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未来の会

第203回 経営に活かす法律の知恵袋
◉ 改正健康保険法の下での中小施設の生き残り策

第203回 経営に活かす法律の知恵袋◉ 改正健康保険法の下での中小施設の生き残り策

「健康保険法等の一部を改正する法律案」が2026(令和8)年5月29日に国会で成立した。厚生労働省の説明によると、今回の医療保険制度改革のポイントは5つある。

(1)日常的な医療に用いる医薬品の保険給付の見直し
(2)長期に治療が必要な方のセーフティネット機能の強化
(3)後期高齢者医療制度における金融所得の公平な反映
(4)妊娠・出産に対する支援の強化
(5)子育て世帯の保険料負担軽減

これらは、国民・患者の間の公平、子ども子育ての支援に着目したものではあろう。しかし、特に(1)(4)に代表されるように、保険医療費の削減の効果を持ち、そのために機能するものだと言ってもよい。

このような社会保険診療報酬縮小のトレンドの中で、特にクリニックや助産所のような中小施設は、いかにして生き残りを図ったらよいのであろうか。

保険診療の徹底した活用

保険が縮小する方向に進むと、往々にして、自由診療に逃げていく。レセプトの平均点数が高いと集団的個別指導の対象候補となる、といった姑息な手法も、自由診療への逃避に拍車をかけていく。

しかしながら、自由診療は生存競争が厳しく、優勝劣敗が顕著であると評してよい。自由診療へ向かう風が吹いたら、それは皮肉ではあるが、行政政策としては成功であろう。あとは、自由診療の中で過当競争が生じ、自然と淘汰されざるを得ない。

しかし、そもそも「レセプトの平均点数が高い」から指導対象に選定されたとしても、その指導では単に「高いから削る」というわけではない。レセプトの平均点数が高くとも、きちんと保険診療のルールを守ってさえいれば(たとえば、カルテを適宜適切に記載してさえいれば)、点数を削られるわけではないのである。多くの医師は、このことを誤解し、あたかも「レセプトの平均点数を削られる」と思い込んでしまっているように思う。

生き残る道は、自由診療への逃避ではなく、(保険診療のルールを適切に守った上で)保険診療を徹底的に活用し、適正な範囲で点数を取得することなのである(もちろん、そのために知恵と手間が不要だと言うほど容易なわけではない)。

出産「助産所」という選択も

中小施設の典型である「助産所」を例にとると、26年6月3日付け朝日新聞(瀬川茂子記者)の、「出産『助産所』という選択も 希望に沿い、妊娠期〜産後を助産師がケア」という記事で「助産所」が紹介されていた。記事中で、「神戸市内の住宅街にある毛利助産所」の毛利多惠子助産師は、「助産所は、妊娠中の体づくり、出産から卒乳まで長期間のケアを提供することが特徴だ」と説明する。「出産前に助産所に通い、出産時は助産師に自宅に来てもらって出産する人もいる」らしい。さらに、奈良女子大の松岡悦子名誉教授(文化人類学)は、「助産所や自宅で出産するのはわずか0.5%で、助産所の存在を知らない人も多い。だが助産所や自宅では第2子以降を生む人の割合が高い。その理由を考えることが重要だろう」と指摘し、「自宅や助産所では、満足度の高い出産となり、次の子を産むことに積極的になれるのではないか」と考察している。また、「出産は病院や診療所でするもの、ととらえている人は多いが、出産は多様な形があり、医療介入なしに出産できる選択肢があることも知ってほしい」と言う。

これは、「助産所」の生き残り策として、極めて大切な要領を示唆している。前に述べた 「(4)妊娠・出産に対する支援の強化」として「正常分娩の現物給付化」の目指す行政政策は、そもそも「少子化対策」としての「多子化策」なのであった。朝日新聞の記事中の松岡名誉教授の指摘・考察は、「助産所」の活用は即ち行政政策の目標に合致するものだということである。

