
過去の薬害裁判には、サリドマイド、スモン、クロロキン、コラルジル、筋短縮症、エイズ、肝炎、タミフル、イレッサなどたくさんある。裁判結果は、勝訴的和解も敗訴もある。裁判後、被害者が受けた障害や症状が治癒するわけではない。「薬のチェック」では、2026年「薬害は終わっていない」として、今も抱えている被害者の窮状を打破するためのささやかな一歩として連載を企画した。第1回は、サリドマイド事件を取り上げた1)。
サリドマイド事件とは
サリドマイドは、1957年にドイツのグリュネンタール社が販売開始したコンテルガンの成分。日本では大日本製薬(現:住友ファーマ)から睡眠剤イソミン(58年)、胃薬プロバンM(60年)として販売。妊娠初期に服用した妊婦から、四肢、耳、内臓などの奇形/欠損、聴覚障害など機能障害を持つ児が生まれた。典型例は肩からの痕跡的な手の特徴からアザラシ肢症(Phocomelia)と呼ばれた。
四肢や臓器が形成される胎芽期に血管内皮細胞の増殖抑制作用のあるサリドマイドによって奇形や機能障害が起こることから「サリドマイド胎芽症」と呼ばれる。
ドイツでは、四肢奇形児の母親の半数にサリドマイド服用歴を認め因果関係を確信したレンツ博士が61年11月に警告。10日後には回収が完了した。その後の調査では、オッズ比は380で因果関係は明らかだ。
一方日本では、国は因果関係を認めず、62年5月まで販売、同年10月に回収を開始したが不完全なため被害者が続出した。
63年、被害者らは国と製薬会社を提訴し、74年、原告と国と製薬会社との三者で和解。認定された被害者は309人、四肢奇形246人、聴覚障害82人、両方合併が19人いる。
未知の身体で生まれ、生きてきた
サリドマイド被害者は還暦を過ぎた。透析を受けている人は、シャントを腕に作れないために足にシャントを作っている。しかも、血管がもろいなど、医療側も未経験の事が多い。その窮状と、打ち破るための必死の取り組みを被害者自身の増山ゆかりさん(63年生まれ)に語っていただいた。次はその一節である。
「被害発生から60年余りが経ち、終わった事件として扱われて久しい。サリドマイド児は、骨格や臓器の奇形に留まらず筋肉や血管の走行が違うなど、通常の身体と構造が著しく異なる身体を持って生まれた。被害発生時の検査技術ではわからなかった問題も多く、加齢で体力がなくなった被害者は頑張りが利かない。(中略)体調は悪化をたどり、80歳を過ぎた親たちも十分に子どもに支援はできず、被害者たちの体は悲鳴を上げ始めた。研究がなされていないせいで、不調が起きても原因の特定が極めて難しいこともあり、既存の医療体制では充分にサポートが受けられないことがわかってきた。私たちは誰も経験したことのない、いわば未知の身体で今日まで生きてきた」
「ドイツでも2000年頃は、日本と同様の状況があったが、…あるテレビドラマが、ドイツ社会を再びサリドマイド被害に向き合わせることへと導いた。…サリドマイドの窮状を、国や製薬会社が責任を持つよう声が上がり、被害者の年金が7〜8倍になり、サリドマイド外来がドイツ国内に10か所もあって、治療が受けられる体制が構築された」
「歩けないほど体が痛いなど体調を崩したら、治療を受け入れてくれる病院を確保したい。家族からのサポートがなくなっても、生きてみたいと思える生活環境であって欲しい。多くを望んでいるわけではない」
参考文献
1)薬のチェック2026: 26(123): 16-19. 記事は以下よりフリー
https://medcheckjp.org/wp-content/uploads/2026/02/yakugai123.pdf


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