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未来の会

「骨太方針」に医療団体が〝現場視点〟で提言

「骨太方針」に医療団体が〝現場視点〟で提言
政府には医療現場の声に 耳を傾ける柔軟さが必要

政府の「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太の方針)では、医療機能の集約や初診からのオンライン診療の恒久化等の方針が打ち出された。“官僚による机上の作文”の感のある内容だが、これに対し医療関連団体は現場の視点に基づく提言を行った。

 骨太の方針では「感染症を機に進める新たな仕組みの構築」の中で、「平時と緊急時で医療提供体制を迅速かつ柔軟に切り替える仕組みの構築」が不可欠とし、▽症状に応じた感染症患者の受入医療機関の選定▽感染症対応とそれ以外の医療の地域における役割分担の明確化▽医療専門職人材の確保・集約等を求めている。

 これに対し、日本病院会の相澤孝夫会長は6月16日の記者会見で▽緊急時対応の病床を日頃から確保しておく事は得策でなく、緊急時に転用出来る病床を予め確保しておく▽非常時の医療提供体制を構築する地理的範囲を明確にし、感染症の拡大ステージごと、患者の重症度ごとに非常時対応の必要病床数と病院を地域ごとに明らかにする▽全ての病院スタッフが感染症等の緊急時に対応出来るように普段からの教育が必要等と述べた。

グランドデザインに沿った診療報酬に

 感染症患者を受け入れる医療機関に対する支援について、骨太の方針では「診療報酬や補助金・交付金による今後の対応の在り方を検討し、引き続き実施する」としている。これに関し、相澤会長は「従来、感染症診療に対する診療報酬は低額に抑えられてきた。紛れもない急性期疾患に対する診療報酬上の適正な評価を行うべき」と指摘。また、感染症診療のための空床確保と通常医療の制限による減収については「空床確保は空床確保料として当然補助金で対応すべきだと思う。通常医療の制限による減収は測ることが難しいため、緊急時支援金として交付する事で対応すべき」と述べた。

 骨太の方針の「更なる包括払いの在り方の検討も含めた医療提供体制の改革につながる診療報酬の見直し」に対しては「部分最適に陥りやすく医療の質確保にも疑念がある」と牽制。「診療報酬による医療提供体制改革という方法論は、これまでも数々の混乱を招いてきたので、やるべきではない。まず、医療提供体制改革のグランドデザインをしっかりと描いた上で、それを支援する形での診療報酬の見直しを進めていくべき」と提案した。

 また、「病院の連携強化や機能強化・集約化などを通じた将来の医療需要に沿った病床機能の分化・連携」や「かかりつけ医機能の強化・普及等による医療機関の機能分化・連携の推進」「外来機能の明確化・分化の推進」を掲げている事に対し、相澤会長は「病院の連携は機能分化が明確になって、初めて機能するもの。従って、まずは病院機能を明確にする事が必要で、それに沿って連携強化が行われるべき。その結果、集約が必要であれば集約化すべきだが、一方で分散化しておいた方がよい病院機能もあるという事がコロナ禍で明らかになった」と述べ、集約化と分散化のバランスを取る事の必要性を示した。

 かかりつけ医機能の強化・普及については「定義や機能が未だ明確になっていないことや、多くの人々の一致した認識になっていない。まず、その点を明確にすべき。また国民には、主治医とかかりつけ医の違いが明確になっていない状況で、かかりつけ医機能の強化や普及を進める事は混乱を招く」と指摘。外来機能については「従来蓄積してきたデータの公開と十分な分析に基づいて、機能分化の方針を決定すべき。これなくして機能の分化・連携の推進を進める事はかえって混乱を招く」と述べた。

 骨太の方針はオンライン診療について「幅広く適正に活用するため、初診からの実施は原則かかりつけ医によるとしつつ、事前に患者の状態が把握できる場合にも認める方向で具体案を検討する」としている。これ対し、相澤会長は「時代のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の流れを含めて推進すべき。医療の安全を損なわないように十分配慮しながら、ポジティブリストを作成して推進する工夫が必要」と述べた。

 また、「団塊の世代の後期高齢者入りを見据えた基盤強化・全世代型社会保障改革」にも言及。現在の医療提供体制改革の主眼は「地域医療構想の実現」で、「地域医療構想は入院医療費をコントロールするため、病床機能ごとの病床数の上限を定めたものだと思う」と相澤会長。その上で、「病床機能報告を積み上げたものが必ずしも病院機能を示すものではない。病床機能報告を基に、機能ごとの病床数の調整や、病院機能分化の促進を図ろうとしても、議論が噛み合わない。各病院が地域で果たしている病院機能を明確にすれば、準備すべき病床と機能は決まってくる」と提案した。

日医はかかりつけ医普及は「意識改革」で

 一方、日本医師会の中川俊男会長は6月23日の記者会見で、骨太の方針に対して以下のような見解を発表した。▽新型コロナ感染症患者を受け入れる医療機関への支援は、診療報酬だけでなく補助金も含めて柔軟に対応してほしい▽医療資源を多く必要とする専門的な医療は広域的に拠点となる基幹病院に集約する事が有効である一方、日常的で頻度の高い医療は地域の身近な医療機関で確保する事が重要▽現在のDPC(包括医療費支払い制度)は20年以上にわたり制度の精緻化が行われており、世界でも類を見ない制度。丁寧で慎重な議論を行っていくべき▽医療費抑制のためにフリーアクセスを制限する「かかりつけ医の制度化」ではなく、国民の意識改革や「上手な医療のかかり方」を広める事でかかりつけ医を普及していく事が重要——等である。

 初診からのオンライン診療については言及しなかったが、質疑応答の場で記者が質問したところ、今村聡副会長が登壇、「初診から全く医療情報がない中でオンライン診療を行う事については、日本医師会としては認めていない」と述べた。

 オンライン診療に関しては、全国保険医団体連合会が7月5日、「そもそも対面診療と比べ取得できる診療情報が大幅に限定されるオンライン診療を初診の患者から行うことは、疾患の見落とし・見誤りなど誤診の可能性や、重症化の見落としリスクが高まることなどは明らかである。患者のなりすましも懸念されるなど、初診からのオンライン診療の恒久化は到底認められるものではない」と批判した。

 骨太の方針の「更なる包括払いの在り方の検討」に関しては、日本病院団体協議会の小山信彌副議長は6月25日の記者会見で、中央社会保険医療協議会に「包括評価分科会(仮称)」のような場を設け、病院団体の代表を加えて意見交換できるようにしてほしい、と述べた。

 また、国立大学病院長会議は6月28日、「包括払い制度の在り方の見直しは、診療報酬による過度な政策誘導にも繋がりかねず、地域医療の崩壊をもたらしかねない。わが国の事情をふまえた丁寧な議論を期待する」という声明を発表した。

 骨太の改革方針が、求められる医療提供機能とかけ離れ、かえって地域医療の混乱を招く〝改悪〟にならないよう、政府には医療界の声に耳を傾ける柔軟さを求めたい。

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