
薬価の中間年改定に向け、製薬業界から対応の要望相次ぐ
2027年度も薬価の中間年改定が実施される。物価高騰を受けて製薬業界が「一律ベースアップ」を求める中、改定する対象の範囲やどの算定ルールを適用するのか、更に米国のMFN(最恵国待遇)薬価政策への対応が焦点になる。政府も成長戦略の観点から「引き下げ一辺倒」ではない。それでも業界が求める「一律引き上げ」には程遠く、メリハリをどう付けるかの勝負になりそうだ。
薬価の中間年改定は、医療費抑制に向けて「毎年改定」に強い意欲を示していた菅義偉首相(当時)の主導で21年度にスタートした。医療に関する技術料等の「本体部分」と「公定薬価」の2つを見直す診療報酬改定は原則2年に1度。この内、公定薬価に関しては、市場で取引されている実勢価格に合わせて引き下げる改定の頻度を増やす為、谷間の「中間年」度にも見直す事にした。27年度は計4度目となる。前回の25年度改定では製薬企業からの要望を受けて「廃止」案が取り沙汰され、24年の衆院選で大勝した国民民主党も「深刻化する医薬品の供給不足の解消」と「日本の創薬・製薬産業の基盤強化」を掲げて廃止を迫ったものの、結局は続行が決まった。
この時は新薬と後発品の薬価改定対象範囲を前回より狭め、物価高騰に配慮して、製造・販売の維持を可能とする為に国が設定する「最低薬価」を一律約3%引き上げた。対象品目も9320品目(全体の53%、23年度は69%)に抑えた。
其の一方で、既に後発品が発売されている新薬「長期収載品」は対象範囲を広げ、名ばかりの先発薬で新規性に欠ける品目の価格にはメスを入れた。又、これ迄の薬価改定で上乗せされてきた加算分を最新薬価から一括して減額する「新薬創出等加算の累積額の控除」が中間年改定では初めて実施された。
この結果、トータルでは2466億円(薬剤費ベース)の薬価引き下げとなった。23年度のマイナス3100億円に比べれば削減幅が圧縮されたとはいえ、製薬業界側には「企業努力でカバーするには限界が来ている」「特許品の価格を維持出来ない仕組みはイノベーション評価に反する」等々、不満が渦巻いている。
今回、27年度の中間年改定については、昨年12月の予算編成の段階で財務・厚生労働両相が「着実に実施」で合意済み。7月に閣議決定された「骨太の方針2026」にも「27年度薬価改定を実施する」と明記されており、今尚「廃止」を掲げる製薬業界も実施を前提として動いている。
薬価の中間年改定に向けたヒアリングを実施
8月26日の中央社会保険医療協議会の薬価専門部会では、27年度の中間年改定に向け、製薬業界からのヒアリングが行われた。
製薬業界側は過去6年の企業物価指数が平均31・8%上昇したのに対し、医薬品は17・4%下落している、といったデータを示した上で、診療報酬に左右される医薬品は独自に値上げ出来ず、一般消費財の様な原価高騰対策が困難だと指摘。「物価高騰、製造原価上昇分等のインフレ分を上乗せするベースアップが必要」(安川健司日本製薬団体連合会会長=アステラス製薬会長)等と物価高騰対策を要望した。
只、製薬業界は通常年の26年度改定時に物価・賃金上昇分として約5%(2年分)を薬価に反映させる「ベースアップ」を求めて却下されている。今回もほぼ引き上げ一色となった要望に、支払い側委員の佐竹陽一健康保険組合連合会理事は「(公定薬価をより低い時価に近付ける)実勢価格改定の範囲を広げ、薬価の引き上げと引き下げについて幅広く算定ルールを適用してメリハリを付けるべきだ」と述べ、製薬業界側の出鼻を挫いた。
ヒアリングの席では、製薬業界側からMFN薬価政策への対応を求める声も相次いだ。
高関税で脅し合意を迫るトランプ大統領
同政策は米国のドナルド・トランプ大統領が打ち出した。世界最高水準の米国の薬価を他の先進国の最低水準まで引き下げるものだ。「各国が米国のイノベーションに『ただ乗り』している」と批判するトランプ政権は、グローバル製薬企業各社に合意を迫り、応じなければ高関税を掛けると脅している。
