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第2回「精神医療ダークサイド」最新事情 情報公開に無関心な精神科病院

第2回「精神医療ダークサイド」最新事情 情報公開に無関心な精神科病院
神奈川の忖度自治体は隠蔽に走る

 医療分野で積極的な情報公開が行われるようになって久しい。私が2018年まで15年間在籍した読売新聞医療部では、医療機関へのアンケート調査を基にした企画「病院の実力」を2004年から続けている。私も最初から関わり、外科や内科、産科婦人科など様々な科の診療実績を読者に紹介した。

 この企画は、当初は様々な批判を浴びた。「手術数で何がわかるのか」「重い患者が集まる病院ほど治療成績が悪くなる」などなど。だが読者の満足度は高く、多くのメディアが同様の企画を始め、国が情報公開の推進に本腰を入れたことなどをみれば、この企画は間違っていなかったとわかる。

 アンケート調査の回答率は、私の担当回では6割前後が多く、7割を超えることもあった。特に、診療実績が良好な病院の回答率はほぼ100%だったので、役立つ情報を読者に提供できた。

  ところが、精神科の回答率だけは際立って低かった。私が3回行った精神科アンケートの回答率はいずれも10%台。特に、民間精神科病院の回答率が著しく低く、情報公開の観点からみても、そこはまさにブラックホールだった。

 どの病院に行ったら、良い医療やマシな医療を受けられるのか。肝心なことがわからず、精神医療ユーザーは混乱とストレスを強いられている。こうした状況に危機感を抱き、ユーザー目線の情報提供に努めてきたのが、東京や大阪などの市民グループだ。東京都地域精神医療業務研究会は、国が毎年行う630調査(精神保健福祉資料)の開示請求を30年以上前から継続。行政の「医療情報ネット」などではわからない身体拘束数などを含む都内の個々の病院の情報を、冊子「東京精神病院事情」にまとめてきた。

 17年以降、630調査は匿名化した患者個々のデータを各病院から集める方式に代わったため、日本精神科病院協会が「個人情報保護」を理由に開示に難色を示し、国や自治体が開示に消極的になった時期もあった。しかし、19年には従来の項目に近づけた様式変更が行われ、患者個人が特定される恐れはなくなった。そのため、同年のデータは東京と大阪で全て開示され、埼玉県も一部データ以外は開示した。

 ところが、さいたま市はデータ部分がほぼ真っ黒の「のり弁当」を出してきた。理由は「病院の事業運営上の正当な利益を害するおそれがあるため」等。そこで、のり弁病院の事務長に電話で確認したところ「塗りつぶすようには言っていない」との回答だった。埼玉の市民グループが県内各病院の情報一覧を公開すれば、データが載らないのり弁病院は「やましい」イメージでみられ、「正当な利益を害する」恐れがあるのだが、さいたま市はどう責任を取るのだろうか。

 さらに輪をかけて酷かったのが、神奈川の県と政令市だった。私がアドバイザーとWebサイト編集長を務める神奈川精神医療人権センター(KP)が、昨年暮れに開示請求をしたところ、県は「公開拒否」、3政令市は「のりまみれ」で返してきたのだ。

 どこかの国を思わせるこの傍若無人な情報統制により、神奈川県民は病院選択に有効な情報を遮断された。神奈川の行政はどこを向き、何に忖度しているのか。首都圏の精神医療人権センターと連携しながら、この問題を追及していくつもりだ。


ジャーナリスト:佐藤光展

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