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未来の会

第134回「日本の医療」を展望する世界目線
米国視察報告⑤ 医療DXは実装の段階へ

第134回「日本の医療」を展望する世界目線米国視察報告⑤ 医療DXは実装の段階へ

前回は、ラスベガスで開催された「HIMSS 2026」の全体像と、医療を取り巻く環境変化について紹介した。今回はさらに、展示会でヒアリングした主要企業が、どのような製品やサービスを展開しているのかを見ていきたい。

Epicが描くAI電子カルテの未来

展示会場で最大の注目を集めていたのがEpic Systemsである。大型の蝶の装飾を配したブースがひときわ存在感を放ち、展示を展開していた。

1979年に3名のエンジニアで始まり、ウィスコンシン州ヴェロナに本社を置く同社は、米国の急性期病院向け電子カルテ(EHR)市場で米国最大のシェアを持ち、2024年には急性期病院ベースで42.3%、病床ベースで54.9%を占めた。また同年には、176の病院を新規獲得したという。株式の非公開を貫き、「従業員所有・独立経営(Employee-owned and independent)」という独自の企業哲学のもと、外部株主や投資ファンドに依存せず、長期的な製品開発に専念できる体制を維持している。

そして同社が打ち出したのが、3種類のAIアシスタントを核とする統合AIプラットフォーム「ヘルスケアインテリジェンス」構想である。臨床医向けの「Art」は、外来・入院時の情報分析、カルテ記録の自動生成、退院サマリー作成、AI処方支援、がんステージングなどを支援する。運用管理向けの「Penny」は診療報酬コーディング、査定対応、CDI(臨床文書改善)確認などの事務を自動化する。患者向けの「Emmie」は請求内容の説明、支払プランの設定、患者ポータル「MyChart」の案内を提供する。さらに「Agent Factory」により、各医療機関が自院独自のAIエージェントを構築することも可能となっている。

Epicは特に大病院で存在感が大きい。Newsweekが2026年2月に発表した「世界最高の病院」ランキングでは、上位20施設に、メイヨークリニック、クリーブランドクリニック、マサチューセッツ総合病院、ジョンズ・ホプキンス病院など、Epicを採用する有力病院が多数含まれている。同誌の「世界最高のスマート病院2026」では上位20施設中14施設がEpicを採用しており、こうした先進的な医療DXを支える基盤として、統合されたEHRやデータ基盤の整備が重要となっている。

現在同社は15カ国以上でサービスを展開し、カナダ、オーストラリア、英国NHS、オランダ、スイス、シンガポール、サウジアラビア、ノルウェー、ベルギー、フィンランド、UAEなどで導入が進む。もっとも、電子カルテは病院ごとのカスタマイズも必要となるため、GAFAMのサービスのような世界共通のデファクト・インフラとなるものではなさそうだが、経営管理にも活用できる電子カルテとして、その展開を引き続き注視したい。

「ヘルスケアインテリジェンス」を大々的にアピールするEpicのブース
Salesforceが進めるAI協働

SalesforceはCRM(顧客関係管理)ソフトウェアの世界最大手として知られるが、ヘルスケア分野では「Agentforce 360」を中核とした医療向けAIエージェント・ソリューションを展開している。HIMSS 2026で同社が強調していたのは、人とAIエージェントが協働する「エージェント型革命(Agentic Revolution)」である。「Agentforce」は、患者の予約管理、事前問診、フォローアップ通知などの定型業務をAIが代替し、ケアチームは人間の専門性を要する診療に集中できる環境を実現する。AIによる処理には、セキュリティやガバナンス機能を備え、米国の医療情報保護法HIPAAなどの規制にも対応する設計となっている。

導入例の1つである、UChicago Medicineは、811床、1日の来院数が1万人以上の病院である。EHRとシステム間のデータサイロ化という課題に対し、5カ月で100のデータドリブンマーケティングセグメントを構築。非臨床的なFAQ対応を自動化し、人的対応が必要な案件にスタッフを振り向けられる体制を整えた。さらに「Agentforce Voice」のパイロット運用により、電話とWebをつなぐ患者サポートも実現している。一方、シカゴを拠点とするMIMIT Healthでは、「Agentforce」がCRMデータを横断的に分析し、キャンセルリスクの高い患者を事前に特定。ケアコーディネーターが予防的に働き掛けることで、手術当日のキャンセルを防ぐ仕組みを構築した。1件のキャンセル防止による節約額は5000ドルに達するという。

InterSystemsが支える医療連携

InterSystems Corporationは、医療分野における重要データを管理・活用するためのデータテクノロジーを提供するリーディングプロバイダーである。病院向け電子カルテ(EHR)「TrakCare」、地域・国家レベルの統合ケア記録「HealthShare Unified Care Record」、検査室向けシステム「TrakCare Lab Enterprise」などを展開している。TrakCareは日本では未発売だが、世界29カ国、600以上の病院で利用されている。

同社のクラウドファーストのデータプラットフォームは、大規模組織が直面するスケーラビリティ、相互運用性、処理速度などの課題に対応するよう設計されており、現在世界で10億件以上の医療記録が同社のテクノロジーを活用している。80カ国以上で24時間365日のサポートを提供するグローバル体制も強みである。中でも英国NHSでは、地域内の医療機関をつなぐ相互運用性サービスを提供している。

AWSとAmazonの医療戦略

AWSは約20年にわたりクラウドコンピューティングの普及を進め、企業向けテクノロジー分野で急成長してきた。ヘルスケア分野ではAmazon Comprehend Medical、AWS HealthLakeをはじめとするAI・機械学習機能とグローバルインフラを活用した医療DXソリューションを展開している。7月号で紹介したKeisuke Nakagawa医師がUC Davis Health在籍時にAWSと連携して設立した「Cloud Innovation Center」のように、学術医療センターとの産学連携型イノベーションも積極的に推進している。

一方、Amazon自身も医療サービスを提供している。その1つが、23年2月に約39億ドルで買収した「One Medical」である。現在「Amazon One Medical」として、対面診療のクリニックとモバイルアプリを組み合わせた会員制のプライマリケアサービスを展開している。

医療を受けにくい米国では、月額料金を支払い、外来診療や基本的な検査などを保険請求なしで利用できる会員制医療サービスも広がっている。Amazon One Medicalはこれとはやや異なり、処方箋の更新依頼、健康記録の閲覧、予約管理、24時間365日のオンデマンド・バーチャルケア(アプリ経由のビデオ診療・チャットなど)を、回数無制限・追加料金なしで利用することができる。

多様化する医療DXの展示

その他、Baxterがハンズフリーで操作できる病棟看護師向けのデバイスを展示していた。音声で操作できるため、入力作業を必要としない。製薬分野では、日本発のInsighTCROSSとEarlyScriptersによる連携ソリューションも注目を集めた。AIが医師ごとに新薬を処方する可能性を予測し、営業チームの優先ターゲティングを支援するもので、コスト10%削減、利益率7%改善を目標として掲げていた。

HIMSS 2026では、AIやデータ活用が電子カルテ、患者対応、経営管理など、医療の幅広い領域へと広がっていることが確認できた。各社のアプローチは異なるが、医療DXが実装の段階へと進んでいることは共通している。

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