SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

365日診療が変えるクリニック経営

365日診療が変えるクリニック経営

全国で存在感を増す「休診日無し・夜まで診療」

平日の夜9時、駅前の商業施設に在るクリニックの待合室は、仕事帰りの会社員や発熱した子供を抱いた親で賑わっている。日曜も祝日も看板の灯りは消えない。嘗て「木曜午後と日曜は休診」が当たり前だった町の診療所の風景は、変わりつつある。

その先駆けとされるのが、医療法人社団ナイズが運営する「キャップスクリニック」だ。2012年に東京の西葛西で1院目を開いて以来、年中無休診療を続けてきた。14年の元日には代官山の蔦屋書店内に小児科・内科を開院し、年中無休・朝9時から夜10時迄の診療を打ち出した。現在は「365日年中無休・21時迄の夜間診療」を基本方針に据え、24年には大阪にも進出。26年4月開院の相模大野院で50拠点目に達した。

こうした365日・夜間診療を掲げるクリニックの多拠点展開が目立ち始めている。24年5月には東京都日野市のイオンモール多摩平の森に「あんどこどもクリニック イオンモール多摩平の森」が開院。共働き世帯の多い地域のニーズに応えるとして、市内の小児科で初となる年中無休診療を掲げた。商業施設内での開院、ウェブ予約、休日・夜間の診療——。患者を「待たせる」のではなく、患者の生活時間に医療を「合わせる」発想である。患者が受診時間や場所を選べる医療への転換と言って良い。

「365日診療型クリニック」が成立する理由

院長1人が朝から晩迄、しかも休み無く診療を続ける事は、物理的には不可能だ。365日診療を可能にしているのは、診療を「個人」ではなく「チーム」で回す仕組みである。

或る年中無休の小児科クリニックは、十数人の医師が在籍し、曜日と時間帯毎に担当を割り振る事で、どの時間帯も出来る限り医師3人体制を維持しているという。常勤医と非常勤医を組み合わせたシフト制は、病院の外来体制に近い。電子カルテで情報を共有すれば、担当医が替わっても診療の継続性は一定程度保てる。

医師側の事情もある。子育て中の医師や、病院勤務の傍らで外来を担う医師にとって、決まった時間だけ働けるクリニック勤務は魅力的だ。24年4月に始まった医師の働き方改革で勤務医の時間外労働に上限が設けられる中、こうした「時間で区切って働く」勤務形態も、医師側の選択肢となっている。

患者側の変化も大きい。共働き世帯が専業主婦のいる世帯を大きく上回る今、平日の日中に仕事を休んで受診するのは容易ではない。夜間や休日に開いている身近なクリニックは、そうした層の「空白」を埋める存在となった。診療報酬上も、一定の要件を満たせば「夜間・早朝等加算」を算定出来、夜間等の診療が収益に繋がる構造が有る。

立地戦略も見逃せない。ショッピングモールや駅前の商業施設は、休日や夜間ほど人が集まる。施設側にとってもクリニックは集客装置となり、テナント誘致の対象となっている。賃料や人件費の負担は重いが、診療時間を延ばして1日当たりの患者数を積み上げれば、固定費を吸収出来るという計算である。

既存の個人クリニックは患者を奪われるのか

では、従来型の診療所はどうなるのか。数字からは、厳しさを増す経営環境が見えてくる。

厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師統計」(22年)によれば、診療所に従事する医師の平均年齢は60.4歳に達する。一方で診療所の数自体は全国で10万施設を超える。帝国データバンクの調査では、24年に倒産した医療機関は64件、休廃業・解散は722件で、何れも過去最多を更新した。休廃業・解散は10年前の2.1倍、20年前の5.6倍である。倒産の内、診療所は31件で、これも過去最多だった。25年の倒産は66件と、更に記録を塗り替えた。26年も上半期だけで39件と、過去最多のペースが続く。

倒産や休廃業の背景には、物価・人件費の上昇や人手不足、経営者の高齢化や後継者難等、複数の要因が有る。一方、調査は近年の変化として、施設やサービス面を考慮した受診者の「選別意識の高まり」も指摘している。コロナ禍で発熱外来やワクチン接種への対応に差が出た事を機に、かかりつけ医を見直した患者もいる。患者は最早「近いから」「昔から通っているから」だけで医療機関を選ばない。待ち時間、予約のし易さ、診療時間等、比較する物差しが増えたのである。

