
今夏の中央省庁幹部人事で、厚生労働省の伊原和人事務次官と、こども家庭庁の渡辺由美子長官が退任する見通しだ。2人は近年の社会保障制度改革を引っ張ってきた重要人物で、旧厚生省出身者の世代交代を印象付ける年になりそうだ。省内の一部からは「伊原事務次官より入省が1年後輩の渡辺長官は厚労省に戻って事務次官に就任して欲しかった」と残念がる声が漏れる。
伊原氏と渡辺氏は仕事の方法や向き合い方は異なるが、大きな改正に携わってきた点で共通項も有る。1987年入省の伊原氏は、東京大法学部を卒業後、首相官邸やニューヨークでの勤務等を経て、健康局総務課長や年金管理審議官、政策統括官、保険局長等を歴任した。介護保険創設や年金記録問題に端を発する社会保険庁改革等にも中心的に関わってきた。
中堅職員の1人は「趣味はマラソンで仕事熱心なアイデアマンだが、思い付きが多く、政策に落とし込めない事も多い。休日や夜中に政策が思い浮かんだ様で急に連絡が来る事も有った」と振り返る。只、事務次官就任後は、AI等の習得に熱心で昨今の働き方改革の風潮にも気を使い始め、昼夜問わず部下に問い合わせをする事は少なくなった様だ。
一方の渡辺氏は88年入省で東京大文学部出身だ。保険局総務課長や大臣官房会計課長、子ども家庭局長、大臣官房長等を経て、2023年4月に発足したこども家庭庁の初代長官を3年超務めている。伊原氏同様、介護保険制度の創設に尽力し、同じ部署で汗を流した間柄でもある。財務官僚にも知己が多く、過去の診療報酬改定では実務者として財務省や与党議員らと交渉した事も有る。今春スタートした子ども・子育て支援金制度の創設の際には、首相官邸や与党幹部から様々な注文を受けつつも関係各所を奔走して調整に勤しんだ。インターネット上では子育て世帯以外への恩恵が乏しい事から「独身税」等と批判を受けたが、何とか制度発足を見届けた。政策理解力や説明能力が高く、課題解決に向けた政策を現実の制度に落とし込む能力に長けている。
或る大手紙記者は「うるさ型の厚労族議員や社会保障制度の理解に乏しい政権幹部に政策を説明し、厚労省の方針や立場を納得して貰ってきた事から、『猛獣使い』と呼ばれた事も有った。一方で、超過勤務や資料作成等で無駄の多い厚労省でも合理的に仕事を進め、不要な仕事を部下に振らないタイプの為、部下からの人望が厚かった。性格も朗らかで敵を作らないタイプ」と評する。
過去にも記しているが、昨年夏の幹部人事前には「渡辺事務次官」人事案が省内で検討されたが、こども家庭庁創設に尽力した加藤勝信元官房長官を中心に「こども家庭庁長官の後に厚労省の事務次官に就任すると、こども家庭庁が厚労省の下請け的な位置付けになってしまう」との反対論が沸き起こり、潰された経緯が有る。
伊原氏の後任は過去に本欄で報じている通り、1990年入省で旧労働省出身の村山誠職業安定局長を中心に検討が進む見込みだ。前任の大島一博氏と伊原氏は同期で87年入省組が事務次官を4年務めた為若返りを図る。「88年、89年入省組で渡辺氏以外に目ぼしい人材がいなかったのも影響している」(元幹部)との指摘も有る。一方、渡辺氏の後任には89年入省の藤原朋子官房長が昇格する可能性が高い様だ。
人事院総裁を務めた江利川毅氏や内閣官房副長官だった古川貞二郎氏といった大物官僚が以前と比べて少なくなった旧厚生官僚だが、デフレ下での社会保障制度改革を支えた伊原、渡辺両氏の退任は1つの時代の区切りとも言えそうだ。「官僚」を卒業した両氏の今後にも注目が集まる。


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