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未来の会

第89回 「日本の医療」を展望する世界目線 医師が組織に属するということ ③

第89回 「日本の医療」を展望する世界目線 医師が組織に属するということ ③

前回に引き続き、2000年発行の私の処女作『医師は変われるか—医療の新しい可能性を求めて—』(はる書房)を参照しつつ考えてみたい。少し昔の書籍であるが、米国留学直後に執筆したものなので、読み直してみても現在の問題に通じる面が多いと思われる。もちろん医師の皆様には周知のことも多いだろうが、この20年間の変化があまりにも少なかったことを確認する意味でも、お付き合いいただきたい。さて当時の状況はどうであったのだろうか。

勤務先によって異なる生活実態

勤務医については、勤務先の病院によって状況は異なる。

1.大学病院の場合

2.国立病院の場合

3.
国立を除く公立病院、あるいは労災・日赤・社会保険病院など公的色彩の強い病院の場合

4.民間病院の場合

である。

最初に仕事の中身について触れよう。これは医師に特徴的なことであるが、採用母体にかかわらず、医師の行う仕事はほぼ同じである。

仕事は外来と病棟に分かれる。内科系と外科系に分けて説明する。内科系は、外来が週に2、3回あり、1回の外来で数十人から100人を超える診察をしなければならない。大体、朝から午後まで、場合により夕方までかかるので、昼食も取らずに診察することになる。診察中に病棟患者の急変などがあれば、そちらにも指示しなければならないのできわめて多忙である。

それ以外の時間が病棟の患者診察や検査に費やされる。普通10人から20人の患者が担当なので、回診や指示が2、3時間を下回ることはない。さらに、カンファレンスや専門分野の勉強会、抄読会があり、あわただしく1週間が過ぎる。内科系は主治医制をとっていることがほとんどで、この場合患者の全責任を主治医が持つので、夜中に呼び出されることもある。

外科系の場合は、手術が中心である。手術日・件数は患者によるので病院によりさまざまであるが、長い手術だと夕方、深夜までかかることもある。その後に患者がおちつくまでの術後管理を入れると、手術件数が多い病院ではきわめて忙しい。

採用母体で差が出るのは勤務の様子と条件である。

2、3の勤務の場合は公務員である。公務員でなくてもそれに準じている。医師の場合も公務員待遇となり、さらに医師手当てなどが付加される。公務員の勤務は9時から17時までというイメージが強いが、医師の場合は上述のようにそうはいかないことが多い。当直業務も月に少なくて1回、多いと数回こなさねばならない。

一方、大学病院の場合は、研究と教育という病院にはない機能を持たされている。私立と国・公立に分けて考えるべきであろう。一般に私立の医学部の場合は、優れた臨床医を育てることが大きな目的であり、地域医療また医師国家試験合格の点にも力を入れていることが多い。一方、国立大学の場合は旧七帝大をはじめとし、基礎的な研究を視野に入れているため、むしろ地域医療がおざなりになってしまうこともある。公立の場合は2者の中間といった感じであろうか? いずれにせよ、大学の3つの機能をすべて完璧にこなすことは不可能に近く、やはり機能分担が重要になってこよう。

民間病院の場合は、上記1、2、3に勤務する医師数に比して一病院あたりの医師数が少ないので仕事量が多くなる。その代表が、時間外勤務と当直回数である。外来も毎日に近い場合もある。しかし、拘束時間は長いが、病院によってはそれほど急性期の患者が多くなく、勤務時間中に自由になる時間があることもある。また、これは私学の医学部にも言えるが、その大学なり病院なりの考え方が強く打ち出されることがあるので、それになじまないと勤務がしにくい場合がある。

世代交代が進む開業医

開業医は、経営者の面も持ち合わせなければならなくなる。開業医間の競争は、実はかなり激しいものである。患者数、Needsが限られている以上、開業医は患者によって選択される立場にある。つまり、競争原理が働くということである。今後この競争は医師数増加に伴って激化すると考えられる。

反面、まともな生活が可能になったという医師もいる。例えば、ビル開業の場合などは診療時間以外には原則、診療しない。独立した医院でもこの傾向はある。これは、夜間の診療所・救急体制が充実したためだ。かつての開業医は真夜中でも起こされていたことを考えると、人間的な生活ができるようになったわけである。また、専門を生かしたグループ診療なども活発化しており、ここでも開業医の負担はかなり軽減されている。現在の開業医は高齢化が進んでおり、近い将来30代、40代の開業医が増加すると予想されている。そうした世代が主流になった時こそ、情報化も含め開業医療にも大きな変化が起きるであろう。

20年間の変化

ここまでが20年前の私の所感であるが、ここで20年間に何が変化して何が変化していなかったかを考えてみたい。今まで述べてきたことから想像されるように、意外に大きな変化は起きていない。

患者を診るという特性がある仕事なので、大きな変化が起きていないということは患者にとって悪かったわけではない。レベルが高い医療のまま20年間が経過しているわけであるから、日本の患者は少なくとも医学的には幸せであったとも言えよう。

だが、プラスの変化なのかマイナスの変化なのかは別として、筆者は大きな変化(改革)の機会は2度ほどあったと考える。

1度目は医療者には悪名高い小泉政権の時である。この時はまさにアメリカ型の医療が導入されるという発想のもとであったためか、最終的には大きな変化は起きなかった。

2度目は民主党政権に変わった時である。この時は、病院医療(特に急性期医療)を重視し、それらを中心に医療を産業化していくといった動きがあった。現状ではインバウンドが、円安日本の救世主のように言われている。そのコンテンツの1つである医療ツーリズムといった動きがそれで、筆者も多少手伝っていた。民主党政権が言わば内部瓦解という形で崩壊し、それは安倍政権に引き継がれた。

アベノミクスはご存知の通り、構造改革を「3本目の矢」にあげてはいたが、実際は低金利の金融政策、補助金中心の財政政策主体の動きであったために、医療界も徐々なる変化に止まっていた。

もちろん変化がないわけではなく、この10年くらいに蓄積されていた変化が今後大きなうねりになりそうだというのが現状である。

具体的に言えば地域医療構想や働き方改革が病院に対して及ぼすインパクトは大きいし、近々では、聖域として残されていた外来医療のあり方がかなりドラスティックに議論されるようになってきている。しかし安倍政権で何より大きいのは、現在の円安でわかるように構造改革ではなく金融政策であったと思われる。日本だけではないが、低金利の金融政策、さらにコロナ禍での財政出動は世界的な金余りを生み、医療にも多くの産業が乗り出してきた。

こういった動きは、政策で作られたものではないだけに、抗うことが難しい。その中で、医師も本連載の主要テーマである、組織人としてのふるまいを考えなければならなくなってきていると言えよう。

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