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激動する世界情勢をどう見るのか 危機に臨む日本外交の現状を聞く

激動する世界情勢をどう見るのか 危機に臨む日本外交の現状を聞く
杉山 晋輔(すぎやま・しんすけ)1953年愛知県生まれ。早稲田大学中退後、英国オックスフォード大学卒業。77年外務省入省。韓国やエジプトの大使館公使、アジア太平洋州局長を歴任。2016年外務事務次官。18年在米国特命全権大使。21年退官。現在、外務省顧問。

2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、ロシアの目論見に反して長期化し、戦闘の終結が見通せない。一方、東アジアでは中国の習近平国家主席が中国共産党総書記3期目の座を手中にして独裁体制を強化し、台湾進攻の時期を探っていると言われている。又、執拗に日本海へ向かってミサイル発射を繰り返す北朝鮮も、長距離ミサイル開発を着実に進めており、その動向から目が離せない。こうした緊迫する世界情勢の中で、日本の外交はどう在るべきなのか。元外務次官で現在、外務省顧問を務める杉山晋輔氏に世界情勢の見方や日本外交の現在の状況等について話を聞いた。

——ウクライナ紛争の解決の糸口が見出せません。

杉山 11月15日、ポーランドのウクライナ国境近くにロシア製のミサイルが着弾して2人が亡くなりました。丁度G20が開催されるタイミングで、各国首脳は対応に追われたでしょう。ポーランドはNATO(北大西洋条約機構)の一員ですから、加盟国が攻撃を受ければNATOは集団的自衛権を行使しなければならない。どうやら西側諸国の見解では、ロシアのミサイルを迎撃したウクライナのミサイルが誤爆したという事の様ですから、ロシアによるポーランドへの攻撃ではないという事で落ち着きそうです。勿論ウクライナへの攻撃が無ければ、この様な事態は起きなかった訳で、西側はロシアへの非難を強める事にはなるでしょうが、少なくともNATOの集団自衛権行使という議論には至らない。これが本当にロシアのミサイルだったら、今頃は深刻な緊張状態になっていた筈です。

——ロシアのウクライナ侵攻にある背景は?

杉山 ロシアとウクライナの関係を説明するには、百年単位の歴史を紐解かなければなりませんが、ここ10年程を考えれば、2014年3月のロシアによるクリミア併合が切っ掛けだと言えます。ロシア主導の住民投票の結果、一方的にクリミア半島がロシアに併合され、それを機にウクライナでは親西欧的な政権が出来た。そこからロシアとウクライナの関係は悪化の一途を辿り、ウクライナがNATO加盟を求めるという流れになりました。ウクライナ侵攻の背景には、NATOの東方拡大に対するプーチン大統領の強い危機感が有ります。

——NATOの拡大がロシアを刺激したという事ですか?

杉山 第2次世界大戦が終わり東西冷戦に入った時、西欧の12カ国でNATOが結成され、それに対抗するように東欧側にワルシャワ条約機構が出来ました。その後、ソ連崩壊に伴い冷戦時代が終わり、ワルシャワ条約機構も解散します。一方で、NATOには東欧諸国も加盟し30カ国の同盟にまで膨れ上がりました。ロシア側から見れば冷戦が終わったのにNATOはどんどん膨張して、自国の直ぐ傍まで迫っている。そこで、プーチン大統領は「冷戦時代の規模にまで戻してくれ」と言い出した。確かにプーチン大統領が言う事は分からないでもない。でも、それは冷戦時代にソ連から弾圧的な支配を受けていた東欧の国々が西側に入りたいと願った結果であって、元凶はソ連共産党の支配体制にある。それにどんな理由があろうと、武力侵略は国連憲章で一切認められておらず、明確な国際法違反。ロシア側に非が有るのは明らかです。

国益の為紛争拡大を望まぬ中国

——プーチン大統領に誤算が有ったと言われています。

杉山 一般的には、プーチン大統領はこの紛争は短期間で終わると考えていたと言われています。ロシアも冷戦時代には超大国と言われ、今も核戦力を含めて相当な戦力を持っています。それが、思うような軍事作戦が取れず、多くの戦力を失った上に、最近では一度占領した地区をウクライナ軍に奪還されている。西側諸国の支援を受けているウクライナ軍の反撃を許してしまった。これらについてプーチン大統領や軍がどう感じているのかは分かりませんが、そう簡単に自分達の非を認めたりはしないでしょうね。暫くは泥沼の状態が続くかも知れません。

——ウクライナ紛争を中国はどの様に見ているのでしょうか。

杉山 ロシアの武力侵攻は日本を始め西側諸国は明らかな侵略行為だと断定しています。しかし、国連の安全保障理事会では、当事者のロシアが拒否権を持っているので何も出来ない為に、西側諸国は国連総会で様々な決議をしています。それに対し中国は反対せず棄権に回っています。棄権とは、賛成・反対の意思を表明しないという事です。中国も自分達の権益を維持し、拡大するには国際社会の安定が必要だと考えている筈ですから、徒に武力衝突が拡大する事は望んでいないと思います。

