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未来の会

製薬営業のデジタル化でついに来る「MRの本格受難」

製薬営業のデジタル化でついに来る「MRの本格受難」
製薬大手は始動、出遅れる中堅も早晩対応は必至だ

製薬企業の営業を支えてきたMR(医薬情報担当者)が受難の時代を迎えようとしている。

 病院やクリニックの医師を訪問し、情報を提供し自社の薬の処方を働き掛けるMRの対面営業。これにインターネット等を通じた情報提供、営業のデジタル化が取って代わろうとしているためだ。

 既に日本のMR数は減少局面にある。2013年度末(14年3月末)の6万5752人をピークに6年連続の減少で19年度末は5万7158人になった。19年度は2742人減り、1年間の減少数は過去最高を記録している。

 これは日本の医薬品市場の頭打ちが原因だ。少子高齢化を背景に日本の医療費は膨張し、医療財政が逼迫するとの懸念が強まる中、日本政府は薬価抑制に躍起になっている。つい先ごろ広範な品目を対象に大幅引き下げで決着した毎年薬価改定もその1つだ。日本の医薬品市場は中期的に先進国唯一のマイナス成長市場になりつつあるわけだ。

 これまでに起きているMRの減少は、13年まで膨み過ぎた業界全体の営業体制を緩やかに調整するものだ。

IT3社が急成長 

 しかしこれからは違う。MRの減少という現象は同じでも、その減少幅、速度ともこれまでとは桁違いになる恐れが濃厚になっている。

 MRという職種がいなくても、インターネットやWEBを通じた営業のデジタル化、情報提供で十分、むしろ製薬会社、医師の双方にとって、それが最適解なのではないかという機運が高まってくるはずだ。

 デジタルによる製薬企業の営業支援を事業の柱にする新興IT企業群の急成長はその流れを一部先取りしている。「医療界のヤフー」と称され、成長企業として有名なエムスリーに加え、ケアネットとメドピアを加えた3社の業績は急成長中だ。

 エムスリーの21年3月期第3四半期累計決算期(20年4〜12月期)の売り上げは前年同期比28%増の1237億円、営業利益は58%増の424億円だった。規模は小さいが、ケアネットの20年12月期の売り上げは62%増の53億円、営業利益が前期比2・5倍の15億円、メドピアの20年9月期の売り上げは74%増の53億円、営業利益は2倍の11億円となり、成長率ではエムスリーをしのぐ勢いだ。

 3社の直近3カ月、20年10月〜12月期売上げを見ると、エムスリーが前年同期比40%増、ケアネットが89%増、メドピアが2倍となっていて、勢いは増すばかりだ。

 エムスリーの場合、祖業の「MR君」という医薬品情報を医師にネットで届けるサービスの拡大が会社の好業績・急成長をけん引する。このビジネスモデルの肝は、「m3.com」という医療情報サイトにある。医療記事や求人情報、掲示板など役立つ情報を簡単に見る事が出来る便利さと情報へのアクセス等でポイントが付くメリットからこのサイトは多数の医療従事者を引き寄せる。特に全国医師数の約9割、29万人の医師を会員化した点はエムスリーの最大の強みだ。後続2社の主力事業もほぼ同じ方式と考えていい。

 忙しい医師にとっては、MRとの接触のわずらわしさや、割く時間を省ける。必要な時に必要な情報をネットで得られるメリットは大きい。

 長時間待った挙句に数分の面談時間をもらうのがやっとのMRも珍しくない。この対面営業が元々抱える非効率性に加え、MR活動には規制強化に伴いMRの営業面での強みも薄れてきている。

 こうした事もあって、製薬大手を中心にMRによる対面営業一辺倒でなく、むしろ多数の医師に情報提供が可能なデジタル営業に魅力を感じ、資源配分を移動させ始めているのがここ最近の動きだ。

 もちろん昨年起きた新型コロナウイルス感染拡大が、流れを加速させた事は間違いない。昨春の全面禁止までは行かなくても、MRとの対面接触に制限を課す病院は今も少なくない。MRも携帯電話、メール等での営業をする事になるが、ここではIT企業によるデジタル営業が圧倒的に有利だ。先述3社のこの1年の業績の急拡大から、この点は明白だ。

 では新型コロナの感染が収束すれば、MRの復権となるのか。そうとは言えないのがMRにはつらい点だ。

 コロナ下の製薬営業で、MRにとっての「不都合な真実」が暴露されてしまったからだ。

 デジタルを使った情報アクセスに利点が大きい事を顧客である医師側が頭に刷り込んでしまった。対面営業ならではの情報提供が出来るMRは別にして、それが出来ないMRよりは、いつでもどこでも手軽に正確な情報を得られるデジタルツールに一旦傾いた以上、医師が逆戻りする事はないだろう。

 更にMRが対面営業出来なくても、別段薬の売り上げが落ちない事が露呈したのもMRにはより大きな打撃だ。製薬大手のMRでは給与が1000万円を超すのもざらだ。MRに給与に見合う生産性があるのか、コロナ下で製薬企業も自問し始めているはずだ。

 「デジタルを使った情報提供で十分という流れはポストコロナでも変わらない」。先述した1T企業の役員からはこんな声も漏れる。3社とも成長に自信を深め、積極的な人材採用、システム・メニューの開発など攻めの投資を一段拡大する構えだ。

エムスリー「悪魔の予言」

 エムスリーの今第3四半期決算説明会資料に、MRにとっての「悪魔の予言」がグラフ入りで載った。   

 現状1兆5000億円の日本の製薬業界全体の営業コストは今後1兆円前後に縮小する。そのうちインターネット経由の営業に使う比率は現状の2%(売上げで約300億円)から将来は20〜30%(同2000億〜3000億円)に拡大するという見込み図だ。

 MRによる対面営業などの費用が大半を占める従来型の製薬営業コストは現状の1兆5000億円から今後は7000億〜8000億円(中央値をとれば7500億円)へと半減する展望が示されている。

 単純比例するとは言い切れないにしても、MRの大幅削減必至と読み解ける、MRにはまさに先行き真っ暗の内容になっているのだ。

 これと呼応するかのような営業デジタル化の動きも製薬大手の中から出始めている。

 業界最大手の武田薬品工業は希望退職募集による500人とも推定されるMR削減の一方で、昨年11月にMRの中から220人を「デジタルリード」に任命、岩﨑真人取締役が強調する「リアルとデジタルのベストミックス」への現場からの促進と営業生産性の向上に踏み込んだ。

 中外製薬も昨年12月の説明会で自社ホームページの医師向け情報サイト「PLUS CHUGAI」の充実やケアネット、メドピア等外部への情報の配信数拡充等、デジタルマーケティング戦略を強化した。

 これと好対照なのが中堅以下の製薬企業だ。縮小する国内売り上げ依存が大きい上、1人当たりのMRの売り上げも大手に比べ劣るため、デジタル化が大手以上に急務のはずだが、未だ動きは鈍い。

 しかし大手が走り出せば、競争力確保の観点から中堅以下もその流れに踏み出さざるを得なくなるのは目に見えている。MRの削減、製薬営業デジタル化がセットで進む本番は、そこから始まる。その転換点到来はそう遠くないはずだ。

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