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未来の会

第176回 政界サーチ 『雪解け』と『ずっこけ』には要注意

第176回 政界サーチ 『雪解け』と『ずっこけ』には要注意

株価がバブル崩壊後の最高値を更新し、季節外れの台風被害にも見舞われた日本列島。身内の不祥事やマイナンバーカードの不具合でもたつきはするが岸田政権は何とか安定飛行を保っている。東京・永田町の関心はもっぱら衆院解散の時期だが、世界を見渡せば日本の状況を左右する大きなうねりが有るという。「今年を占うキーワードは『雪解け』と『ずっこけ』だな」。ダジャレ好きの自民党長老の指摘に付き合ってみる事にした。

 「雪解け」は、英語では「THAW(ソウ)」と言う。文字通り、雪に閉ざされた厳しい冬が終わり、心地良い春が来るという事だが、英語圏では、政治用語として度々登場し、対立が和らぐという意味で使われる。ソ連の独裁者スターリンの死後、作家、エレンブルグが発表した小説『雪どけ』が原点とされる。年輩の方なら、フランス語の「デタント」の方が馴染み深いかも知れない。緊張の緩和を意味する言葉で、米ソ冷戦時代、殊に核兵器を巡る対立が和らぐ場面で多用され、日本のメディアも度々扱った。「雪解け」とほぼ同義である。

 さて、自民党長老がその「雪解け」をキーワードに持ち出したのは、米国のバイデン大統領がG7広島サミット終了後の記者会見で語った「(米中関係は)間も無く雪解けが始まると思う」という言葉に触発されたからだという。

世界の鍵握る米中の緊張緩和

 G7は、ウクライナのゼレンスキー大統領の飛び入り参加やウクライナへの新たな兵器供与に注目が集まった。自由主義陣営の結束を示す為だが、大局で見れば「緊張激化」を促す話である。その一方で、台湾問題を含めた対中国政策では、これ迄に無いワードを盛り込み、「緊張緩和」が模索されている。

 新たなワードは「デリスキング」。G7は「中国と建設的且つ安定的な関係を構築する用意がある」とした上で、経済の分断を意味する「デカップリング」ではなく、中国への依存を減らす「デリスキング」を進める方針を示した。「仲良くする」とまでは言わないが、明らかに「緊張緩和」の示唆だった。

 今や、ロシアのプーチン大統領の命綱とも言える中国に秋波を送るのは勿論、ロシアを牽制する為である。その上で、サウジアラビアとイランの和解を成し遂げた中国がロシア・ウクライナの仲介に「お出まし」になるのを促そうとの思惑がある。ウクライナへの兵器供与を発表しながら、その裏で平和を模索するというのは表向き矛盾するのだが、外交の現実とはそんなものである。

 バイデン大統領の「雪解け」発言について、中国の国際情報紙『環球時報』は「歓迎するが、真剣な対応が必要」との論評を載せた。首脳級の言葉は無いが、いつもの様にギャンギャン反発しない所を見ると、まんざらでもない様だ。

 自民党長老が面白い事を言っている。

 「日本の株価がビヨーンと伸びたろ。あれは、欧州の資金なんだぞ。欧州はウクライナ侵攻前は中国にスリスリしてた。投資先として魅力的だったからな。ところが、中国がロシアに味方すると見えた途端、嫌気が差したんだな。それで、コロナ明け、円安で好業績が相次ぐ日本市場が俄然、魅力的に見えた。米国も債務上限問題で、ガタ付いてたし、で3万円超という訳だ」

 バブル後最高値を記録した日本の株価を押し上げたのが欧州資金なのはデータで明らかになっている。ロシアと地繋がりの欧州諸国にとって、ウクライナ侵攻は他人事ではないから、中国への嫌悪感が強まっても不思議ではない。中国に向かっていた欧州資金が日本に流れ込んだという推論を確定させる証拠は無いが、十分考えられる。

 「中国経済は未だ伸び代が有る。欧米の資金が滞るのは困るだろう。ロシアとの連携で、暫くは持つだろうが、足りんわな。言葉でギャーギャー言われるより、資金を引かれるのが堪える。デカップリングからデリスキングへの変化にはその辺を見越したニュアンスが有ったと思うよ」

