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財務省VS厚労省 診療報酬「本体部分」を巡る綱引き

財務省VS厚労省  診療報酬「本体部分」を巡る綱引き
教育無償化の財源を社会保障費のカットで捻出

2018年度の診療報酬改定率を巡り、関係者の攻防がスタートした。18年度は6年ぶりとなる介護報酬との同時改定の年。財務省は両報酬の引き下げによる、大きな削減効果を狙う。

 一方、厚生労働省は診療報酬全体の引き下げは受け入れつつも、医師らの収入に直結する「本体部分」はプラス改定に持っていく考え。決着の行方は、年末の政府予算案編成時までもつれる見通しだ。

 「2%台半ば以上のマイナス改定が必要だ」

 先制パンチを繰り出したのは、財務省だった。10月25日にあった財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の財政制度分科会で具体的な数字を上げ、マイナス改定を迫った。

 16年度の医療費(速報値)は約41・3兆円。診療報酬を1%減らすと、医療費全体では4500億円程度減り、国の負担でみると約1000億円の軽減となる。同分科会は「高齢化や医療技術の高度化により診療報酬総額は増えていく」とし、マイナス改定でも医療機関の増収は確保される、との論理を展開して引き下げを正当化した。

諸施策で薬価全体を大幅引き下げ

 診療報酬は、医師や薬剤師の技術料にあたる「本体部分」と、薬や医療機器の公定価格にあたる「薬価」からなる。薬価については、市場の実勢価格に沿って改定のたびに引き下げられるのが通例で、今回も1000億円程度の削減幅になるとみられている。

 また、18年度は薬価に費用対効果を反映させる制度も導入する。「健康な状態で1年生存が可能になる」効果がある薬でも、既存品より500万円以上かかるものについては、薬価を引き下げる仕組みだ。さらに政府は、画期的新薬に加算をする制度に関しても、対象薬を絞り込もうとしている。

 一連の施策によって薬価全体の引き下げ幅は大きくなる見通しで、厚労省も「本体部分をプラスにしても薬価のマイナス幅には届かないだろう。診療報酬全体でマイナスになるのはやむを得ない」(幹部)とのスタンスをとっている。

 前回の16年度改定でも、薬価は材料価格と合わせ1・33%引き下げた一方で、本体部分は0・49%引き上げ、全体では0・84%減とした。16年度の医療費は14年ぶりに前年度比で減ったものの、財務、厚労両省は「高額薬の値下げによる一時的現象」との見方で一致している。

 ただ、薬価のマイナスは当然視する厚労省も、本体部分への思いは違う。本体部分は小泉純一郎政権の下、02年度に初めて引き下げられたが、その後、地域の医師不足が顕在化し、社会問題になった。「医療崩壊」への危機意識は強く、「本体部分は引き上げが不可欠」と主張している。

 一方、財務省は「本体部分、薬価ともマイナスでないと財政効果が出ない」と考えている。25日の同分科会では「これまでの改定により、本体部分の水準は賃金や物価の水準と比べて高い水準になっている」と指摘し、「マイナス改定により、これを是正していく必要がある」と切り込んだ。

 最も利害が絡む団体の一つ、日本医師会の横倉義武会長は同日の記者会見で「本体を引き下げるなら人件費を下げねばならなくなる。政府が賃上げを要求している中、医療に携わる人員だけは賃金を下げなさいという無謀な判断だ」と述べ、強く反論した。

 実際のところ、本体は0・5%以下のアップで落ち着く見通しだが、財務、厚労両省の綱引きを横目に、自民党厚労族幹部は「まだ陽が高過ぎる」と呟く。ただ、今回は特異要件が絡んでいることで、調整が難航する可能性があることは認めている。安倍晋三首相が衆院選の公約に掲げた「教育無償化」だ。

 衆院選での自民党圧勝から一夜開けた10月23日。記者会見に臨んだ安倍首相は、高揚気味に「同じ総裁の下で3回続けて勝利を得たのは、(自民党)立党以来60年あまりの歴史の中で初めてのことだ」と語り、続けて「「教育の無償化を一気に進める。消費税の使い道を見直し、子育て世代、子供達に大胆に投資する」と力を込めた。

 首相が「一気に進める」と口にしたのは、選挙直前に打ち上げた「2兆円規模の子育て政策パッケージ」のことだ。3〜5歳児の教育・保育の完全無償化(約7300億円)、最高で2300億円程度かかるとみられる0〜2歳児保育費の一部無償化に加え、大学生向けの給付型奨学金の拡充、待機児童解消に向けた32万人分の保育施設整備などからなる。

見直される1・7兆円の使い道

 19年10月には、消費税率を今の8%から10%へ引き上げることが予定されている。これによる増収は約5・6兆円。12年の社会保障・税の一体改革で、政府はそこから約4兆円を「社会保障の安定化」に充て、残りを「社会保障の充実」に使うと決めていた。「安定化」とは、社会保障費のうち国が借金で賄ってきた部分を増税分で手当てするように改める財政健全化策を意味している。

 ところが、安倍首相は衆院選直前、この借金返済に使うはずだった4兆円のうち、約1・7兆円分の使い道を見直し、教育無償化に組み替える考えを示した。

 これは財務省の一部幹部の考えを取り入れたものだ。成長重視で「増税嫌い」の首相が反消費増税に“先祖返り”しないようにする狙いから、借金返済の財源は別に探す方向に舵を切った。その最大のターゲットが社会保障で、中でも医療、介護費を削減の本命と位置付けている。診療報酬だけでなく、介護報酬に関しても、訪問介護費の圧縮などによる引き下げを目指している。

 消費増税による借金返済額が想定より減るのは、19年度以降。財務省が医療、介護両報酬の引き下げに躍起なのは例年の予算編成時と同じではあるが、今回は安倍政権が18年度予算にも教育無償化策の一部を盛り込もうとしていることが、同省を前のめりにしている。社会保障費のカットで教育無償化財源を捻出しないと、またぞろ、国債発行という話になりかねないためだ。

 それでも、子育て支援を巡っては「無償化より待機児童の完全解消を優先すべきだ」との指摘が後を絶たない。保育所を無料にすれば、入所希望者が増え、さらに待機児童が増える恐れがあるという。入所が出来た人と出来なかった人の格差が広がることも懸念されている。

 教育費が医療はじめ社会保障を圧迫するのなら、本末転倒──。こうした声は安倍政権に届くのか、この年末に答えは出る。

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