
前回は、ベムペド酸の毒性1)と、動脈硬化性疾患の原因がコレステロールでなく凝固と炎症であること2)を簡単に紹介した。薬のチェックの英語版 「MedCheck in English」の No363)では、この点についてさらに詳しく述べた。その概略を少し詳しく紹介する。
年齢で異なる高コレステロール値のリスク
総コレステロール値で6段階に分け280mg/dL未満(以下mg/dL略)の5グループの死亡危険度は、おおむねコレステロール値が低いほど高いという結果が、65歳以上でも65歳未満でも示されている。異なるのは総コレステロール値が280以上のグループだけである。65歳以上では、 総死亡、循環器疾患とも280以上群のハザード比が最低である。ところが、65歳未満では、280未満と異なり、280以上で、循環器疾患死亡、総死亡ともハザード比が著しく高い。この傾向はフラミンガム調査の第1報にも表れていた。そして日本の代表的疫学調査では、循環器疾患でもLDLコレステロール高値で高リスクとなる疾患は冠疾患死亡のみであった。脳卒中では出血性脳卒中死亡だけでなく脳梗塞死亡もLDLコレステロール値と逆相関であった。
コレステロールが若い人に心筋梗塞を起こすなら高齢者にも心筋梗塞のリスクになるはずだ。そうでないのは、心筋梗塞の原因がコレステロール以外であることをうかがわせる。では、何が真の原因か?
梗塞は血栓−凝固と炎症が主因
心筋梗塞は、冠動脈の血栓によるものであり、血液の凝固の結果である。血管内皮に炎症があり、血栓形成、凝固能が高まれば、コレステロールよりもさらに直接的な原因になりうる。
血小板の凝集や凝固の亢進、線溶の低下、炎症を起こしやすい性質などとコレステロール上昇とが関連していることを示す研究が2000年までに多数報告され、それらを総合的に評価した総説記事が2010年までにいくつか出揃っている。
その後、炎症を強く起こす性質や自己免疫疾患などを起こす遺伝的な性質がコレステロール高値と共存していることが、2010年以降に急速に普及してきた全ゲノム網羅関連解析(genome-wide association study;GWAS)により分かってきた。
また、家族性高コレステロール血症(FH)の人の血中には、凝固や炎症に関わる物質が多く認められている。例えば、フィブリノゲンの増加や循環中の血小板凝集塊の増加が15〜29歳の若い時から出現している。これら血栓形成異常はコレステロール高値とは相関していなかった。また血液の粘稠度は、フィブリノゲン値と有意な正の相関を示している。
さらには、長期のスタチン療法によりコレステロール値が低下したFHの人で、炎症性サイトカインの1つであるTNF-αの受容体を作るmRNAが増加していた。また、細菌のエンドトキシン(リポ多糖体:LPS)刺激で、TNF-αが顕著に増加することが報告されている。血小板凝集能についても同様である。
まとめ
若年で心筋梗塞を発症するFHの例では、血栓形成傾向と、炎症を起こしやすい状態を示唆する凝固・炎症系の異常が認められる。これら知見は、高コレステロールに起因すると従来考えられてきた心筋梗塞リスクの増大が、コレステロールに交絡する凝固・炎症系の異常に由来する可能性が大きいことを示唆する。したがって、従来からあるコレステロール仮説と、それに基づいて推奨されているコレステロール低下療法は、批判的に再検討する必要がある。
参考文献
1)薬のチェック2026:26(126):83-86.
2) 薬のチェック2026:26(126):76-82.
https://medcheckjp.org/issue/n126/+Web資料
3)MedCheck in English No36 https://medcheckjp.org/english/


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