これに対し製薬業界は、価格の低い日本の薬価が参照されて米国価格が下がるのを嫌い、日本での開発や発売を避ける、其れが海外の新薬を使えないドラッグラグ・ロスに繋がる——との見通しを示し、ドラッグラグ・ロスを避けるべく「新薬収載時のイノベーションに対する十分な評価」「外国平均価格調整ルールの見直し」等を求めている。
日本製薬工業協会が常任理事社(16社)を対象として7月に実施したアンケートによると、MFNの影響について37・5%が「既に生じている」と回答した。具体的には開発の縮小や見直し、発売時期の見直し等が始まっているという。こうしたデータも踏まえ、米国研究製薬工業協会(PhRMA)の五十嵐啓朗在日執行委員長(ファイザー日本法人社長)は「日本の薬価は(米国が参照する国の薬価の中で)最低か下から2番目になり得る」「加盟各社とも日本で米国に影響を与えない水準の薬価の確保を求められている」と訴えた。
だが、日本医師会の江澤和彦常任理事は民間保険中心の米国との薬価の単純比較に異を唱え、薬価を引き上げないとドラッグラグ・ロスに繋がるという製薬業界側の主張について「MFNイコール即ドラッグラグ・ロスに直結するというのは如何なものか」と反論した。国際情勢等も踏まえず価格だけで判断するのは単純過ぎる、との指摘だ。
MFNへの対応については自民党厚労族も動き、「骨太の方針2026」には「米国MFN価格政策への対応」が記された他、26年度の薬価制度改革では「機動的な対応を取る」とされた。これ等の表記を高く評価していた国内製薬企業の幹部は、薬価専門部会でのヒアリングの結果に「暖簾に腕押し、の感が強いね」と困惑を隠せない。
MFNを巡っては8月31日、アステラス製薬と協和キリン等、国内外の製薬大手9社が米国内の薬価を先進国の中で最も低い薬価水準まで引き下げる事で米政権と合意した。日本の企業ではアステラスと協和キリンの2社が初めて合意した。これで既に合意済みの米イーライリリー等も含め、世界各国26社がMFN導入を余儀無くされている。こうした状況に厚労省幹部は「今後追随する社も有るだろうし、(薬価の低い)日本での発売を避ける企業も有るかも知れない」と懸念しつつ、「だからと言って、薬価制度で以て一律に価格を支えるべきなのか」との疑念も口にする。
政府も物価高騰への対応、画期的新薬の開発に投資が不可欠な事は認識している。其れでも財務省は画期的な新薬に対するイノベーション評価やMFNへの対応を睨みつつ、虎視眈々と薬価の大幅引き下げを狙いにきている。中間年改定であっても対象品目は絞り込まず、想定外によく売れた薬の値段を下げる「市場拡大再算定」等の薬価算定ルールを適用する事を目指している。嘗て薬価制度改革に携わった同省幹部は「要するに、中間年も通常の改定年度の方針に可能な限り近付けていこうという事だ」と話す。
一方、厚労省は27年度改定に向け、費用対効果が高い薬については価格を引き上げる方向で制度改正をする意向だ。現在も「費用対効果評価制度」は有るが、19年度以降、対象の49品目の内、薬価がアップしたものはゼロ、認知症の新薬「レケンビ」等38品目は「費用対効果が低い」と判定され、価格を下げられている。事実上、薬価引き下げの為の制度と化している。
そこで同省はこの制度を見直し、企業が示す治療に於けるエビデンス等「費用対効果が高い」とのデータが国としても是認出来るものであれば薬価引き上げに結び付く仕組みに改めようとしている。
同省幹部は「メリハリ、と言うならイノベーションは或る程度評価しつつ、再算定は厳格に実施するというのが落とし所になる。プラスとマイナスのそれぞれの幅がどうなるか、焦点は其処になるだろう」と漏らす。

































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