——ところで、米国の中間選挙の結果についてはどう見ていますか。

杉山 選挙前はトランプ前大統領によってレッドウェーブが起きるだろうと、多くのメディアが共和党の圧倒的な勝利を予想していました。ところが、上院では民主党が50議席を確保して、下院議長を務める副大統領を入れると過半数を取った。下院の方は共和党が過半数を取りましたが、言われていた程の議席には届かない。それで、共和党は思うような勝利を得られなかったという論調が米国メディアには有ります。まあ米国の中間選挙は政権与党が負ける事が多い。そう考えると確かに共和党に勢いが無く、民主党は善戦したと言っても過言ではない。ただ、事前に米国の選挙分析の専門家に話を聞いたところ、今回は「分からない」という声もよく有り、意外と五分五分の形勢の選挙区が多かった様で、驚く事では無い様な気もします。

——トランプ氏の登場によって生じた米国社会の分断についてもお聞かせ下さい。

杉山 分断かと言えば、民主党でも、自ら社会主義者だと名乗るような急進左派の上院議員も居て、左派と穏健派に分かれつつある様に見えます。共和党は岩盤層とも言われる熱烈なトランプ支持者が約4割居て、彼も伝統的な保守、穏健派とはかなり距離が有ります。ただ、私が米国で勤務していたトランプ大統領時代に比べて、トランプ支持層にも陰りが見えて来た様な気がします。共和党が躍進出来なかったのは、トランプ氏が前に出過ぎたからだと言う人も居ますが、選挙というのはそう単純ではない。しかし、そう言われても仕方がない雰囲気は感じられました。トランプ氏にとっては、21年1月の連邦議会議事堂襲撃事件のダメージが大きいのかも知れません。あの事件の責任がトランプ氏に在ると迄は言いませんが、ある時期、群衆を煽っていたのは確かですから。

——中国は開発途上国への援助で関係強化を図っていますが、日本は?

杉山 トランプ大統領時代、ペンス副大統領が中国の対外資金援助を「借金漬け外交」と呼んで批判していました。日本も政府開発援助(ODA)として開発途上国に対して資金贈与や貸付、技術提供をしていますが、資金援助の在り方がOECDの内の開発援助委員会の中で議論されていて、援助が適切で透明性の高いものにする努力が続けられています。しかし、中国はOECDに加盟していません。資金援助では通常、頭金や償還期間、金利等を明確にするのですが、中国の場合はその辺りが不明確だった。現在、それが改善されているのか詳細は分かりませんが、当時はその傾向があった。借り手側はお金が欲しいので、不透明な部分があっても直ぐに資金提供してくれる所へ行き、それを繰り返す。中国への依存度が高まる事は必然です。それをペンス副大統領らは批判していた。その点、日本は手続きに時間が掛かるが、しっかり計画を立てて、有効に活用出来るようプロジェクトを組む。GDP世界3位の国で資金も有りますから、日本のODAが見直されつつあると感じています。

——日本のODAに対する海外の途上国からの批判について見解をお聞かせ下さい。

杉山 確かに批判は国内外から有ります。国内からは「何故税金で他国を助けるのか」「金の流れが不透明だ」と言われますが、税金を使っている以上、国民からの厳しい視線は当然ですし、批判を真摯に受け止め、より理解をして頂く事が重要です。国外からの主な批判は「援助のスピードが遅い」です。しかし、税金を使っている以上、使途を透明にし、目に見える効果を出さなくてはならない為に事前の準備が必要です。開発が遅れている国の中には、何が必要なのか明確ではない国も在り、時間を要します。その点も相手に理解してもらう事が必要です。

日本版NSC発足で各省庁の連携を強化

——東アジア情勢の緊張感が高まる中、官邸や外務省、防衛省等は十分に連携出来ていますか?

杉山 80年代の日米貿易摩擦が在った頃には、確かに外務省や当時の通産省、大蔵省、農水省等の間で縄張り争いの様なものは在りましたが、最近は経済貿易も外交安保防衛に関わる問題だという事になって、役所同士で先陣争いをしている場合ではないという雰囲気に変わって来ました。19年に茂木大臣と米通商代表のライトハイザー氏の間で日米貿易交渉が行われ、私も代表団の一員でしたが、茂木大臣の下で各省庁が緊密な連携を取って協議に臨みました。特に13年に国家安全保障会議(日本版NSC)が発足してから、首相官邸を中心に情報収集や政策決定が行われるようになり、画期的に仕事のやり方が変わりました。

——NSC発足で官邸の力が強くなったと言われますが、その結果は?

杉山 昔に比べて格段に仕事を進め易くなりました。私はNSCの発足前も知っていますが、今ではNSCが無かった時代はどうしていたのだろうと思う事が有ります。それ位に省庁間の総合調整には欠かせない存在となりましたし、有効に機能していると思います。

——それにしても世界が混乱の時代に入りましたね。

杉山 いつの時代も、当事者の目には激動の時代と映るものですが、現在は周囲から見ても正しく激動の時代です。ウクライナ侵攻に始まり、中国では習近平が3期目に入り体制を強化しています。北朝鮮は日本海にミサイルを何発も撃ち、核実験もいつ再開するか分からない。拉致問題の解決の目途も立っていません。先日のポーランドへのミサイル着弾でも緊張が走りました。担当者は徹夜の連続の様です。私は退官した身ですから、現在一線で仕事をしている人達にあれこれ言う積りは有りませんが、OBとして出来る事があればお役に立ちたいと思っています。

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