 で、もう1つのキーワード「ずっこけ」はどうなのかと思っていたら、本当にずっこけたニュースが飛び込んで来た。バイデン大統領が米コロラド州で行われた空軍士官学校の卒業式で、卒業証書を授与した後、躓いて転倒したという。原因はバイデン大統領が居たステージの上の砂袋らしい。

 「サンドバッグにやられた」という政府関係者のコメントはウイットに富んでいたが、バイデン大統領はこれ迄も何度か転倒しており、ライバル政党の共和党からの「高齢批判」にさらされて来た。西部劇のスター、ジョン・ウェインの様な大きくて強いリーダーを理想とする米国社会に有って、大統領のずっこけは深刻な政治問題になり得るのだ。折しも、米政府の債務上限問題の山場と重なる時期のアクシデントで、転倒シーンは日本を含め、世界中にメディアで発信された。

 さすがに、バイデン大統領の転倒ニュースは想定外だったというが、自民党長老は「政治の世界のずっこけは、歴史を変える事すら有る。米国は来年に大統領選を控えているからな。日本も来年、総裁選が有る。言いたいのは、足下の取るに足りない話が政権の命取りになるという事なんだ」と真顔になった。

 岸田首相の長男で、元秘書官の翔太郎氏の問題だ。

「親戚一同を前にはしゃぎたかった気持ちは分かる。散々お世話になって来た身内を喜ばせたかったんだろう。それで、羽目を外した。問題は、それが簡単に外に漏れる事なんだ。文春の取材力が高いのはそうなんだろうが、公邸内の情報管理が出来ていない。今回の様な稚戯ならいいのだが、公邸は国家の存亡に関わる大事な問題を扱う事だってある」

 現在の公邸は30年前まで首相官邸だった。流血の事件すら有った場所で、年輩の国会議員らにとっては特別な場所だ。翔太郎氏は過去にも何度かメディアの餌食になっている。知人によれば、「温厚で人柄が良い」というが、情報管理が至上命題の首相官邸業務には向いていなかったという事だろう。

自公対立の雪解けと衆院選

話を雪解けに戻す。舞台は東京・平河町と同・信濃町である。平河町は自民党本部、信濃町は公明党本部の事だ。連立政権20年以上の両党関係に亀裂が走る事態になっている。原因は1票の格差を是正する為、「10増10減」の新区割りで実施される次期衆院選の候補者擁立だ。

 前号でも触れたが、公明党はこの所、国政選挙、地方選挙共に思う様な結果を残せて居らず、選挙力強化が宿題になっている。国政では金城湯池だった東京、大阪のてこ入れが課題とされ、定数の増える東京での立候補者増が悲願だった。

 ところが、長年の相棒だった自民党から色良い返事がもらえず、石井啓一・幹事長がテレビの前で「東京に於ける信頼関係は地に落ちた」と東京での選挙協力解消を宣言するに至った。東京以外の46道府県には影響は及ばず、連立解消も考えていないというが、自民党内からは「この状態では衆院解散どころではない」との声も漏れ、岸田首相の解散戦略への影響も無視出来なくなっている。

 菅義偉・元首相や二階俊博・元幹事長ら公明党とのパイプ役が政権中枢にいない事や、公明党の山口那津男・代表、石井幹事長らが支持母体・創価学会に対する発言力が弱く、調整が上手く出来ない事が原因に挙げられている。

 こんな見方も有る。公明党ははなから東京での選挙協力解消を狙っていたというのだ。主導したのは創価学会だという。事情通が語る。「問題は関西に有る。日本維新の会は公明現職の居る6選挙区で独自候補の擁立を見送って来た。大阪都構想への協力の見返りだった。ところが、大阪市議会で維新が過半数を握り、公明への配慮が不要になった。そこで、東京での議席増を目指す維新への裏協力として、自民への学会票の流れを遮断し、場合によっては維新に流す。東京で恩を売って、関西の議席確保を図るという作戦なんだ」

 「守勢」が強調され過ぎだとは思うが、統一地方選からの流れを考えれば納得の行く解説ではある。但し、自民党からすれば、明らかな裏切りだから、関係改善は相当に難しい。何れにしても、凍り付いた両党関係に「雪解け」が有るか無いかで、次期衆院選の様相は大きく変わりそうだ。

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