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病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

医療界におけるジェンダー問題 

医療界におけるジェンダー問題 
第①回 昔は問題無かった何に気を付ければ良いのか?

本人に悪気は無くとも、何気ない発言や行動がハラスメントになる事がある。昔は許容されていた事でも、今は許されない事が増えて来た。うっかり加害者になってしまわない為に、何がハラスメントに当たるのかをよく知っておく必要がある。又、職場のセクシュアルハラスメント(以下セクハラ)対策、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務である。

#MeToo運動

 セクハラや性暴力の被害者は、身近な人間関係への影響を恐れて、また体験の辛さ、自己帰責の気持ち等から、なかなか、被害を申し立てる事が出来ない。2017年にアメリカから世界中に広がった#MeToo運動は、性暴力とハラスメントの被害経験をハッシュタグ「#MeToo」を付けてオンライン上に投稿するキャンペーンである。この時はアメリカで活躍する歌手・女優のアリッサ・ミラノ氏のツイートがきっかけとなってムーブメントが起こったが、この#MeToo運動は、活動家のタラナ・バーク氏が06年に性暴力のサバイバーを助ける為に創立したのが最初である。

 社会が性暴力やセクハラを黙認し、糾弾して来なかった時代においては、被害者が声を上げようとしてもバッシングに晒されて、泣き寝入りするしかない事も多かった。しかし、今では被害者が声を上げて闘うようになりつつある。又、性暴力やセクハラに関する法整備も進んだ。以前は許容されていたのに……、では済まされないのが世の趨勢である。

セクシュアルハラスメント

 セクハラとは、男女雇用機会均等法に於いては、

 1.職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したことで解雇、降格、減給等の不利益を受ける事(対価型セクハラ)

 2.性的な言動が行われる事で職場の環境が不快なものとなった為、労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じる事(環境型セクハラ)

と定義されている。事業主、上司、同僚に限らず、取引先、顧客、患者、学校の生徒等もセクハラの行為者になり得る事や、男性も女性も行為者・被害者になり得る事、同性に対するものも該当する事に注意すべきだ。又、職場のみならず出張先や職務の延長と考えられている宴会等も職場に該当する。17年看護職員の労働実態調査結果によると、回答者の11.6%がセクハラを受けた事が有ると回答している。セクハラは、「患者」からが71.5%と最も多く、20代では8割を超えている。つまり、病院の場合、事業主や職員のセクハラ対策に加えて、患者のセクハラ対策も必要になる。セクハラ対策をやらずに放置していると、被害を受けている職員のモチベーションは著しく低下し、離職の理由にもなり得る。

 更に、性別に関する固定観念、差別意識に基づく嫌がらせや取り扱いをした場合にはジェンダーハラスメントと呼ばれ、広義のセクハラになる。結婚、体型・容姿、服装等に関する発言や、「女のくせに」「この仕事は女性には無理」等の発言、婚姻や出産や年齢により、『女の子』『おくさん』『おばさん』『おかあさん』等と呼び方を変える事等がジェンダーハラスメントに当たる。現在の所、ジェンダーハラスメントについては、防止措置義務等の定めは設けられていないが、「男らしい」「女らしい」等、固定的な性別役割分担意識に基づいた言動は、セクハラの原因や背景になってしまう可能性がある。

 性に関する言動に対する受け止め方については個人差があり、セクハラに当たるか否かはケースバイケースで判断される。又、相手からいつも意思表示があるとは限らない。職場の人間関係を考えて拒否出来ない場合もあるからだ。また、セクハラを受けた場合には受け流しているだけではなく、嫌だと思っている事を相手に伝える事、記録に残しておく事、上司や人事担当・各種相談窓口に相談する等の対応を取るべきである。

女子力という呪い

 女子力とは、一般的に、家事能力及び服装やメイク等の外見、マナー等を指して使われ、努力して後天的に身に付けたり向上させたり出来る能力と認識されている。09年に「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされた比較的新しい言葉である。「女子力が高い/低い」「女子力をアップさせる」等と使用される。「女子力」を向上させる事によって「恋愛」や「男性との関係」「結婚」等で有利になると考えられている。すなわち、ヘテロセクシュアルな「男性」中心的価値観の中にあり、女性としてのジェンダー規範と能力主義の結合とも言える。

 職場で安易に女子力を押し付けると、ハラスメントに繋がる恐れがある。例えば、「○○さんの弁当は手が込んでいて、女子力が高い」「仕事は出来るのだからもっと○○して女子力をアップしたらいいのに」等というのは当該職員または周囲の職員のモチベーションを下げる可能性がある。自死した電通の若い女性社員は「女子力が低い」と上司から批判されていたという。「女子力」等というものを仕事上のスキルと同様に批判の対象にすれば、ジェンダーハラスメントである。自分にも性的役割分担意識があると認め、日頃から言動に気を付ける必要が有る。

妊娠・出産等ハラスメント

妊娠・出産等ハラスメントとは、『職場』において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産した事、育児休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した『女性労働者』や育児休業等を申出・取得した『男女労働者』等の就業環境が害される事をいう。マタニティー/パタニティーハラスメント、すなわちマタハラ・パタハラの事である。パタニティーとは父性の事で、パタハラとは男性職員が父性を発揮する権利を職場で妨害される事を意味する。マタハラ・パタハラの無い職場とする為には、妊娠・出産等についての知識や制度を知り、制度を利用する事等について否定的な発言をしないように心掛ける事が大事である。産前・産後休業は、労働基準法、育児・介護休業法で定められている制度であり、育児休業や、短時間勤務等育児をしながら働く為の様々な制度や就業規則等もこれらの法律に基づいて定められている。又、妊娠中や育児をしながら働いている人と周囲の円滑なコミュニケーションによって、適切に業務を遂行して行けるような環境作りが重要である。

マンスプレイニングとマンタラプション

 「女性はおそらく世の中の事をあまり知らないので、特に意見も無いだろう。だから私が会話をリードするべきだ」等という(無意識の)思い込みから、男性は質問されてもいないのに女性に一方的に説明する事が有る。この現象をマンスプレイニング(mansplaining)という。「男性」を意味する「man」と「説明すること」を意味する「explaining」を合わせたアメリカ発祥の造語である。又、マンタラプション(manterruption)とは、「man」と「遮る事」を表す「interruption」を合わせた造語であり、男性が女性の発言を遮って自分の話を始める事である。例えば、イギリスのマーガレット・サッチャー首相は、男性の政治家に比べてインタビュー中にしばしば話を遮られた。1982年に『Nature』にその原因について検討する論文が掲載されたが、そこではサッチャー首相の話し方に原因があると論じており、男性が割り込む事の問題は考察されていなかった。もしかすると、マンタラプションという現象であったかもしれない。

 男性が、女性患者や女性職員の話を遮ったり必要以上に一方的な説明をしようとしたりしていないか、注意が必要だ。ハラスメントと迄は言えないかもしれないが、女性の発言の機会を減らす事は診療上の不利益にもなり、職場の雰囲気を損ねる事にもなりかねない。又、女性が自由に意見を言いにくい環境は組織のイノベーションを妨げる。女性が十分に話をし易い環境作りが必要である。

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