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未来の会

日本での医療オンライン化の難しさ①

日本での医療オンライン化の難しさ①
オンライン化の遅れ

 2015年の医学雑誌『ランセット』、民間調査機関カナダ・コンファレンス・ボードの調査などいくつかの調査において日本の医療レベルの高さが証明されている。

 一方、ICT(情報通信技術)を使った患者と医師との関係性については、16年のフィリップスの調査のように、日本が必ずしも優れているとは言えないのが現状である。

 筆者は、様々な国における調査から、医療に対してのアクセスが良くない国において、医療ICTによる患者側からの医師や医療機関への直接のアクセスの補強、ひいては医療情報の共有化が、その国の医療レベルの低さとは裏腹に進んでいるのではないかという仮説を持つに至っている。仮説を検証するには覚束ないが、いくつかの事例を通して日本でなぜ医療ICTの普及が遅いのかを考えてみたい。

 なお、今回取り上げる医療ICTは医療提供者側の情報共有が主で、そこに患者がアクセスし、医師などの医療者へコンタクトできるという例である。患者中心のPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)は考察に含めていない。

 認識され始めた日本における ICT 化の遅れは医療界も例外ではなく、デジタル庁ができることで、特にオンライン診療が解禁されることに対して日本医師会などがざわついている。

海外のオンライン診療との違い

 アメリカは国土が広く、国民皆保険がないことから、医療アクセスが物理的に限定される人口が一定数存在するため、早い段階から遠隔診療の整備が行われてきた。1993年にはアメリカ遠隔医療学会(ATA)が創設され、遠隔診療の推進に取り組んできた。

 アメリカには現在、遠隔診療を提供するネットワークが200ほどあり、3500カ所の施設を通じて遠隔診療サービスが提供されている。

 ただ、民間保険・公的保険の適応範囲の制約や遠隔診療に従事する医師に対するライセンス付与などの制度や規制の設計、または各州政府の権限により州や自治体をまたぐサービス提供が阻害されている。

 保健福祉省(HHS)が2016年に議会に提出した報告書では、公的保険の支払いの改革や州間のライセンスの障壁、地方の病院への高速ブロードバンド環境の整備が主な課題として挙げられている。

_一方、欧州連合(EU)では医療の組織・資金供給・提供は原則として各国が担っているが、加盟国はサービス提供者が遠隔診療サービスを提供する自由を行使するのを妨げる国内法を採用してはならないとする原則が欧州委員会によって示されている。

 また、医師免許も共通化されており、EUによる遠隔診療は国境をまたいで行われるケースが多いことが特徴である。EUの執行機関である欧州委員会が遠隔診療に関する取り組みを行っており、デジタル単一市場やe-ヘルスといった、より大きな枠組みの中で取り扱われている。

医療のオンライン化

 しかし、オンライン診療は医療のオンライン化の一部にすぎない。分野横断的に考えていかないと、医療のオンライン化は進まないだろう。

 例えば、医療機関から支払い側への請求書に当たるレセプト(診療報酬明細書)のオンライン化について考えてみよう。06年の厚生労働省通知により、11年度から一部の例外を除きすべての医療機関にオンラインによるレセプト請求が義務づけられた。08年度から段階的に義務化が始まり、まず400床以上の病院から義務化された。

 現在は保険医療機関等から社会保険診療報酬支払基金及び国民健康保険団体連合会へのレセプト請求は原則、電子レセプトにより行われており、20年7月処理における支払基金への請求は表のような状況である。

オンラインでの請求メリット

 ここでオンライン請求のメリットをまとめておこう。

●受付時間の延長

 毎月休日を含めて、5日から7日は8時から21時まで、8日から10日は8時から24時まで請求が可能。

●ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)サービスによるエラーチェック

 事務的な記録誤りなどにより返戻となるエラーをチェックできる。また、当月のうち(12日まで)にエラーを訂正し、再提出することが可能。

●振込額明細データなどのダウンロード

 原則、請求月の翌月15日以降から3カ月間、振込額決定(支払基金のみ)、再審査(支払基金のみ)、増減点連絡書及び返戻内訳の情報をデータでダウンロードすることができる。また、各種情報をデータで管理することができる。

●セキュリティの強化

 暗号化通信を行う上に安全性が確保されたネットワーク回線を使用するため、従来の請求における搬送時の破損や紛失の問題がなくなる。

●電子レセプトとしての一元管理

 電子レセプトの返戻は、オンラインで受け取ることができるため、返戻再請求レセプトも電子レセプトとして一元的な管理が可能。

 このようにメリットも多いのだが、手間もかかる。例えば、20年10月からのオンラインレセプト請求に際して、診療行為ごとに付記すべきコメントの種類が増え、これまでフリーテキストで受け付けられていたものもコード入力が求められるようになった。そのため、事務スタッフを置く余裕がない小規模の診療所では手間が増え大変なようである。

米国から25年遅れ?

 筆者が25年ほど前の1995年に米国に留学した当時、医師が上述したことと同様の不満を述べていた。米国は国民皆保険制度ではないので、患者がそれぞれ別の民間保険に入っている。その請求のためのコード化が始まっていた頃(インターネットがつながり始めた時期)で、医師たちは事務作業が増えたと文句を言っていた。医師の本業は診療であり、診療することで診療報酬が得られる。事務を軽視するわけではないが、事務作業が医師に過度な負担になることは問題である。

 電子カルテを導入していなければコードなどの情報を手入力するしかないが、導入していても医療情報をやり取りするためのシステムに新しくデータを入力しなければならないケースも多い。全て医師がやるわけではなく、医療クラーク(医師事務作業補助者)が行う場合もあるだろう。診断書などはフォーマット化されているケースもあるが、多くは手書きだったり、診療情報とは別に作成していることも多い。医療の非効率性を解消することも医療のオンライン化を進めるポイントになる。こうした点の効率化を進めるのが RPA(ロボティックプロセスオートメーション) の促進、すなわちデジタル化になるのではないか。

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