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未来の会

広範で長期的な視野に立って医療の諸問題を考えていく

広範で長期的な視野に立って医療の諸問題を考えていく
渋谷健司(しぶや・けんじ)1966年東京都生まれ。91年東京大学医学部卒業。帝京大学附属市原病院麻酔科医員(研修医)、東大医学部附属病院医師(産婦人科)を経て、米ハーバード大学公衆衛生大学院人口・開発研究センターのリサーチ・フェロー。99年同大より公衆衛生学博士号。帝京大医学部産婦人科助手、同学部衛生学公衆衛生学講師、世界保健機関(WHO)シニア・サイエンティスト、WHOコーディネーターを経て、2008年から現職。JIGH代表理事、国立国際医療研究センター・グローバルヘルス政策研究センターセンター長などを務める。

今年度は診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬のトリプル改定に加え、第7次医療計画、第7期介護保険事業(支援)計画、第3期医療費適正化計画、新専門医制度が始まる変革の年。また医療法・医師法の改正、医師の働き方改革、医療分野におけるICT(情報通信技術)の活用なども焦点となっている。医療の課題を社会や経済と絡めて解決しようと考える渋谷健司氏に話を聞いた。

——医療・介護施策の節目の年です。

渋谷 厚生労働大臣の私的懇談会「保健医療2035」策定懇談会で座長を務め、2035年を見据えた保健医療政策の課題について議論しました。そこで感じたことが三つあります。一つは、今は過渡期であること。医療政策は積み重ねで行われてきましたが、新しい方向性を示すやり方も出てきたことで、その間を振り子のように行ったり来たりしている印象です。二つ目は、以前はNGだったテーマが議論されるようになったこと。例えば、以前なら議論しようとすると〝炎上〟したタスク・シフティング(業務の移管)、タスク・シェアリング(業務の共同化)も俎上に載せるようになりました。三つ目は、従来と異なる〝プレーヤー〟が、医療政策に関与するようになりました。これは今までのやり方では限界があったり、大きく変わりゆく政治・社会経済体制やグローバル化などの影響もあるからだと思います。

——座長を務めた「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」は昨年、報告書をまとめました。

渋谷 医師の働き方改革は「働き方」だけを議論しても意味がありません。医療の提供体制や医師の需給・偏在、医療と介護の連携、医療を受ける側の意識の問題など、全てが関連しているため、同時に議論していかなければならないのです。働き方には、医師の偏在、専門医制度の話も関わります。日本の医療を「高生産性・高付加価値」構造に転換していくためには、これまで守られてきた価値観や規範を大事にしながらも、新たな時代にふさわしい、柔軟かつ進歩的な施策や制度設計、そして現場の経営努力を進めるためのパラダイムの転換が求められるのです。

——これまでの議論の仕方では進められない?

渋谷 ビジョン検討会をスタートする時、大事なのは課題設定だと考えました。私達はともすると、課題解決のための回答をすぐ提案しようとします。例えば、「医師不足」が問題とされたら、「医師を増やせ」と提案する。「地方に医師が少ない」となると、「強制的に勤務させろ」となる。それでは、根本的な解決にはなりません。

——問題の根は違うところにあると?

渋谷 きちんとした課題設定を元に、仮説検証をする。それが大切です。これは医師が患者を診る際と同じです。この患者さんがなぜ来たのか。主訴や病歴などを聞き、鑑別診断という形で仮説を立てる。そして検査をして診断を下す。課題認定・仮説を立てる段階で間違うと、きちんとした診断ができません。

——例えば、どのような課題が浮かびましたか。

渋谷 一つの例を挙げますと、そもそも「医師不足」とは何なのかを議論したのです。従来からの医師などの需給・偏在に関する議論は、ともすれば、行政単位などの地理的区分に基づいた外形的な従事者数や施設などをどう配置するかという点に重点が置かれていました。人口当たり医師数が他と比べて多い県や地域であっても個別の医療機関では医師確保が要望されたり、過疎化の進行が著しい地域でも現状を維持するための医師確保が求められたりすることがあります。人口減少が進み、労働力制約の高まる我が国で、「医師不足」の定義と判断基準が曖昧もしくは機械的なままでは、真の課題解決には繋がらないのです。しかし、医師の需給に関しては、本来これが正しい数だという「正解」は出せないわけです。地域ごとにニーズやリソースが大きく異なる以上、日本全国、どこでも同じであるかのような全国一律のトップダウンによるリソース配分の決定とコントロールでは解決しません。首都圏と地方は異なりますし、同じ県でも都市部と地方では違います。今後は、「住民・患者にとって必要な機能を地域ごとにどう確保するか」という点に着目したものとするべきであると考えます。


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