SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第177回 政界サーチ 岸田首相、政権運営の〝スーダラ節〟

第177回 政界サーチ 岸田首相、政権運営の〝スーダラ節〟

株価上昇で少し潤ったと思いきや、再びの円安、物価高で相殺されて儲け無し。低金利で貯金は目減りするばかり。高齢者や中小企業経営者の盛夏のぼやきである。希望を秘めた筈の新型コロナ明けは、経済指標が踊るばかりで、国民の笑顔とはかけ離れた展開が続いている。一旦持ち直した岸田文雄政権の支持率も身内の不祥事を契機に低空安定飛行に逆戻りだ。

 ♬これじゃ、解散出来るわきゃないよ。分かっちゃいるけど止められねぇ♬

 往年のお笑いスター、ハナ肇とクレージーキャッツの名曲「スーダラ節」をもじったフレーズは、ある飲み会で自民党若手が披露した替え歌である。その心を問うと、こんな回答が返って来た。

 「岸田首相は通常国会の終盤で、さんざん煽った末に衆院解散を見送った。メディアからは解散を弄んだとの厳しい指摘も有ったけど、自分で自分の首を絞めた様なもんだ。だって、秋に経済が好転する保障は何処にも無いし、野党の選挙準備だって進んじゃうでしょ。マイナンバーカードの総点検でボロが出れば、〝解散出来るわきゃないよ〟の状況にもなり兼ねない。悪い事に〝サミット明けの解散見送り〟が国民の脳裏に焼き付いているから、秋の臨時国会での解散は半ば既定路線の様になってしまってる。で、2回続けて見送ればどうなるかというと、〝解散も出来ない駄目な首相〟という評価が出て来る。そこを堪えて、来年の総裁選前の解散を窺うにしても、半ば〝狼少年〟状態だよね。好材料が無ければ、そのまま辞任って事にもなり兼ねないよ、これ」

 長文になったが、広島サミット明け解散を望んでいた自民党議員らの偽らざる気持ちというところだろう。

 勿論、逆の立場の議員も居る。旧統一教会との関連が取り沙汰され、苦境に立たされて来た人達だ。ほとぼりを冷ましながら、何とか、公認のお墨付きを取り始めているが、地元の反対で公認を得られていない議員も居る。

 「そもそも、岸田首相は解散するなんて考えていなかったんじゃないの。野党を含めて周囲が勝手に盛り上がっただけで。僕はそう思うな。だって、何もメリット無いじゃないですか。秋に内閣改造・党人事をやって、そのまま続けるんじゃないんですかね」

 公認持ち越し状態が続く中堅議員の言である。一見、政局の分析・展望の様なのだが、自分の身の上が危ないので、必死に解散を遠ざけようとしている気持ちが滲み出ている。失礼を承知の上で言うと、何とも可愛い発言なのだが、核心を突いている部分も有る。

 実は自民党が「広島サミット明け解散」を念頭に実施した世論調査は与党大敗の結果だったからだ。それによると、自民党は42減の220議席、公明党は9減の23議席で、与党51議席減の大敗。一方の野党は立憲民主党が17増の114議席、日本維新の会は34増の75議席になっていた。

 与党過半数割れ迄は負け込んでいないので、野党の政権奪取は無いが、それでも、「岸田首相が退陣を迫られる様な状況になっただろう」と自民党関係者は語っている。選挙は〝生き物〟なので、やってみなければ分からない面も有るが、岸田首相の解散戦略に影響した事は否めないだろう。

 公認待ちの自民党中堅が早期解散にメリット無しと指摘したのにはこうした背景が有る。

 「岸田首相は解散なんて考えてなかったんじゃないの」という推測にも根拠らしきものが有る。首相官邸筋からこんな声が漏れているのだ。

 「岸田首相はまったく変わっていないのに、周囲が勝手に盛り上がっただけだ。元々、岸田首相に解散する気は無く、政局の主導権確保の為、わざと解散風を煽っただけだ」

 解散風を際立たせた6月13日の「会期末の状況を見極めて判断する」との発言の際に岸田首相が含み笑いを見せたのに意味が有るという。少し古いが映像記録を探ってみると、確かにニヤリとしている。喜怒哀楽の表情はそれぞれの個性だ。岸田首相の場合、追い込まれていてもニヤリとする事が有り、断定的には言えないが、どこか挑発的な雰囲気が有り、政局ゲーム臭が漂っていた。

