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KNIがAIを活用して病院経営改革

KNIがAIを活用して病院経営改革
」や退援」

 少子高齢化が進むことで、医療における財源不足と人材不足は、今後ますます深刻化していくと考えられている。そうした問題を乗り切るために期待されているのが、AI(人工知能)の医療分野への導入である。これまではとかく夢物語のレベルで語られることが多かったAIだが、病院経営にも大きな影響を及ぼしそうな医療分野でのAIの活用が、実用化に向けて大きな前進を見せている。

 AIを活用した医療改革への取り組みについて、北原国際病院などを運営する医療法人社団KNI(東京都八王子市、北原茂実理事長)と日本電気(NEC)が開催した10月23日の記者会見では、病院経営にも関わる医療分野でのAI開発が実用化レベルに達していることが紹介された。

 こうした開発の背景にあるのは、我が国の少子高齢化である。KNIの北原理事長は、次のように主張する。日本の医療が現在のまま2030年を迎えたとすると、1000万人の医療者が必要となり、その家族を含め2000万人が、医療で食べていかなければならなくなる。そうした事態になれば、医療者も、医療を支える現役世代も、ワーキングプアにならざるを得ない。だからこそ医療を効率化していくことが重要で、そのためには、AIを活用したITC化が不可欠となってくる。そこで、NECの最先端AI技術を活用することにより、医療の質向上と業務効率化を目指す「デジタルホスピタル」の実現に向けて乗り出すことにしたという。

 記者会見では、AIを使うことで何が出来るようになるかが具体的に提示された。

患者の「不穏行動」を40分前に7割検知

 今回のプロジェクトは、病院経営への影響が大きい入院期間に着目、退院を遅らせる要因を調べることから始まった。その結果、KNIの電子カルテデータの分析から、入院患者の「不穏行動」が大きく影響していることが明らかになった。また、急性期の治療を終えた患者が、退院待ちの状態で入院が延びているケースが多いことも分かった。そこで、AIの導入により、こうした状況を改善することが出来るかを検証する研究が行われてきた。

 医療における「不穏」とは、入院患者に起こり得る急性の錯乱状態のこと。軽ければ、独り言を言ったり、管をいじったりする程度だが、重くなると、奇声を発したり、徘徊したり、暴れたりする。KNIのカルテ分析の結果、入院患者の34%に不穏が確認され、不穏が起きた患者は退院が平均19日遅くなっていた。当然、不穏が起きることで、医療スタッフの業務負担は増大。医療スタッフの業務を調べたところ、全業務時間の26%が患者の問題行動への対応に費やされていた。

 そこで、患者に装着したセンサーから多くの生体データを取得し、AIの技術を使うことで、自律神経のバランスの乱れを解析、不穏の予兆を検知することが試みられた。不穏が起こる前の生体情報の変化は人によって異なるが、顔認証などの技術で培われた機械学習を使うことで、人によって異なる不穏の予兆を、高い精度で検知できるようになった。患者に起きる不穏を、平均40分前に、71%の精度で検知可能になった。学習するデータを増やしていくことで、精度は今後さらに向上していくという。

 不穏の予兆を40分前に検知出来れば、その時点で適切な医療行為を行うことで、不穏を予防することが可能になる。もちろん、医療の質の向上に繋がり、患者メリットが大きくなる。それに加え、AIによる不穏検知によって、医療スタッフの業務負荷は大幅に軽減され、不穏による退院遅延も防げる。

退院待ちを解消し入院患者を増やす

 退院支援に関しては、入院時のカルテのデータから、治療がどのように推移し、急性期の治療がいつ終了し、その後どのような治療が必要になるか、といったことをAIが予測する。これもKNIの電子カルテ情報を使って機械学習させることにより、84%の精度で予測することが可能になった。自宅、回復期リハビリ病院、療養病院など、複数の退院先の中から、最も可能性が高いものを予測することが出来るようになった。

 正確な予測が出来ると、退院に向けた調整を早い時期から行えるようになってくる。例えば、急性期の治療が終了した後、回復期リハビリ病院での治療が必要と予測されるのであれば、回復期リハビリ病院への転院に向けた準備が行われることになる。自宅に戻ると予測された場合なら、自宅でも準備を進めることが出来る。

 入院後、早い段階で正確に退院先予測が出来ていれば、退院調整を前倒しして行うことが可能になる。従来であれば、治療がかなり進んだ段階から退院調整が行われていたが、正確な予測が出来るようになれば、入院した直後から退院調整を始めることが可能になる。それによって、いわゆる退院待ちの期間をなくすことが出来、入院期間を短縮することが出来るのだ。

 具体的には、AI導入以前の平均在院日数は25.5日だったが、AIを導入して退院調整を前倒しすることにより、平均在院日数は11.2日へと大幅に短縮された。大きな成果である。

 急性期の治療が終了した後の退院待ちが解消することで、患者はすみやかに次のフェーズの治療に進むことが出来る。これは患者にとって大きなメリットで、AIによる退院支援が、医療の質の向上に役立っていることが分かる。また、急性期病床での入院期間短縮は、入院単価の向上に繋がる。さらに、新規入院患者の受け入れが可能になる。1カ月間の新規入院患者数は、AI導入以前の42人に対し、AI導入後は79人と、こちらも大幅に増加していた。病院経営に及ぼす影響は、かなり大きいと考えられる。

 今回紹介されたのは不穏検知と退院支援についてだけだったが、AIの活用はここに留まるわけではない。リハビリ支援に活用することでアウトカムの定量化が可能になったり、コミュニケーション支援に活用することで、医療スタッフの申し送りや記録業務が効率化されたりすると考えられている。KNIとNECは今後も、12月に開設する北原リハビリテーション病院新棟などで実証実験を重ねていく。

 NECは、このAI技術を数年のうちに実際の製品として実用化させていきたいという。ただ、製品がパッケージ化されたものになるのか、クラウド上にあってそこにアクセスする形になるのか、といったことはまだ決まっていない。多くの病院で活用可能なものになれば、少子高齢化が進む日本の医療を救う大きな力となることは間違いないだろう。

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