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未来の会

日野市立病院、資金繰りの綱渡り

日野市立病院、資金繰りの綱渡り

1億円緊急融資の内幕に見る公立病院に共通する構図

東京都日野市が、日野市立病院への1億円緊急貸し付けを決めた。古賀壮志市長が8月28日の定例記者会見で明らかにしたところによると、同病院の資金繰りが行き詰まり、医師や看護師、事務職員ら約700人分の9月給与、約2億7000万円が支払えなくなる恐れが生じた為だという。

引き金となったのは、9月19日から23日迄の5連休という、ごくありふれたカレンダーの巡り合わせである。本来21日に予定していた給与支払いを18日に前倒しする必要が生じる一方、同月分の診療収入の入金は連休明けの24日にずれ込む。この数日間のタイムラグが、病院の手持ち資金の底を突かせた。市は9月1日開会の市議会に補正予算案を提出し、可決を経て病院側に貸し付ける段取りを組んだ。だが、会見資料を読み込むと、今年度はこの1億円とは別枠で10億円を支援する方針を既に固めており、この短期貸付の1億円と経営支援目的の長期貸付10億円が、同じ議会にセットで諮られていた事が分かる。更に言えば、市は前年の2025年度にも10億円を病院に貸し付けており、合計すれば21億円規模の公金投入となる。これは最早、単発の「輸血」というより、常態化した延命措置と言うべき実態が浮かんでくる。

慢性化する赤字体質の実態

資金ショートの背景には、病院の根深い赤字構造がある。市が5月に設置した「日野市立病院在り方検討委員会」の第2回会合に提出された資料によれば、24年度の医業損益は23億8000万円の赤字。同年度の決算書を見ると、業務活動によるキャッシュフローは7億3000万円のマイナスで、期末の資金残高は6億6000万円程度迄目減りしたとの試算もある。同年度決算から給与費が医業収益に占める割合を試算すると、凡そ80%台に達する。厚生労働省が公表している病院経営管理指標を見ると、人件費率は一般病院で概ね50%台、比較的水準が高いとされる精神科病院でも60%台に留まる。その先の70%前後が経営破綻の危険水域とされるのが業界の目安であり、日野はその水域を更に超えて80%台に達している。

市の担当者はこの状況を「半ば自転車操業が続いている」と表現したが、この綱渡りは今に始まった話ではない。市が17年に纏めた「日野市立病院の経営に関する第三者委員会」の議事録には、一般会計からの繰出金が当時既に年11億円に達し、「このまま(11億円を)出し続ける事は困難」との指摘が記されている。20年度決算では、コロナ禍による延患者数の急減で入院収益が前年度比マイナス16.34%、外来収益が同じく7.68%落ち込み、しかも患者数はその後もコロナ前の水準には戻っていない。更には、近隣の総合病院との競争や物価高に伴う人件費・材料費の上昇も、収益の回復を上回るペースで経営を圧迫し続けてきた。

全国に広がる苦境と改革で分かれる明暗

日野市立病院の苦境は、特殊な事例ではない。総務省の統計では、コロナ禍に於ける病床確保料等の特例的な補助金交付により、20〜22年度は、公立病院全体としては黒字を確保していた。しかし、23年度にはコロナ前の19年度以来4年振りに全体が赤字に転落。経常赤字額は、過去最大の2055億円に達した。そして24年度、その赤字額はほぼ倍化して3952億円に膨らみ、全国の公立病院の83.3%が経常赤字に陥った。公立病院は救急、周産期、感染症といった不採算部門を数多く担う宿命にあり、全国一律の診療報酬という価格体系の中では、上昇し続ける人件費や物価を吸収し切れない構図が続いている。

同省が纏めた病院事業全体の推移を見ても、24年度の医業収益(他会計繰入金を除く)は4兆6821億円に留まる一方、医業費用は5兆7238億円に達し、両者の開きは拡大傾向が続いている。年間の入院延患者数も5151万人余り、外来延患者数は8298万人余りに留まり、何れもコロナ禍前の水準を回復していない。日野市立病院が抱える問題は、全国の公立病院に共通する縮図とも言えるのだ。こうした状況を受けて総務省は、22年、各病院に22〜23年度中の「経営強化プラン」策定を求めた。計画期間は27年度迄を標準としたが、計画作りと実際の収支改善が連動している自治体病院は多くない。

