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診療報酬改定・全世代型社保会議中間報告の「舞台裏」

診療報酬改定・全世代型社保会議中間報告の「舞台裏」
「横倉基金」増額分は診療報酬本体部分の〝実質増〟

2020年度の診療報酬改定率が決着した。医師の技術料など「本体部分」は引き上げる一方で、「薬価」の削減によって全体はマイナスとする、近年続けてきた手法を踏襲した。同時に進めていた医療保険など社会保障制度の見直しも、「応能負担」を打ち出す事で落ち着いた。いずれも「持続可能性」を意識したものだ。しかし、与党内の慎重論を踏まえ、高齢者の負担増に直結する見直しは一部にとどまった。

 診療報酬は本体と薬価で構成される。その改定率は表向き、昨年12月17日の麻生太郎・副総理兼財務相と加藤勝信・厚生労働相の閣僚折衝で決まった。本体は2年前の前回と同率の0・55%増としつつ、薬価を1・01%下げて全体では0・46%減とする内容だ。全体のマイナス改定は3回連続で、今回の引き下げにより国の支出を500億円程度抑えられる。診療報酬の削減効果は大きく、社会保障費の自然増も当初見通しの約5300億円増から約4100億円増に抑えられた。

 「分かりました。その代わり、医師の働き方改革分は別途基金に積んで頂きたい」。昨年12月13日、加藤氏は麻生氏に電話でそう訴え、麻生氏の了承を取り付けた。

 今回の改定は早い段階から本体をプラス改定とする方向が固まっていた。医療保険制度の見直しで負担増を求める際の取引材料になると考えた財務省が、例年ほど切り込んできていなかったためだ。この日、麻生氏は通常の技術料分などの0・47%増分に加え、医師の働き方改革に充てる0・08%増分の計0・55%の上積みを認めた。

診療報酬改定は早々に決着

 ただ、0・55%増では「前回越え」を求める日本医師会や自民党厚労族の顔が立たない。それでも、麻生氏は「ない袖は振れない」の一点張り。そこで加藤氏は診療報酬への上積みは諦め、地域医療介護総合確保基金の増額を求めることにしたのだった。

 同基金は医療、介護事業に財政支援をする目的で14年度につくられた。日医の横倉義武会長が設立に深く関わったことから「横倉基金」とも呼ばれる。診療報酬本体の働き方改革分0・08%増は「特例」で、実質増は前回を下回る0・47%増分——。こう見なせば財務省のメンツも立つと考えた麻生氏は、基金に「医師の働き方改革支援分」として143億円を積み増すことを認めた。片や加藤氏にすれば、基金分を「本体部分の実質増」とも受け取れる。双方都合よく解釈出来る数字となり、早々の決着となった。

 厚労省は本体増額分で救急車の受け入れ台数が年間1000台を超す病院に対する報酬を設ける他、基金分は医療従事者の労働時間短縮に投じる意向だ。来年度政府予算案には、地域医療構想や医療従事者の働き方改革を推進する予算として、消費税率引き上げによる増収分の半分近い2兆5400億円が盛り込まれ、病院の再編・統合に向けて病床を1割以上削減した病院を対象とした補助金84億円の計上も決まった。17日の麻生氏との折衝後、加藤氏は「バランスをとった診療報酬改定であり、予算編成になった」と満足気に語った。

 診療報酬改定率の調整と並行し、政府・与党内では全世代型社会保障検討会議の中間報告に盛り込むべく社会保障制度改革の方向性も議論が進められていた。その結果、昨年12月19日にまとまった中間報告は、当初含めないことにしていた医療にも触れた。

 中心は、75歳以上の医療費の窓口負担割合(原則1割)について一定以上の所得のある人は22年度から2割とするものだ。今も現役並み所得(単身世帯で年収383万円以上)の人は75歳以上でも3割負担で、全体の7%程度に当たる。ここに新たに「2割」の区分を設ける。年齢ではなく、個々の経済力に応じて負担を求める「応能負担」原則に基づいている。

 財務省の思惑に乗り、中間報告に医療を盛り込ませたのは安倍晋三首相だ。首相の自民党総裁任期は21年9月に切れる。政権のレガシーを欲する首相は、衆院解散時期もにらみつつ、「現役世代の負担を抑える社会保障制度改革」を任期中に確実に仕上げる方針に舵を切った。昨年11月29日、執務室に加藤氏を呼んだ首相は、「20年の通常国会に(医療を含めた)全世代型社会保障の関連法案を提出したい」と伝えた。

 しかし、1年かけて医療保険制度見直しの議論をするつもりでいた厚労省には、「空論」に聞こえた。首相側近の加藤氏もさすがに「それは難しいです」と異論を唱え、議論は平行線をたどった。そして1時間後、医療の法案提出は1年延期する代わりに、中間報告には医療を含める事で落着した。

紹介状なし外来患者負担登場の背景

 首相は「受診時定額負担」の明記にもこだわった。外来患者に100円等一定額を上乗せして負担させる「ワンコイン負担」とも言われる制度だ。だが、盟友の日医の横倉会長は応能負担の強化こそ容認していたものの、ワンコイン負担には猛反発。11月以降、自民党の二階俊博・幹事長や岸田文雄・政調会長と続けざまに会い、「負担増に繋がる政策ばかりだと、医療機関から患者の足が遠のき重症化を招く」等と訴えていた。与党内にも慎重論が強く、結局ワンコイン負担は判断を先送り。代わりに、紹介状なく大病院を受診した場合に別途負担する費用(初診5000円以上、再診2500円以上)の引き上げを選んだ。とはいえ、これはかかりつけ医に行かない人への罰則的な要素が強く、保険財政策とは言い難い。

 また、75歳以上の医療費「2割負担」も、「原則2割」とする財務省案は退けられた。政府は2割負担を求める人の所得基準を明確にしていないが、反発する与党側に「2、3割負担の人を両方合わせ、全体の半分以下」といったメッセージを発している。

 最後までもつれた医療に対し、年金や介護は早々と片付いた。年金改革に関して厚労省は当初、厚生年金適用事業所の要件(従業員数501人以上)について、「51人以上」に広げる意向だった。ところが、従業員と保険料を折半する企業には負担が重くなる。パート比率が高い外食産業などの抵抗で、結局、22年10月に「101人以上」とした後、24年10月に「51人以上」とする案に後退した。さらに、物価や賃金が下がった時に給付額を減らす「マクロ経済スライド」については、減額幅に下限を設けないようにする制度強化が必要とされているにもかかわらず、議論さえなかった。

 介護保険を巡っても、自己負担割合(原則1割)を、2〜3割とする対象者を広げる案等、高齢者の懐を傷める案は次々と退けられた。医療保険制度改革法案は「次」だが、年金と介護の法案は1月20日招集の通常国会に提出される。厚労省幹部は「年金と介護が同じ国会で議論されるなんてなかなかあり得ないが、今回はぬるい中身なので問題ないだろう」と自嘲気味に話す。

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