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未来の会

第134回 米中の狹間、ネズミのように立ち回れ!

第134回 米中の狹間、ネズミのように立ち回れ!

 早くも令和2(2020)年。干支は庚子(かのえね)である。年賀状にはかわいらしいネズミがあふれていて、微笑ましい正月だ。「子」は本来「孳」という字で、種子の中に新たな生命が兆し始める状態なのだという。

 世相に例えるなら、行き詰まった物事に活路を見出せる年ということらしい。「亥固まる」など負の側面も強調された昨年と比べれば、明るい展望も期待出来そうだが、政治の世界で言えば、内外に問題が山積し、視界良好とは言えない。

花見が憂鬱な史上最長の首相

 まずは、内憂からだ。19年秋に突如浮上した安倍晋三首相主催の「桜を見る会」の疑惑がくすぶり続けている。国民の間に広がった疑念は払拭できておらず、首相周辺が内閣支持率の低下に気をもむ状態が続いている。

 茶の間のひんしゅくを買ったのは、この桜を見る会で、菅義偉・官房長官が反社会的勢力と思われる人物とツーショット写真を撮っていたことだった。

 「反社会勢力はいくら何でもまずいよな。菅官房長官もうかつだった。写真まで撮っちゃうんだから。それにしても、SNSは怖い。菅官房長官と写真を撮った男の入れ墨姿があっという間に広がっちゃうんだから。〝国民総スパイ状態〟じゃないの、これじゃ。しばらくは、地元の花見も自粛だな」

 自民党若手議員の軽口は先輩議員にたしなめられそうな問題発言を含んでいるが、1つ的を射ているのはSNSがもたらした社会状況の変化だろう。首相主催の花見に行けば、記念撮影は当たり前だし、SNSに投稿するのも自然の成り行きだ。桜を見る会の問題は、ある意味、〝監視社会〟を作り上げた政府が、己の認識の甘さを露呈した事案でもあるのだ。

 問題の本質は、安倍首相の地元・山口県から850人もの支援者が招待されたことである。当日朝の開催時間に17台のバスに分乗して会場に先に入り、安倍首相夫妻もグループ別に記念撮影に応じた。

 一行は安倍事務所の参加募集に応じた地元後援会のメンバーが大半で、前日には安倍首相夫妻を囲んで歓談していたことが、首相動静にも記されていた。「首相の私物化」との野党の批判は当然だろう。

 桜を見る会には招待客の選定方法以外にも闇の部分が多く、追及されればボロが次々に飛び出す恐れがある。危機を察知した首相官邸はいち早く、20年4月の開催を見送る決定を下したが、これが一層の疑念を生む皮肉な結果になっている。

 「歴代首相がやって来たことだ。メディアも政治利用だと分かっていながら、花見という国民的行事の一環として、大目に見てきたんじゃないか。今頃になって批判するのはずるいだろう。反社会的勢力だというけれど、構成員じゃないんだろ。更正しているかもしれないじゃないか。安倍政権を追い落とすための謀略じゃないのか」

 自民党幹部はマスコミが手のひらを返したと憤懣やる方ないが、それだけ問題のダメージが大きいということだろう。

 首相主催の花見がなくなっても、シーズンになれば全国各地で花見の宴は開かれる。桜花を眺める花見客の脳裏をかすめるのは、桂太郎首相の在任記録2886日を上回り、政治史に輝く大宰相となった安倍首相と菅官房長官の胡散臭い姿に違いない。

 首相周辺には起死回生とばかりに1、2月の解散・総選挙を模索する向きもあるが、自民党長老は「政治を知らない馬鹿者の発想」と一蹴する。

 「〝桜解散〟なんぞで選挙をしたら、散るだけだろう。軽挙妄動は小物のすることだ。慣例が時代遅れになり、馴れ合いが予期せぬ失態を招いたことを素直に反省し、国民に示すしかない。それから、東京五輪を皆で喜べる環境を作る。選挙はその後だ」

 国際情勢では11月の米大統領選が最大の関心事だ。トランプ大統領の再選が濃厚との米国の調査結果もあるが、外交当局は民主党の政権奪還も視野に情報収集を続けている。

 ただし、トランプ大統領との蜜月を考えれば、安倍首相にとって米民主党の新たな大統領との関係構築は骨の折れる仕事になる。安倍首相が政治ジャーナリストの田原総一朗氏に「疲れた」「4選はない」と漏らしたとされるだけに、自民党内には「トランプ落選なら安倍首相も覚悟を決める。ポスト安倍が本格化する」との見方がある。

 もちろん異論もある。「疲れたとは言っても、このままじゃ安倍首相は不完全燃焼だ。長い間、じりじりと燃える炭みたいになっちゃう。誰が大統領になろうと、憲法改正に目鼻が付くまでは辞めない」(自民党中堅)。ともあれ、米大統領選が今年の眼目であることは間違いない。

アジアの焦点は台湾総統選

 アジアも落ち着かない状況だ。香港は11月の区議会(地方議会)選挙で民主派が圧勝したことで、小康状態にはあるが、さらなる民主化を求める大規模デモが続いている。中国では認められていない普通選挙の実施など「5大要求」を掲げており、依然、緊張状態にあると言っていいだろう。

 米国のトランプ大統領が香港に高度な自治を認めるなどとした香港人権法に署名したことなどが追い風になっている。中国は内政干渉と猛烈に反発しており、米中対立の新たな火種なのだが、「トランプ大統領の選挙対策」との見方もある。

 日本も他人事ではない。安倍政権は「桜の咲く時期」に中国の習近平・国家主席を国賓で招く予定になっている。米中が険悪になれば、対応が難しくなる。

 焦眉は1月11日投開票の台湾総統選だ。香港情勢を受け、再選を目指す与党、民主進歩党の蔡英文総統が優位と伝えられている。

 しかし、香港・台湾双方での民主化の過熱は、中国政府が最も警戒する「分断」の動きに繋がりかねず、許容し難い問題となる。貧富の差の拡大などから、中国内部に溜まった不満を誘発させる危険があるからだ。

 かといって、露骨な介入も難しい。人民解放軍を常駐させている香港と異なり、台湾は独自の軍隊を保有しているし、米国も香港以上に強い態度で臨んでくる可能性が高いからだ。 

 外交に詳しい自民党幹部は「アジアに関して言えば、1年の計は台湾にあり。国際関係全てに関わるのが米大統領選。東京五輪を控えた日本は、干支のネズミのようにうまく立ち回らないといけない」と話す。 

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