実際、同種の資金繰りの危機は全国に広がっている。宮城県の大崎市民病院では約2年前、経営悪化により約10億円分の職員の時間外手当を全額支給出来ない事態が発覚し、分割支給に追い込まれた。長野県の松本市立病院(旧・波田総合病院)でも、16年に流動資金が11億円まで減少し、債務超過寸前に追い込まれた。地元市民団体の資料によれば松本市は、この窮状を機に抜本的な改革を迫るのではなく、その後3年間で19億4000万円を穴埋めに使い急場を凌いだ。同院では11〜22年度迄の12年間、実質的な赤字が続いていたという。「赤字は市が穴埋めするもの」という安心感を、皮肉にもその場凌ぎの支援自体が助長してしまった面は否めない。

一方で、経営改善に成功した自治体病院が無い訳ではない。神奈川県の小田原市立病院(417床)は、10年程前まで医業利益がマイナス10億円まで落ち込んでいたが、組織改革に粘り強く取り組み、22年度に繰入金を除く医業収支を黒字に転換させた。7年間で医業収支を20億円改善し、全国の公立病院でもトップクラスの医業利益を計上、22年度に自治体立優良病院表彰を、23年度には同総務大臣表彰を連続で受けている。

日野市立病院に於ける人件費とガバナンスの緩み

小田原の様な成果に繋がる組織改革を、日野では未だ実現出来ていない。同病院を知る医療関係者からは、事務職員の多さや年功序列による人件費の高止まりに加え、集患に力を注ぐ私立病院と比べ、経営上の危機感の薄さを指摘する声も聞かれる。

加えて、市が12年に元副市長を「院長相談役」として任用し、19年迄の7年間で給与・手当計約5555万円を支払っていた一件について、東京地裁は今年6月26日、当時市長だった大坪冬彦氏の監督上の義務違反を認め、市に一部支払いを請求する様命じる判決を出している。資金繰りだけでなく、組織のガバナンスにも長年の緩みが指摘されてきた病院なのだ。

「命を守る砦」は誰が支えるのか

日野市の古賀市長は会見で、「経営改善に向け、職員から提案を受けたり、有識者を含めた検討を重ねたりしている」とした上で、「市立病院は市民の生命を守る砦。安心して受診して頂ける体制を目指し、取り組みを続けたい」と述べた。

在り方検討委員会は今年7月21日の第3回会合で、高齢者の救急対応等を議題に挙げ、病院の存続を前提に診療科や病床数の再編を協議しているが、結論は未だ出ていない。指定管理者制度の導入や地方独立行政法人化といった経営形態の転換は、他の自治体病院では既に珍しい選択肢ではなくなっているが、日野市が何処まで踏み込むかは見通せていない。

資金繰りが本当に行き詰まれば、真っ先に影響を受けるのは700人の職員の生活であり、次いで市内で急性期の入院医療を担う数少ない病床を頼る市民である。日野市の対応を巡っては、「不採算でも住民の命を守る社会インフラだから税金を投じるのは当然」という擁護論と、「経営改善の努力が見えないまま延命だけを続けるのは、市民の理解を得られない」という批判論が、共に根強く存在する。公立病院にはそもそも採算だけでは測れない使命があるとは言え、税金による穴埋めが際限無く続けば、それも又別の形で市民生活を圧迫する。

「砦を守る」という言葉は美しい。だが、それを実際に支えているのは、2年連続で投じられる10億円規模の公金に他ならない。貸し付けは返済を前提とした措置であり、赤字体質そのものを変えない限り、来年もまた同じ時期に同じ議論が繰り返される公算が大きい。在り方検討委員会が病床数や診療科の再編に踏み込めるかどうかが、同じ綱渡りを繰り返さずに済むかどうかを左右する分水嶺となる。市民の命を守る使命を全うする為には、先ずその土台を数字で語る責任が、市にも病院にも問われている。

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