
産科医療機関と助産所は、来年度にかけて大きな変動を余儀なくされる。そこで、「正常分娩の現物給付化」に向けて、特に経営に必須な情報を整理する。
まず、2026年4月から有床助産所・病院・有床診療所を対象に「医療安全管理者の配置」が義務付けられた(無床助産所・無床診療所は対象外)。医療安全管理者になるための特別な資格はなく、事務職等でも可能となるが、月1回程度、医療安全管理委員会を開き、ヒヤリハットや勉強会などの記録を残すことでその要件を満たす。
健康保険法改正案について
正常分娩の現物給付化等を含む「健康保険法等の一部を改正する法律案」が26年3月13日に内閣から衆議院に提出された。両院で可決成立されれば27年6月頃に施行の予定で、全国一律の基本単価を国が定め、医療機関や助産所に「分娩費」を直接支払う「現物給付」となる。ただし、一定の現金給付もある。健康保険法等の一部を改正する法律案の主な論点は以下の通り。
・「分娩の手当」は、分娩に伴う診療・ケア等を意味する
・分娩費は、正常分娩でない場合(帝王切開等、いわゆる異常分娩の場合)にも、保険診療以外の分娩対応を対象として支給
・指定助産所(申請により指定を受けた助産所)が現物給付の対象となる(第98条の2:分娩費の支給に関する規定。戦前の「助産の手当」は、今回の改正案では「分娩の手当」という概念が相応するものとして導入されている )。
・分娩の手当に従事する助産師は、登録助産師(厚生労働大臣の登録を受けた助産師) でなければならない(第98条の4)。
・経過措置として、指定助産所の申請を行わない助産所は「特例分娩取扱施設」として従来の「出産育児一時金」制度のまま業務を継続できる。
・助産所は当面の間、「指定助産所」または「特例分娩取扱施設」が選択可能(途中で切り替えも可能)。
この内、第98条の9「指定助産所のみなし指定」については、無床の出張分娩専門助産師を救済する意図と思われるが、法人開設や複数助産師の場合が対象外と読めるため、実態に即していない懸念があり、省令・通達での補完が必要である。
出産時一時金等の創設等に関する事項
1)分娩費の創設と現物支給
出産に対する保険給付として分娩費を創設し、被保険者が、分娩取扱保険医療機関等(分娩を取り扱う保険医療機関又は保険者が指定する病院等)又は指定助産所等(厚労大臣が指定する助産所又は保険者が指定する助産所等)から分娩の手当を受けたときは、分娩に要する標準的な費用の額を勘案して厚労大臣が定める額を分娩費として支給する(第98条の2第1項、第2項) 。
2)代理受領(現物給付)の仕組み
保険者は、被保険者が分娩取扱保険医療機関等又は指定助産所等に支払うべき分娩の手当に要した費用について、分娩費として支給すべき額の限度において、被保険者に代わって支払うことができる(第98条の2第3項)。
3)審査・支払い義務の委託
保険者は、分娩費に係る審査及び支払に関する事務を、医療情報基盤・診療報酬審査支払機構(以下「基盤機構」)又は国民健康保険団体連合会に委託することができる(第98条の2第8項)。
4)現物給付困難時の現金給付
保険者は、被保険者が分娩の手当を受ける場合において、分娩費の支給を行うことが困難であると認めるとき等は、1)の定めの例により算定した費用の額を基準として保険者が定める当該費用相当額を支給することができる。ただし、その額は、現に当該分娩の手当に要した費用の額を超えることができない(第98条の2第10項)。
5)登録助産師の義務
分娩取扱保険医療機関又は指定助産所において健康保険の分娩の手当に従事する医師又は助産師は、保険医又は厚労大臣の登録を受けた 登録助産師でなければならない(第98条の4)。
6)指定助産所について
指定助産所は、厚生労働省令で定めるところにより、登録助産師に分娩の手当に当たらせるほか、分娩費に係る分娩の手当を担当しなければならない。また、分娩取扱保険医療機関又は指定助産所において分娩の手当に従事する登録助産師は、厚生労働省令で定めるところにより、健康保険その他医療保険各法による分娩の手当に当たらなければならない。指定助産所の指定は、政令で定めるところにより、助産所の開設者の申請により行う(第98条の10、第98条の13、第98条の6第1項)。
7)出産時一時金・家族分娩費等の創設
出産に対する保険給付として、出産時一時金を創設し、被保険者が分娩取扱保険医療機関等又は指定助産所等から分娩の手当を受け、出産したときは、政令で定める金額を支給する(第101条係)。
8)情報提供・報告及び公表の義務
分娩取扱保険医療機関等又は指定助産所等の管理者は、あらかじめ、分娩の手当を受けようとする被保険者に対し、分娩費及び出産時一時金に係る内容・費用等、厚労大臣が定める情報を提供する。また、分娩取扱保険医療機関又は指定助産所の管理者は、これらの情報を厚労大臣に報告しなければならない。厚労大臣は、当該報告を受けたときは、被保険者に分かりやすい形で公表するとともに、その周知に努めなければならない(第98条の22、第98条の23係)。
9)家族分娩費・家族出産時一時金の創設
出産に対する保険給付として家族分娩費及び家族出産時一時金を創設し、その内容は1)から8)までに準ずる(第112条の2、第114条)。
10)出産給付に係る財源措置(出産交付金)
分娩費、出産時一時金、家族分娩費、家族出産時一時金等の支給に要する費用の一部については、政令で定めるところにより、基盤機構が保険者に交付する出産交付金をもって充てる(第152条の2)。
注意を要する条文
1)指定助産所のみなし指定
第98条の9は、助産所が助産師により開設され、かつ当該助産師のみが分娩の手当に従事し、その助産師が第98条の4の登録を受けている場合には、当該助産所について指定助産所の指定があったものとみなす旨を定めている。ただし、一定の要件に該当し厚労大臣が不適当と認める場合には、この限りでない。この規定は、「出張のみによってその業務に従事する助産師」(医療法第5条)などを想定し、簡便に指定を認める趣旨のものであるが、適用対象の範囲については解釈上の留意が必要である。
2)厚労大臣の指導
第98条の19第1項は、分娩取扱保険医療機関及び指定助産所並びにこれらにおいて分娩の手当に従事する保険医及び登録助産師について、健康保険における分娩の手当に関し、厚労大臣の指導を受ける義務があることを定めている。すなわち、分娩に関わる医療機関や助産所のみならず、実際に分娩の手当に従事する医師や助産師個人も含めて、制度運用の適正確保のための指導対象とされている点に特徴がある。
3)分娩取扱医療機関または指定助産所の報告等
第98条の20第1項は、厚労大臣が必要に応じて関係者に対し、報告・帳簿提出や出頭、質問・立入検査等ができる旨を定めている。本規定は、分娩費に係る分娩の手当について、厚労大臣が広範な監査権限を有することを明らかにしたものである。このため、分娩取扱保険医療機関や指定助産所のみならず、保険医や登録助産師等の関係者に対しても、報告徴収や立入検査等が行われ得る。上記2)、3)の指導・監査の結果、分娩費の自主返還を求められたり、指定を取消されたりす る可能性もあるため、日頃から法令遵守と適正なレセプト請求が重要である。


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