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未来の会

第206回 経営に活かす法律の知恵袋
◉ 保険医こそが保険医療の担い手

第206回 経営に活かす法律の知恵袋◉ 保険医こそが保険医療の担い手

保険医療の担い手

保険医と保険医療機関は、保険医療の担い手(保険医療の提供者)である。しかしながら、その法律における存在感は甚だ薄い。

保険医や保険医療機関の定めは、現行の健康保険法上、第64条から第73条まで、第78条から第83条までに飛び飛びに存在しており、第4章「保険給付」の中に埋没しているに過ぎない。

ところが、たとえば、それらの冒頭の第64条を見れば、その内容たるや、保険診療は保険医療機関において保険医が行うものでなければならない、という二重指定を定める極めて重要な規定である。

実際の条文は、「保険医療機関において健康保険の診療に従事する医師若しくは歯科医師又は保険薬局において健康保険の調剤に従事する薬剤師は、厚生労働大臣の登録を受けた医師若しくは歯科医師(以下「保険医」と総称する)又は薬剤師(以下「保険薬剤師」という。)でなければならない」と定める。

また、保険医療機関についても、第65条第1項は、「第63条第3項第1号の指定は、政令で定めるところにより、病院若しくは診療所又は薬局の開設者の申請により行う」と規定する。さらに第2項では、病院又は病床を有する診療所について、病床の種別ごとにその数を定めて申請することとしている。

これらのような一群の条文は、本来ならば、1つの章、たとえば「保険医及び保険医療機関」という表題を設け、明瞭にしておくべきであろう。

そうすれば、適正な手続を踏むための具体的な定めも設けやすくなり、保険医や保険医療機関が場当たり的で恣意的な「保険給付」の規制に振り回されることも少なくなるところである。

現在は「第4章 保険給付」の中に混在しているが、法律を改正し、「第4章 保険医療機関及び保険医」「第5章 保険給付」というように分離して明確化すべきであろう。そうすれば、場当たり的で恣意的な法律改正は行われにくくなり、しかも、怪しげな法律改正も直ちに見極めやすくなるところである。

そのため、現状の運用は、手続的にも内容的にも、かなり問題があるように思う。

個別指導の現場での暴言

すでに個別指導の現場から駆逐されたと思われた指導医療官の暴言が、今も水面下で残っているらしい。たとえば、ある指導医療官が次のような発言をしたという。

・指導中、終始威圧的な対応が続き、技工指示書と納品書の整合性を確認している最中、複雑な症例であったため保険医が説明しようとすると、「カルテにきちんと記載されていないからだろ」と大声で罵倒

・カルテの筆跡を根拠なく疑い、「(カルテを改ざんしたと)認めろ」と迫る

・算定要件の理解不足による書類不備等が認められた際には、「患者の顔がお金に見えてるのでしょ」といった発言

・「研修医でも分かること。研修医からやり直したら」「歯科医師やめたら」といった発言

また、甚だ不正確な指導を堂々と行っていることもあるらしい。

・在宅患者訪問診療料の看取り加算について、「死亡の瞬間に立ち会っていること」が、あたかもその要件であるかのように指摘された

・在宅療養指導管理料について、「教え導く内容になっていない。本来ならば算定できない」などと指摘を受けた

・退院時共同指導料で「指導の要点の記載が不十分」と指摘されたが、算定要件には「行った指導の内容等について、要点を診療録等に記載し、又は患者若しくはその家族等に提供した文書の写しを診療録等に添付する」とある。当該医療機関では作成文書の写しを交付していたため、そもそも指摘を受ける理由がなかった

したがって、保険診療の担い手である「保険医」を守るためにも、健康保険法の改正を行う必要を改めて感じるところである。

「療養の給付」の縮減への蠢動

OTC類似薬の問題と捉えられている「一部保険外療養」の創設は、運用上はともかく、少なくとも法律の条文上は、広く一般に「療養」を制限することが可能となっている。これは、実質的には「療養の給付」を縮減する方向に働く傾向を有するものであり、かつ、法治主義に緩みをもたらすもので、好ましい方向とは言えない。

改正健康保険法第63条第2項第6号は、要指導医薬品又は一般用医薬品との代替性が特に高い薬剤を用いた療養について、「その他の適正な医療の提供を確保しつつ、公平かつ効率的な保険給付を行う必要性に鑑みその要する費用のうち一部を保険給付の対象としないものとする療養として厚生労働大臣が定めるもの」を「一部保険外療養」としている。

この「その他の適正な医療の提供を確保しつつ」という文言を含め、「療養の給付」の縮減や「法治主義」の緩みをもたらすという批判は、もっともだったと評しえよう。

同じようなことは、「予約診療の患者都合によるキャンセル料」を巡る右往左往にも垣間見える。「予約」も診療に関係することであり、広くは「療養の給付」の一環であると捉えるのが常識的であろう。

そうしてみると、それが厚労省保険局医療課長の一片の通知で右へ左へと変わり得るというのは、「療養の給付」の範囲の縮減のみならず、法治主義の問題としても、やはり芳しいものではない。

以上に述べてきたところを総合的に考慮すると、やはり健康保険法を適切に改正し、保険医療の内容のみならず、その「担い手」たる保険医及び保険医療機関の地位を確立することが望ましいと言えよう。

健康保険法の構造

以上に述べて来たところを整理すると、大要、次のとおりになるであろう。

①健康保険法の改正は結構、頻繁に行われており、実は、法律改正自体は思いのほか容易である。

②健康保険法は、第1章「総則」、第2章「保険者」、第3章「被保険者」、第4章「保険給付」が大きな柱となっている。そして、「保険医療の担い手」たる「保険医」「保険医療機関」に関する定めは、まとまって独立したものとはなっておらず、「保険給付」の内容に関する定めと渾然一体となっているとも言えよう。

③今は第2章「保険者」の保険者機能の強化、第3章「被保険者」の社会保険料の負担軽減、第4章「保険給付」の給付制限ばかりが着目されている。

④残念ながら、第1章「総則」における「基本的人権」の観念の充填(担い手たる保険医や保険医療機関の「診療権」と被保険者たる患者の「受療権」を明示する等)、第4章「保険給付」の担い手(保険医療機関と保険医)の充実(手続保障と診療内容の充実)という側面は乏しい。

⑤つまり、特に第1章では「診療権」と「受療権」、第4章では「担い手」の「手続的保障」が弱い。

⑥担い手たる「保険医」と「保険医療機関」の立場を代弁・補佐する、「代理人・立会人・参加人」等の保障の法定が望まれる。現状は、「帯同」という形で最低限の手続保障の運営はされている。しかし、もう1つグレードアップし、「弁護士の立会権」を法定して確立させたいところであろう。

⑦「保険医療機関と保険医」という章を、第4章「保険給付」から抜き出し、独立した章として設けることも、1つの立法のアイデアであろう。第4章として「保険医療機関及び保険医」を挿入し、「保険医療機関及び保険医療養担当規則」に相当する分野は、1章ずらした第5章「保険給付」に譲る。むしろ、「保険医療機関及び保険医」の資格の得喪、指導・監査・適時調査、弁護士選任権、手続的保障、実体的な診療内容の保障等、「保険医療の担い手」に着目した定めを充実させるべきであろう。

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