尤も、全ての患者が365日型に流れる訳ではない。高血圧や糖尿病など慢性疾患の管理には、同じ医師が継続して診る「顔の見える関係」が重要となる。急な発熱等に対応する365日型と、慢性疾患の継続的な管理を担う地域の個人クリニック。両者は競合しながらも、役割分担が進む可能性が有る。但し、利便性で見劣りする診療所が、その「役割」に安住出来る保証は何処にも無い。

病院の救急・休日夜間診療にも影響する可能性

365日型クリニックの広がりは、地域の救急医療にも波及し得る。

消防庁によると、24年の救急出動件数は約772万件、搬送人員は約677万人で、何れも過去最多を更新した。搬送者の約半数は軽症である。救急車の現場到着迄の平均時間は9.8分、病院収容迄の平均時間は44.6分で、コロナ禍前の19年よりそれぞれ1.1分と5.1分長い。救急医療への負荷は、数字の上でも窺える。そうした時、夜間や休日に「近所で診て貰える場所」が有れば、本来救急車を呼ぶまでもない発熱や腹痛の患者がそちらに流れ、病院救急の負担軽減に繋がる可能性は有る。とりわけ小児では、不安から夜間の救急外来に駆け込む親もおり、受け皿としての期待は大きい。限られた救急医療資源を重症患者に振り向ける為、救急車や救急外来以外で軽症患者を受け止める体制作りは長年の課題であった。

一方で課題も有る。休日夜間急患センターや在宅当番医制度は、地域医師会に所属する開業医の輪番で支えられてきた。そこに民間の365日型クリニックが加われば、地域の時間外診療を担う主体は多様化する。問題は、これを既存の救急医療体制にどの様に組み込むかだ。軽症患者をクリニックが受け止め、入院や専門的治療が必要な患者を病院へと繋ぐ連携が機能すれば、病院側も限られた医療資源を、重症患者に振り向け易くなる。365日型の台頭は、病院にとっても自院がどの救急患者を受け入れ、地域でどの役割を担うのかを改めて考える契機になり得る。

クリニックは「組織的な医療インフラ」へ?

院長が医師であり経営者であり、時に事務長も兼ねる——。そうした「一人親方」型の診療所は、院長の高齢化と共に後継者問題に直面している。対して、法人が複数院を展開し、医師をシフトで配置する組織型のクリニックは、少なくとも診療体制という面では特定の医師への依存度が低く、事業を継続し易い。

全国展開するグループが医師を広く募り、診療の手順を標準化して品質を揃える手法は、美容医療や健診の分野では既に珍しくない。病院に目を向ければ、先例は更に古い。徳洲会グループは早くから「年中無休・24時間オープン」を掲げて全国に病院網を広げ、現在は70を超える病院を擁する。組織の力で「休まない医療」を実現してきたモデルである。一般内科や小児科という「地域医療の本丸」にも、その論理が及び始めたと言っていいだろう。

但し、組織化には別の懸念も有る。1つは人材確保だ。365日診療を続けるには、医師だけでなく看護師や医療事務も常に揃える必要が有り、人件費の上昇は経営を直撃する。もう1つは医療の質の担保である。非常勤医が日替わりで診療すれば、診断や処方の水準にばらつきが生じ易く、患者との継続的な関係も築き難い。医師の頭数を揃える事と、診療の質を揃える事は別の話である。

患者が診療時間・予約・アクセス迄含めて医療機関を選ぶ時代、従来型クリニックには自院の役割を明確にする事が求められる。そして病院も、どの様な救急患者を受け入れ、限られた医療資源を何処に振り向けるのかが問われる。365日型の台頭は、病院と診療所の役割分担を含め、地域医療の在り方を見直す契機になるだろう。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

2026-November

RECOMMENDED

第134回 米中の狹間、ネズミのように立ち回れ!
4005

第134回 米中の狹間、ネズミのように立ち回れ!

 早くも令和2(2020)年。干支は庚子(かのえね)である。年賀状にはかわいらしいネズミがあふれていて、微笑ましい正月だ。「子」は本来「孳」という字で、種子の中に新たな生命が兆し始める状態なのだという。 世相に例えるなら...
Return Top