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未来の会

実効性に懸念が残る政府の「第6波」対策の「全体像」

実効性に懸念が残る政府の「第6波」対策の「全体像」
国の〝アメ〟と〝ムチ〟は医療機関をどこまで動かせるか

岸田文雄政権は11月12日、新型コロナウイルス感染症の「第6波」に備えた対策の全体像をまとめた。病床の使用率を上げることも含め、夏の「第5波」の時の3割増の病床を確保し、医療ひっ迫の再来を防ぐことが柱だ。しかし、前提条件になる医療人材の確保等はあやふやで、実効性に懸念が残る。

 「全体像」の特徴は、感染力が今の2倍強いウイルスが発生しても対処を可能にするとしている点だ。病床が不足し、入院出来ずに自宅等で死亡した人が相次いだ「第5波」の反省を踏まえた内容になっている。同時に自宅で服用出来るコロナの飲み薬を160万回分確保し、薬事承認され次第医療現場へ供給するといった自宅療養向けの対策も盛り込んだ。12日の対策本部で岸田首相は「最悪の事態を想定し、次の感染拡大への備えを固めていく。新たな病床の確保と共に病床使用率を8割以上とすることで夏と比べて3割増の約3万7000人の入院を可能とする」と語った。

 「第6波」に関し、国はウイルスの感染力が2倍に高まっても、若い世代のワクチン接種率が7割になれば全体の感染者数は「第5波」と同等に収まると見る。入院患者数は2割程度増える見込みと言うが、病床を2割増やせば重症患者だけでなく中等症の患者も含めて受け入れ可能と言う訳だ。この為、医療機関の受け入れ体制を今夏の1・2倍に増強するよう都道府県に求めた。

補助金で病床確保も「幽霊病床」が大量発生

 ただ、先の菅義偉政権もコロナ病床確保には力を入れ、医療機関の病床確保数に応じて補助金を支払うと言う〝アメ〟を使った。緊急事態宣言中は重症者1床に付き1950万円、中等症以下は900万円と手厚い内容で、1月時点では全国で約2万8000床だったコロナ対応病床は、首相退任時の9月には4万床超にまで増えた。

 にも拘わらず都市部を中心に「入院難民」が溢れ、治療を受けられないまま自宅で亡くなる人が続出した。入院出来ない人が急激に増えた要因の1つは、都道府県に患者の受け入れ可能と伝えて補助金を手にしながら患者を受け入れなかった医療機関の「幽霊病床」が大量発生した事だ。

 東京都は「第5波」時、コロナ用として数字上では6400床を確保していた。ところが、感染ピーク時に入院出来たのは4300人に過ぎず、全体の病床使用率は65%に留まった。

 厚生労働省の全国1715医療機関を対象とした調査(回答があったのは1290機関)によると、コロナ患者向けに病床を確保した医療機関の2020年度の平均収支は6億6000万円の黒字。平均2000万円の黒字だった前年度から飛躍的に増えた。補助金を除いた収支は3億5000万円の赤字だが、補助金の受給は平均10億1000万円。これで赤字を埋め合わせただけでなく、たっぷりお釣りが戻って来た格好だ。

 10月11日、財務相の諮問機関である財政制度等審議会の分科会では、この報告を受け批判の声が次々に飛び交った。終了後、分科会長代理の増田寛也元総務相は「補助金が命を守る事に繋がったのか」と疑問を呈し、追跡調査をする必要性を指摘した。厚労省は、補助金を受け取りながら実際には患者を受け入れなかった医療機関には返金を求める事にしている。これはしっかりと見届ける必要がある。新たな対策ではこうした幽霊病床を減らす事を狙い、病床使用率を8割まで引き上げる考えも示した。達成に向けて病床の「見える化」を掲げ、病院別の病床使用率の公表等を謳っている。ITの活用により、時差無く病床の使用の有無が分かるようにすると言う。

