SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第66回「精神医療ダークサイド」最新事情
「境界知能」を負のレッテルにするな

第66回「精神医療ダークサイド」最新事情「境界知能」を負のレッテルにするな
サポート得て特性活かせる社会を

知的障害と健常の間に位置する知能指数70〜84。日本人の7人に1人(14%)、1700万人がここに分布するにもかかわらず、見過ごされてきたこの領域「境界知能」に焦点を当て、配慮や支援を求める動きが生まれている。

筆者は先日、書評を担当する週刊誌の取材で、書籍『境界知能の人たち』(講談社現代新書)を上梓した小児科医の古荘純一さん(青山学院大学名誉教授)にインタビューした。古荘さんは今年2月、小児発達の専門家らと「境界知能・軽度知的障害学会」を設立し、代表理事として年末開催予定の第1回学術集会の準備を進めている。

境界知能の人は、教育現場では支援の対象と見なされず、自立や就労を目指す段階で困難に直面することが多い。ずっと「支援の狭間」にあったので詳しい実態は把握されておらず、古荘さんも「2020年頃までサポートの必要性を意識していなかった」と語る。今後、同学会を中心に調査研究が進められていく。

だが、客観的な評価法ができるまで何もやらない、というわけにはいかない。そこで古荘さんは、豊富な臨床経験をもとに「境界知能かどうかを考える所見リスト」を作成し、同書に掲載した。幼児期、学童期、思春期、青年期、成人期に分けて、特徴的な行動や思考の傾向をリストアップした。「言葉のニュアンスの理解が覚束ない」「金銭管理ができない」「思いをうまく伝えられない」「仕事が遅い」「無計画」「だまされやすい」「自己弁護ができない」など、生き辛さにつながる特性が多く挙げられている。

古荘さんらが設立した学会サイトのトップ画面(筆者撮影)

これらは自閉スペクトラム症などの特性と似ている部分があり、古荘さんは「境界知能と発達障害は併存例が多い」と指摘する。発達障害が併存する場合、現行制度でも精神障害者保健福祉手帳の取得を始め、様々な支援を受けられる。ところが境界知能だけの場合、特別な支援は何もない。学校の勉強が分からず孤立し、いじめられて不登校に陥るかもしれない。辛い環境に何とか適応しようと耐え続けた末に、心が悲鳴を上げてうつ病や不安症などの精神疾患を発症するかもしれない。我々の社会は、目立つ障害がないのに脱落を始める人たちを「自己責任」として切り捨ててきた。

近年の調査で、刑務所には境界知能や軽度知的障害に該当する受刑者が多いことが分かっている。境界知能は受刑者の約30%とされ、彼らが後先も考えず、闇バイトに手を染めるケースなどがテレビ報道されるようになった。

境界知能は犯罪に直結するものではない。闇バイトの場合、だまされやすさやイエスマンな姿勢などが原因で犯罪に巻き込↖まれていく。だが、彼らの浅薄な言動ばかりが強調されると、負のレッテルとしての「境界知能」が暴走を始めてしまう。刑務所では個々の特性に応じた更生のための指導が始まっており、義務教育の現場でも境界知能の児童・生徒を意識した対応が求められる。

知能検査や知能指数に明確な定義はなく、知能の高さが人間の価値であるかのような風潮は間違っている。AIによって知能の価値が暴落するかもしれない時代だからこそ、我々は「だまされやすさ」の裏側にある「素直さ」などの特性を、プラスに活かせる社会を築いていく必要がある。


ジャーナリスト:佐藤 光展

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

Return Top