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未来の会

第131回「日本の医療」を展望する世界目線
米国視察報告② UCSD訪問

第131回「日本の医療」を展望する世界目線米国視察報告② UCSD訪問

米国視察報告の第2回では、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)を中心に、なぜイノベーションが起きているのかを考えてみたい。

世界トップクラスの総合研究大学

UCSDは、カリフォルニア州ラホヤに位置する世界上位の研究大学である。学生数は約4万4000名(2024年度)、医学部のNIH研究費獲得額は公立医学校として全米5位にランクインするなど全米トップクラス。スタートアップ創出数は累計1000社を超え、研究と実装力の双方で卓越した実績を有する。

医療・AI・半導体・バイオ分野における研究実績は突出しており、学術・産業・臨床が一体化したエコシステムの中核として機能している。これまでに16名のノーベル賞受賞者がキャンパスで教鞭をとり、医学・化学・物理学の各分野で世界的な研究業績を誇る。

中でも、Jacobs School of Engineering(ジェイコブス工学部)は、Bioengineering、Electrical & Computer Engineering、Computer Science & Engineering、NanoEngineering、Mechanical & Aerospace Engineeringなど多彩な学科を擁し、学部・大学院合わせて約8000名が在籍する。工学系では主要ランキングで世界上位に位置し、NIH研究費獲得額も全米トップクラスである。

同学部の特徴は「研究→臨床→製品化」という実装サイクルの確立にある。産業界との密接な連携を通じた実装型研究を推進する点において、純粋な基礎研究一辺倒の大学とは一線を画しており、産学連携プロジェクトの数は年間300件を超えるとされる。起業家精神を重視するカルチャーが根付いており、研究室発スタートアップが多数生まれ、VC(ベンチャー・キャピタル)や大手企業との連携で事業化を加速している点が際立つ。

死の谷を越える学際的拠点

Institute of Engineering in Medicine(IEM)は、ジェイコブス工学部とUCSDヘルスサイエンスの協力のもとに設立された学際的研究拠点であり、工学技術を医療領域に応用するための橋渡し機能を担っている。工学部・医学部・薬学部など複数部門を横断する組織形態を採ることで、研究成果を臨床現場へと迅速に実装することを使命としている。

IEMの研究領域は医療機器・診断デバイスの開発、デジタルヘルスおよびAI活用、バイオエンジニアリング、再生医療、手術ロボティクス、ウェアラブル技術、精密医療と多岐にわたる。特筆すべきは、研究から臨床応用に至るプロセスの速度に対する強いコミットメントである。基礎研究の成果が臨床応用に至るまでには10年以上を要するとされるが、IEMは工学部と医学部の緊密な連携により、このタイムラインを大幅に短縮することを目指している。隣接するJacobs Medical Centerをはじめ複数の附属病院施設と直接連携しており、医師・研究者・エンジニアが同一の研究開発プロセスに参加する体制が整備されている。これはいわゆる「死の谷(Valley of Death)」を克服する実践的モデルとして国際的に評価されている。

超低消費電力医療の最前線

Patrick P. Mercier教授は、UCSDのElectrical and Computer Engineeringの副学科主任(Vice Chair)であり、超低消費電力マイクロシステムを専門とする研究者である。医療・ウェアラブル分野に応用される小型デバイスや長期モニタリング技術の実現に取り組み、MITで修士号・博士号を取得後、UCSDで教育・研究を進めている。220本を超える査読論文を発表し、ISSCCをはじめとする主要学会の委員も歴任するなど、同分野で国際的に高く評価されている。

Center for Wearable Sensorsが注力する研究は患者の身体的負担を減らしながら、継続的にバイタルデータを取得する技術に集約される。4つの主な研究分野の第1はウェアラブルセンサーの1種であり、皮膚装着型センサーで血糖値・血圧・心電図を非侵襲的にリアルタイム計測し、患者負担を大幅に軽減した連続モニタリングを実現する。採血不要で血糖値を継続測定できるデバイスは、特に糖尿病患者の自己管理において大きな変化をもたらす可能性を持つ。

第2は体内植えみ型デバイスで、超低消費電力設計により電池交換不要の長期モニタリングを可能とし、神経デバイス・心臓ペースメーカーへの応用を目指す。第3はエネルギーハーベスティングであり、体内の運動・体温差・電磁波からエネルギーを採取することで自己発電型医療デバイスの実用化を図る。電池交換のための手術を必要としないデバイスは、患者の負担軽減とコスト削減に直結する。第4はワイヤレス給電・RF回路であり、体外から体内デバイスへの無線電力供給技術として、MRI対応の次世代給電システムを開発中である。これらの技術は患者の身体的負担を軽減しながら継続的バイタルデータを収集するという精密医療の基盤として、慢性疾患管理と在宅医療の変革に直結する。超高齢社会の日本において、これらの技術の臨床実装は在宅医療・地域包括ケアの質的向上に不可欠な基盤となる。

デジタルヘルス戦略の先進的実践

UCSD Healthは、UCSDの附属医療機関として南カリフォルニアを代表する学術医療センターである。Jacobs Medical Center(16年開院、364床)、Hillcrest Medical Center(急性期病院)、Moores Cancer Center(がん専門センター)などを中心に構成され、高度な専門医療と研究・デジタルヘルスの実装を一体的に進めている。診療分野においては、がん治療、臓器移植医療、心血管医療、神経科学、精密医療などの高度専門領域で全米上位の評価を受けており、Newsweekの「World’s Best Hospitals」や「U.S. News & World Report」のベストホスピタルランキングでも上位に位置づけられている。NIH(米国国立衛生研究所)からの研究費獲得額は年間数億ドルに達する。

デジタルヘルス領域においても先進的な取り組みが進んでいる。Director of Strategic Impact & Growthを務めるKeisuke Nakagawa医師は、UC Davis Health在籍時にAWSと連携し、学術医療センターとして世界初とされるCloud Innovation Centerの設立を主導した。同センターは、デジタルヘルスの公平性とオープンイノベーションを推進し、年間600万件以上の患者メッセージを扱う「デジタル・フロントドア」プラットフォームの開発などを通じて、医療システムの効率化とコスト削減に貢献した。さらに、WHOやSociety of Thoracic Surgeons等との協働による医療誤情報対策、米国議会予算局在籍時のAffordable Care Act・HITECH Act等への関与、フルブライト奨学生としてバングラデシュで農村部・妊婦向けマイクロ医療保険プログラムの開発・拡大など、臨床・政策・国際開発を横断するキャリアを有する。現在はHIMSS Social Determinants of Health Committeeの共同議長も務めており、今回の訪問でも、社会的決定要因(SDoH)が医療成果に与える影響について示唆に富む議論が交わされた。

参考資料

UC San Diego Campus Profile. (2025-26). UC San Diego Advancement. UC San Diego secures several top spots in latest national rankings for NIH funding. (2024). UC San Diego Today.

San Diego Biotech Companies: A Comprehensive Industry Guide. (2025). Intuition Labs. https://intuitionlabs.ai/articles/san-diego-biotech-industry-guide

University of California sets world record for Nobel Prizes in a single year. (2025). UC Office of the President.

San Diego: The Life Sciences Capital of the U.S. (2025). Del Mar Foundation.

Top 10 U.S. Biopharma Clusters 2025. (2025). GEN - Genetic Engineering and Biotechnology News.

San Diego Life Sciences Investors: Complete VC List 2026. (2025). Ellty.

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