家族の状況次第で不法在留外国人の永住を追認する
昨年、入国管理法が改正された。大きな改正点は4つ有る。①難民申請で送還措置が停止されるのは2回迄、②戦闘状態に在るウクライナからの避難民の様な立場にある者を補完的保護対象者として定住者並みの保護を行う、③犯罪で有罪判決を受け3年以上の実刑に処された者は強制送還の対象とする、④収容しないで退去強制手続を進める監理措置制度の創設によって、個別事案毎に収容か監理措置かを選択する事が可能となる、といった内容だ。
法務省は在留資格、在留期間等の審査を通じて外国人の出入国や在留の公正な管理に努め、その国にとって好ましくない外国人の入国、在留を認めないとしている。しかし、本来退去しなければならない外国人であっても、家族状況等も考慮して例外的に特別在留許可を出して来た。ガイドラインに於ける、法務大臣の裁量で特別に在留を認める際の基準が不明確であると指摘されていた事から、見直しが行われたのだ。
昨年に引き続き今年の通常国会でも入管法が改正された。新ガイドラインでは、在留資格が無くても親が地域社会に溶け込み、子供が長期間日本で教育を受けている場合や、正規の在留資格で入国し長く活動していた場合、その後に資格が切れても在留を認める事になる。但し、不法入国等によって国の施設に収容され、その後、仮放免中に行方をくらませた場合や、不法滞在の期間が相当の長期間に及ぶ場合等は在留を認めない方向である。在留期間が過ぎており、在留資格の無い者の在留を認めるという意味不明な日本語を法務省が記すのだから残念だ。
日本には既に中長期在留者が約312万人、特別永住者が約28万人いる。報道によると、10年以上日本に在留し、懲役刑等を受けておらず納税等の公的義務を履行している外国人は、昨年6月末時点で88万人余りに上るという。現行法では一度在留許可を出すと、税金を滞納しても許可を取り消す事が出来ない。それを悪用する者がいる事から、自治体の出入国管理庁への通報によって許可を取り消す事が出来る様にする。日弁連等一部の団体は「受け入れた人を追い出す、共生とは真逆の発想だ」と反対する。日本は主権国家である。脱税したり犯罪で有罪になったりした者の永住権を取り消す事は、法治国家の主権を行使する上で何ら躊躇すべきではない。
政府が拡大を目指す特定技能制度の特定技能2号に於いては、家族の帯同や期間の更新も無制限である。技能実習制度に代わって導入される育成就労制度に於いても、特定技能への移行や職場の転籍を条件付きで認める事になる。政府は移民政策ではないと強弁するが、国内に一定の移民社会が形成されている以上、何時迄もそれは通用しない。技能実習制度が導入され30年に亘り労働力として外国人を受け入れて来た事実は動かない。
しかし、労働力不足を外国人で補うと生産性の向上や技術革新は進まなくなる。経済成長のサイクルを阻害する事になるからだ。経済成長のサイクルでは、先ず、労働力が不足すると賃金が高くなる。一定の賃金上昇は一定のインフレを招く。事業者は生産性の向上を図り市場競争力を保とうとする。生産性の向上や技術革新の為の設備投資や開発投資が経済成長の糧となる。失いつつある労働力を外国人で補充する事によって経済成長のサイクルは阻害される。
外国人労働者による労働力不足の解決は悪手
技能実習制度の導入と並行して、日本経済はデフレ経済に陥り脱却への出口を見出せず直近30年を無駄に消費した。2008年に政府が打ち出した留学生30万人計画も高度な人材の定着には繋がらず、安い労働力を確保する為の制度に変貌して行った。30年も経てば日本で子供が生まれて定住する者も多い。文部科学省によると、22年5月1日時点で住民基本台帳に登録されていた学齢相当の外国人の子供の人数は13万6923人。その内不就学の可能性が有る子供は約6%相当の8183人とされる。政府は移民政策の間口を広げようとするが、社会での受け入れ環境には不足が有る。貧困の問題や差別の問題も無視出来ない。
欧米諸国では移民政策を抑制する傾向
EUではEUブルーカードと呼ばれる高資格人材に在留許可証を発行し、高収入者や理系技術者・医師等に滞在許可の条件を優遇して来た。高度資格人材を積極的に受け入れる一方で、難民の受け入れについては規制強化を進めている。ドイツは15年以降、国内での労働力不足を背景に、難民を積極的に受け入れていた。100万人以上の難民が押し寄せ国内で外国人排斥を訴える勢力が台頭し政治的な混乱を招いた結果、18年には移民の受け入れや家族の呼び寄せに厳しい規制を掛ける事となった。
フランスは難民審査を迅速に行い違法移民の速やかな退去を促した。又、社会保障制度を厳しく見直して移民による搾取を排除した。クオータ制を導入し、人材が不足している産業分野で能力毎に受け入れ人数を定めて移民を受け入れる事とした。
アメリカではメキシコ国境での警備を強化した。メキシコから違法に入国した者を例外無く起訴するという政策が打ち出され、強制送還の対象が拡大される等不法移民への取り締まりが強化されている。又、難民受け入れの一時停止、難民による再定住申請の審査の厳格化、再定住難民の受け入れ枠の削減等が実施された。移民による家族の呼び寄せを大幅に制限し、ヨーロッパ諸国と同様、高学歴や経済的自立が可能な人材を選択的に呼び込む方針に転換している。
スウェーデンは難民の受け入れには寛容であったが200万人以上の移民を受け入れた結果、安定していたスウェーデン社会と移民や難民のバランスが崩壊した。その結果、経済成長が鈍り外国人による犯罪率が上昇する事となった。銃による殺傷事件の発生率は欧州最悪レベルになった上、北アフリカからの移民2世を中心メンバーとしたギャング団による麻薬や銃の密輸も横行している。銃による事件の90%が移民によって起こされている。近年ではスウェーデン国内でも移民、難民の受け入れに対して消極的な世論が支配的になって来ている。
日本政府は、実質的移民政策を移民政策だと認めずに来た。18年に政府は国会答弁に於いて「政府としては、例えば、国民の人口に比して、一定程度の規模の外国人を家族ごと無期限に受け入れる事によって国家を維持していこうとする政策は執らない。専門的、技術的分野の外国人を積極的に受け入れる事とする現在の外国人の受け入れの在り方も変わらない」と回答している。その後、岸田文雄政権では特定技能2号の分野拡充と認定数の拡大、違法在留外国人や違法労働外国人の在留を一部追認するガイドラインの整備を進めた。要するに日本は他の先進国が積極的に移民政策を進める中、慎重な姿勢を貫いて来た。その後、移民政策を進めた他国が移民による経済的負担の増大や治安の悪化等を受けて移民政策の転換を図る中で、何故か日本は遅まきながら時代の流れに逆行するがごとく本格的移民受け入れに舵を切りつつあるのだ。
嘗て1950年代後半から70年代前半迄の日本経済は2桁の経済成長を続けていた。日本に匹敵する経済成長を続けていた西ドイツは、トルコ人等安い労働力によって投資活動が抑制され、55年以降に急激に成長が鈍化して行った。日本ではバブル崩壊を切っ掛けに低賃金の外国人労働者が流入した。これが、日本国民の実質賃金が低迷する要因となっている。改めて述べるが、労働力不足を賃金の安い外国人労働者で補ってはならない。労働力不足や賃金高騰の問題は、設備投資や技術革新等の生産性向上で解決するべきなのである。移民政策は不可逆であるからこそ、緩やかに検証しながら進める慎重さが求められる。
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