 自民党幹部が語る。

 「俺は解散は無いと思っていたよ。岸田さんは解散風をコントロールする事で政局の安定を図って来たからね。3月末に解散説が飛び交った時、岸田首相は周辺に『今やったら多少議席が増えるかも知れないが、政治的には無意味、早期解散など考える必要は無い』と言ったらしい。今回もその延長と言う事だろう。ただ、やり過ぎると、ミイラ取りがミイラになる、だな。大権のコントロールは段々、難しくなるから」

 政界をざわつかせた6月の解散風は岸田首相の一芝居という事の様だ。但し、この一芝居は危険と裏腹である。度重なれば〝狼少年〟状態になり、信用を失うからだ。信用を失えば、解散どころじゃ無くなるのは言う迄もない。岸田首相もその辺は十分承知している。解散風の威力を損なわない様、ゲームの機微を捉えながら、芝居を続け、権力基盤の強化を図るしか無いのだ。

 さて、その権力基盤の強化に向け、岸田首相が重視しているのは秋の内閣改造・党役員人事とされる。

衆目は内閣改造・党役員人事へ

秋の臨時国会解散説が残る中での人事だから、自民党内では解散戦略と共に語られる事が多く、若手や女性の大胆な起用等のサプライズ人事を期待する声が出ている。但し、昨年8月の内閣改造では初入閣3人を含む4閣僚が不祥事で相次いで辞任に追い込まれており、「最小限に止めた方が得策」との見方も根強い。顔ぶれが華やかなら「秋解散有り」、地味なら「秋解散無し」との予測も出始めた。

 現職では、河野太郎・デジタル相の処遇が焦点と見られる。マイナンバーカード問題の責任論も出ているが、吊るし上げを食らう筈のNHK特番で、歯切れの良い応答振りを見せ、寧ろ好感度を上げたとの評価も有る。党内に代役が見当たらない事情も踏まえ、首相周辺は「自由にさせると倒閣に動き兼ねないから、閣内に封じ込めて置いた方がいい」との考えの様だ。

 もし、重要閣僚や幹事長等の要職で処遇する様なら、岸田内閣や今後の政局に大きな変化をもたらす起点にもなるが、自民党幹部は「そんなメディアが喜ぶ様な人事をする訳無いだろう」と一蹴する。有り得るのはその逆だと言う。「マイナンバーカードで問題が発覚したら、健康保険証との一体化は延期する。河野には雑巾掛けを続けて貰う。問題が無いなら、尚更、続投させる。とにかく、政局準備の暇を与えない様にすればいい」と、ライバルの封じ込め作戦を推奨している。

 岸田首相は8月下旬に米国での日米韓3カ国首脳会談を控えている。日本の首相は、秋の外交日程の本格化を前にした夏休み時期に別荘等で人事構想を練るのが通例で、岸田首相も人事熟慮の盛夏となりそうだ。 

小沢一郎81歳、最後の1戦?

 一方の野党陣営。この所、話題に乏しいと思っていたら、立憲民主党所属の小沢一郎・衆院議員が「野党候補の一本化で政権交代を実現する有志の会」を発足させ、次期衆院選に向けた動きを活発化させている。

 小沢氏は既に81歳。前回衆院選では小選挙区での議席獲得すら叶わなかったが、政党支持率で日本維新の会に全く及ばない現執行部に見切りを付け、〝最後の1戦〟に舵を切ったとの見方も出ている。当面は、野党相互の選挙協力がテーマだが、地方分権推進等で、小沢氏と維新には共通性が有る。「どうせ失敗に終わると思うが、何をやって来るか分からんから注意して置かないとな」と自民党長老らが、動向を気にし始めている。「政局・秋の陣」の見所の1つにはなりそうだ。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top