力が積み重ねられている。自らが携わった誌面が世の中へ送り出されることが、「自分たちも社会を支えている」という誇りと働く喜び、そして生きがいへとつながることを私たちは心から願っている。

障害者雇用を数字合わせにしてはならない。企業が障害のある人を真の仲間として迎え入れ、その能力を生かせる職場を築くことこそが、本当の障害者雇用である。企業が本気で障害者と向き合う時、日本社会は初めて「共生」という言葉を語る資格を持つのである。

『集中』はこれからも、言葉だけではなく行動で障害者雇用を支え続ける。そして、障害のある人もない人も、共に働き、共に成長し、共に未来を築く社会の実現を目指して歩み続けたい。

 皆様からの情報をお待ちしております。>>>  info@zezehihi.shuchu.jp


【「集中」の是々非々 01】「大日本印刷北島社長の引責辞任」
【「集中」の是々非々 02】「悪辣な看護師派遣ビジネスで重い医療法人の財務負担」
【「集中」の是々非々 03】「日大田中理事長体制を守ってきた責任は文部科学省にある!」
【「集中」の是々非々 04】「東京にタクシーがいない・東京オリンピックにむけて大丈夫?」
【「集中」の是々非々 05】「大日本印刷北島社長の引責辞任(2)」
【「集中」の是々非々 06】「企業検診の義務化と予防医学を目指す」
【「集中」の是々非々 07】 「新型コロナウイルス対策」
【「集中」の是々非々 08】NIPT(出生前遺伝学的検査)は知る権利の一つだ」
【「集中」の是々非々 09】「地に落ちた権威・WHO」
【「集中」の是々非々 10】「世界が疑う日本発の情報」
【「集中」の是々非々 11】「新総裁候補に期待すること」
【「集中」の是々非々 12】「ファンド資金が医療法人に流入」
【「集中」の是々非々 13】「替わらない厚労省と変われない医師」
【「集中」の是々非々 14】「オンライン診療の導入を」
【「集中」の是々非々 15】「日本初の医療格付がスタート」
【「集中」の是々非々 16】「日本薬剤師連盟が頭を抱える松本純議員の行状」
【「集中」の是々非々 17】「米国医師はカルテと処方箋の記載に全精力を傾ける」
【「集中」の是々非々 18】「米国史上で最悪の医薬事件の顛末」
【「集中」の是々非々 19】「新型コロナ感染拡大の中で見る国家力」
【「集中」の是々非々 20】「尾身発言は立派の一語」
【「集中」の是々非々 21】「大学医学部の2023年問題」
【「集中」の是々非々 22】「日本の大学総長選挙が海外で注目に」
【「集中」の是々非々 23】「研究費を自ら集めまくる海外一流大学」
【「集中」の是々非々 24】「病院は不正企業の稼ぎ場なのか」
【「集中」の是々非々 25】「オリンパスの漏洩事件が医療期間へ波及する?」
【「集中」の是々非々 26】「海外メディアが配信する日本大学理事長逮捕の衝撃」
【「集中」の是々非々 27】「コロナ幽霊病棟補助金の話題が拡散中」
【「集中」の是々非々 28】「小野薬品オプジーボ訴訟から見えた日本の現状」
【「集中」の是々非々 29】「当事者になって見えたもの」
【「集中」の是々非々 30】「ジェンダー平等は時代の趨勢」
【「集中」の是々非々 31】「医療ツーリズムは国際間競争に発展」
【「集中」の是々非々 32】「岸田首相の考える健康危機管理庁(仮称)構想」
【「集中」の是々非々 33】「米連邦最高裁判所で中絶NOの判決」
【「集中」の是々非々 34】「東京電力13兆円賠償判決は医療賠償に影響」
【「集中」の是々非々 35】「東京工業大学と日本医科歯科大学の統合協議開始」
【「集中」の是々非々 36】「コンサル会社にご用心」
【「集中」の是々非々 37】「上辺だけのサービスにはご用心」
【「集中」の是々非々 38】「内部告発には迅速な対応が必要」
【「集中」の是々非々 39】「世界は混沌」
【「集中」の是々非々 40】「1000億円の損害賠償」
【「集中」の是々非々 41】「マスコミにはご用心」
【「集中」の是々非々 42】「日本の国際社会から乖離の一例」
【「集中」の是々非々 43】「日本M&Aセンターの凄み」
【「集中」の是々非々 44】「海外金融機関から期待されている集中格付」
【「集中」の是々非々 45】「有機トリチウムは恐ろしい物質」
【「集中」の是々非々 46】「海外のスパイが跋扈するお気楽な日本」
【「集中」の是々非々 47】「過疎化と高齢化がもたらす病院経営の変化」
【「集中」の是々非々 48】「強引とも思える国際基準は誰が決めるのか?」
【「集中」の是々非々 49】「新たなアインファーマシーズ事件」
【「集中」の是々非々 50】「海外臓器移植斡旋に実刑判決」
【「集中」の是々非々 51】「世界もグリニッジが標準」
【「集中」の是々非々 52】「日本の臓器移植のお寒い現状」
【「集中」の是々非々 53】「身元保証が無ければ生きていけない社会が到来」
【「集中」の是々非々 54】「日本の医療制度は世界一、秀逸」
【「集中」の是々非々 55】「製薬会社が国民から袋叩き状態に!」
【「集中」の是々非々 56】「地方の医師不足を解消するために新制度?」
【「集中」の是々非々 57】「美容医療トラブル急増」の大きなタイトル記事」
【「集中」の是々非々 58】「医師の報酬を欧米並みに高額にするべし」
【「集中」の是々非々 59】「医療現場を脅かすモンスターペイシェントの存在」
【「集中」の是々非々 60】「医師の偏在問題と僻地医療の新たなアプローチ」
【「集中」の是々非々 61】「患者代表を中医協に加える事の意義と必要性」
【「集中」の是々非々 62】「日本の女性が世界の女性と同じ権利を有する事の難しさ」
【「集中」の是々非々 63】「日本の英語力92位に転落」の記事に驚愕
【「集中」の是々非々 64】「東京女子医科大学とフジテレビに見る危機管理の欠如」
【「集中」の是々非々 65】「日本の医療の信用失墜を心配する内閣府」
【「集中」の是々非々 66】フジテレビ「調査報告書」の中立性は保たれているのか?」
【「集中」の是々非々 67】「都合の良い人間関係」が人生を壊す
【「集中」の是々非々 68】「取り残される国、日本」
【「集中」の是々非々 69】「英国最大の失敗、BREXITから学ぶ」
【「集中」の是々非々 70】「お一人さま問題が社会に与える損失は膨大」
【「集中」の是々非々 71】「画期的な手法で医療費削減を」
【「集中」の是々非々 72】「ノーベル賞2冠に輝く日本〜称賛と警鐘」
【「集中」の是々非々 73】「ノーベル賞受賞・日本の研究魂が世界から称賛」
【「集中」の是々非々 74】「日本企業が沈む中での快挙・第一三共」
【「集中」の是々非々 75】「医療は効率だけ? 患者満足度の提供が一番です!」
【「集中」の是々非々 76】「世界中が驚いた高市圧勝」
【「集中」の是々非々 77】「利益最優先の是非」
【「集中」の是々非々 78】沈黙は誰のため? 顧問弁護士や社外取締役の責任を問う
【「集中」の是々非々 79】「医師偏在と直美論争〜これは誰の責任なのか?」
【「集中」の是々非々 80】ハラスメントに時効がないのであれば、医療現場も反撃すべき

Return Top