 それでも、具体的な対策には触れず、今後の検討課題に留めている。現在厚労省が運用する病床の状況を把握するシステムは入力に手間が掛かり、リアルタイムの状況が分かり難い。その場での即断即決を要する入院調整には使い難いのが実情だ。又、人員確保はもちろん、感染対策の徹底を要するコロナ病床は、使用率を高めるのが容易ではない。病床が空き次第、直ぐさま次の患者を受け入れる事は困難と言い、東京都内のある病院の事務長は「病床使用率を8割にするのは至難の業。夏のピーク時でも6割台であったが、7割台にするのが精一杯かも知れない」と話す。

肝は人員不足対策。来春は診療報酬改定も

国が旗を振れど、医療機関は風評被害等を嫌って患者を受け入れない。こうした現状の裏には、8割の病院が民間経営と言う日本の特殊事情もある。国の権限が及び易い公立・公的病院に対し、民間は「経営の自由」を盾に面従腹背する事も珍しくない。政府は感染症法等関連法の改正によって患者受け入れを拒否した医療機関名を公表出来るようにしたものの、効果を十分発揮しているとは言い難い。

 そこで今回は公立・公的病院の重点活用を打ち出した。国立病院機構法等に基づき、国の権限を最大限使う。感染拡大時には臨時医療施設の開設も標榜しているが、医療ひっ迫時には「厚生労働相の要求」を発動し、公立・公的病院の人材を医療スタッフとして送り込む事も明記した。更にウイルスの感染力が3倍になる等した場合は国の責任で一般医療を制限し、国立病院機構等に病床を確保するとしている。これまでも、指揮しやすい公立・公的病院に対しては、国も従来から強く協力を求めて来ている。にも拘わらず、全国で140の病院を運営し計5万床超の病床を有する国立病院機構の場合、コロナ患者用に確保した病床は約2000床に過ぎない。

 「第6波」の到来時に国の意向にどこまで医療機関が従うのかは未知数だ。

 厚労省は、補助金の受給額に対し患者受け入れ実績が乏しい医療機関を対象に聴き取り調査をしている。不正と思われる内容も少なくない反面、看護師ら医療スタッフの不足により病床を使いたくとも使えないのが理由だったと言う医療機関も多いと言う。

 10月26日政府の専門家会合では、「今夏の2倍程度の感染力を想定して医療提供体制を強化する」と言う岸田政権の対策について、「非科学的で根拠が無い」との指摘が複数飛び出した。官邸主導でドタバタで決めた「全体像」について、厚労省幹部は「数字の根拠もそうだし、肝心の医師、看護師不足への対応が弱いんだよな」と漏らす。

 10月31日投開票の衆院選は、コロナ対策が大きな争点に浮上した。岸田政権が11月の全体像取りまとめに先んじて選挙前に駆け込みで大枠を打ち出した背景には、有権者に「コロナ対応は万全」とアピールする思惑もあった。

 来年度は、医療機関に支払われる公定価格である診療報酬の2年に1度の改定年に当たる。22年4月の改定に向け、厚労省は「コロナ禍に対応可能な医療体制作りを最優先」という基本方針案を、11月2日の社会保障審議会医療部会で示した。

 政府はコロナ対策として、医療機関の感染症対策費用を一時的に加算する等、診療報酬を上乗せ出来る特例の他、前述の病院への補助金等、病床確保策に関しては診療報酬外でも様々な対策を打って来た。これらの特例を通常の診療報酬に切り替えるのか、補助金を診療報酬体系に取り込むのか等、検討課題は多い。病床確保に向けた医療機関の役割分担を促す新たな報酬を設けるのか等も議論の対象になる。

 いずれも財源を要するものばかりだ。診療報酬はこれまで、医療機関の収入に直結する本体部分は引き上げる一方で、薬の公定価格である薬価を引き下げ、全体ではマイナスになる改定を繰り返してきた。薬価の減額分を本体部分のプラス改定分に充てる事で財源を捻出する手法だ。しかし、薬価の引き下げは常態化しており、製薬業界の反発は強まっている。夏に参院選が控える中、例年通りの手法が採れる保証は無い。

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