つまり、生き残り策の1つの手法は、国家の目指す目標と合致することだと言ってもよい。産科医の一部には、「多子化策」は全く無視し、むしろ反「少子化対策」を熱心に進めて、しかも収入増加のための医療費値上げにばかり腐心している結果に外形上、見えてしまう向きもあるように思うが、それでは「生き残り策」にはならないであろう。「出産難民が出るぞ!」などという言辞を使いたがる向きもあるように思うが、それはもう今の時代は脅しにもならず、自らの首を絞めることにすらつながりかねないので、慎重な注意が必要である。

クリニックでの安全な無痛分娩

参議院厚生労働委員会の26年5月28日付け「健康保険法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議」では、その第5項で「妊婦の希望に応じて安全・安心な出産ができる環境整備に向け、麻酔を実施する医師の確保や安全管理体制の標準化など、安全で質の高い無痛分娩や痛みの緩和を目的とした処置の提供体制確保のための方策を講ずること」が決議された。「安全で質の高い無痛分娩」の実現は、産科クリニックの生き残り策として最も重要なことである。

しかも、集約化された大病院に対抗するには、「365日24時間 いつでも無痛分娩 可」をキャッチフレーズとしなければならない。

念のため付け加えると、無痛分娩と計画分娩の組み合わせの相性が悪いのは、周知のところであろう。陣痛促進剤(子宮収縮剤)を用いた「計画分娩」を「無痛分娩」に組み合わせると、到底、いつも「安全で質の高い無痛分娩」が実現できるとは言い得ないのである。

そうすると、高コスト化を避けるとしたら、「計画」を緩めるしか産科クリニックには方法がないであろう。

つまり、分娩の「計画」化を緩めて、文字通りに「365日24時間 いつでも無痛分娩 可」を実現するのである。それには、産科クリニックの「集約」化、または、複数の産科クリニックによる「地域医療連携推進法人」化(個々のクリニックの自主独立性は失われない)を目指さざるを得ないように思う。(注・地域医療連携推進法人とは、地域において良質かつ適切な医療を効率的に提供するため、病院等に係る業務の連携を推進するための方針〈医療連携推進方針〉を定め、医療連携推進業務を行う一般社団法人を都道府県知事が認定〈医療連携推進認定〉したものである。)

このような産科クリニックの構造改革をしてでも、何とか産科クリニックの生き残りを図るべきではないかと思う次第である。

一部保険外療養の意味するもの

今までは中小施設のうちの「助産所」と「産科クリニック」を採り上げたが、このことは産科以外の診療科のクリニックにおいても同様であろう。

翻って、改正健康保険法第63条第2項第6号には、「要指導医薬品(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)第4条第5項第3号に規定する要指導医薬品をいう。)又は一般用医薬品(同項第4号に規定する一般用医薬品をいう。)との代替性が特に高い薬剤を用いた療養その他の適正な医療の提供を確保しつつ、公平かつ効率的な保険給付を行う必要性に鑑みその要する費用のうち一部を保険給付の対象としないものとする療養として厚生労働大臣が定めるもの(以下「一部保険外療養」という。)」という条文が挿入された。この「一部保険外療養」の意味するところは、将来的には、「薬剤の支給」だけに留まるものではない。自然に、「薬剤以外の診療行為」に拡大していきかねないものなのである。現に、この拡大を戒めるものとして、前述の参議院厚生労働委員会の「附帯決議」の第8項が設けられた。それは「一部保険外療養の対象範囲については、薬剤以外の診療行為を含めるべきではないという指摘もあったこと等を踏まえ、十分に検討すること」という文言であるが、明示的に拡大が制限されたわけでもなく、拡大の懸念は払しょくし得ない。

しかしながら、この点は、前述の「保険診療の徹底した活用」で指摘したとおり、保険診療のルールを守りつつ、その活用を図り、むしろ適正な診療報酬の確保と運営の効率化を図るべく、構造改革をしていくべきであろう。

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