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次期年金制度改革、7月参院選終了後に議論本格化

次期年金制度改革、7月参院選終了後に議論本格化
基礎年金底上げ策が最大の焦点、障害は国の財政難

7月の参院選終了後、厚生労働省は2025年の次期年金制度改革を巡る議論を本格化させる。前回の20年改革では「人生100年時代」を見据え、高齢者に就労を促す事を目指した。次の25年改革は04年改革以来、20年ぶりの大幅な見直しになると目されており、「低過ぎる」と言われる基礎年金(国民年金)の底上げ策が最大の焦点になる。

 「毎月1万7000円も払うのはキツ過ぎる……」

 留年を重ね、今年3月に7年掛けて大学を卒業したフリーターの男性(27)は、横浜市の自宅に届いた国民年金保険料の納付書を見て溜息をついた。学生時代は申告して納付の猶予を受けて来たが、卒業したからといって猶予されてきた分を払うカネは無い。「これから60歳迄ずっと払っても年金は月に数万円程度と言うし、このまま未納になるのかな」。

年金財政安定化へ、マクロ経済スライドとは

 公的年金は自営業者や非正規労働者らが加入する国民年金と、会社員や公務員らが入る厚生年金に大別される。厚生年金は定額給付の基礎年金の上に報酬比例部分が乗る2階建てで、標準報酬月額(保険料徴収用のみなし月収)の18・3%の保険料を労使で折半する。片働きで年収530万円のモデル世帯の場合、現在の給付水準(現役世代の手取り額に対する夫婦双方の年金受給額の割合、19年試算)は61・7%(報酬比例部分25・3%、基礎年金部分36・4%)になっている。

 一方、国民年金は20〜59歳迄の40年間、月1万6590円(22年度価格)の保険料を満額支払った場合、65歳から月に約6万5000円(前同)を受給出来る。厚生年金の1階部分と合わせて全国民共通の基礎年金と称され、基礎年金には給付の半分に税財源が充てられている。

 ただ、今後これらの給付水準は著しく下がる。厚労省の試算によると、今後穏当な経済成長が続いても46年度のモデル世帯の厚生年金給付水準は51%(報酬比例24・5%、基礎年金26・5%)と今より約2割削減される。基礎年金に至っては3割減で、今の価値なら満額でも4万5000円程度迄下がってしまう。野党は「基礎年金のみの人は生活出来なくなる」と批判しており、基礎年金の充実策は積み残された最大の課題になっている。

 基礎年金の給付水準低下は、04年改革で導入された少子高齢化に合わせて年金額を抑える「マクロ経済スライド」が影響している。従来、年金は物価の上昇に合わせて増やして来たが、一定期間、年金の伸びを物価より抑える事で年金の実質価値を下げ、年金財政を安定化させる仕組みだ。

 基礎年金、厚生年金とも現役の保険料を今の高齢者の年金に回す「仕送り方式」を基本としている。しかし、少子高齢化で現役世代が先細っていく以上、仕送り方式は機能しにくくなる。このため厚労省は同スライドの導入によって年金の伸びを抑え、財政の安定化と共に現役の保険料負担に上限を設けることを意図した。

 ただ、マクロ経済スライドは導入当初、厚生年金、基礎年金とも適用を23年度に終え、それ以降は給付水準を下げない予定だった。ところが政府の想定よりデフレが長引き、年金は高止まりが続いている。物価の伸びより年金の伸びを抑えるマクロ経済スライドは、物価下落基調のデフレ下では機能しない為だ。同スライドは04年の年金改革以降、まだ3回しか効力を発揮していない。

 想定より高いまま据え置かれ、財政を圧迫し続ける今の年金を抑える窮余の策として浮上したのが、マクロ経済スライドの終了時期を遅らせる事でより長い間年金を削って行く帳尻合わせだ。

 試算では、厚生年金の報酬比例部分は25年度迄、基礎年金部分は46年度迄マクロ経済スライドを掛けないと財政が安定せず、取り分け基礎年金はより長い期間を掛けて大きく水準を下げる必要が有る。国民年金の方が財政力が弱く、より長期間給付を抑え続けなければ財政の安定を望めない事が原因だ。

 年金の「財布」は「厚生年金勘定」「国民年金勘定」(基礎年金加入者の内、定額を支払う自営業者らの国民年金保険料分)と、「基礎年金勘定」の3つが在る。厚生年金勘定と国民年金勘定はそれぞれの加入者数に応じた金額を基礎年金勘定に拠出する事で基礎年金を全国民共通の制度としている。

基礎年金スライド終了時期を繰り上げる考え

 次期制度改革で厚労省は、加入者数でなく積立金総額に応じて基礎年金勘定に拠出する仕組みに変える事を視野に入れている。こうして財政に余裕が有る厚生年金勘定の拠出を増やし、基礎年金の同スライド終了時期を46年度から33年度に繰り上げる考えだ。更に報酬比例部分も33年度の終了とし、双方の同スライド適用期間を一致させる事を検討している。

 毎年の様に年金を切り刻む同スライド適用期間の短縮により、保険料を上げずとも基礎年金の給付水準は2割程度アップする。今のままなら46年度迄掛かって51%迄低下する厚生年金全体の給付水準も55・6%(報酬比例22・6%、基礎年金32・9%)に高まる。同スライド終了時期の変更で報酬比例部分は給付水準が微減するものの、基礎年金部分は大きく上昇し、差し引きで厚生年金全体の給付が底上げされるからだ。

基礎年金底上げ策が最大の焦点、障害は国の財政難

厚生年金保険料を負担する企業や会社員にとって、厚生年金のカネを基礎年金に多く充当する事への違和感は有るだろう。それでも給付額が下がるのは世帯年収1790万円以上の人に限られるといい、「大半の世帯は負担無しに年金額がアップする。異論は小さいだろう」(同省幹部)と見込む。基礎年金へのマクロ経済スライド終了時期の繰り上げと併せ、厚労省はもう1つ、基礎年金充実策を模索している。保険料納付期間を5年延ばし、64歳迄の45年間とする案だ。同スライドの終了時期繰り上げと同時に実施した場合、モデル世帯の厚生年金給付水準は62・5%(報酬比例25・4%、基礎年金37%、四捨五入の関係で端数は合わない)と今の61・7%を上回り、基礎年金だけを見ても今の水準をほぼ維持出来る。

 とは言え、実現は容易ではない。

 先ずは障害として国の財政難が横たわる。基礎年金の半分は税金で賄う。納付期間を45年に延ばし給付が増えればその分、税支出も増える。40年後に1兆円超の財源を要すると見られ、財務省は強く反発している。厚労省幹部も「この部分は消費増税で賄わざるを得ず、当面は難しい」と漏らす。

 この為5年延ばす分の給付財源には、消費増税実現まで税を投入しない事も想定している。但し、その場合のモデル世帯の厚生年金給付水準は60・5%(報酬比例24・6%、基礎年金35・8%、四捨五入の関係で端数は合わない)になる。更に、保険料納付期間の5年延長で年金給付が増えるとはいえ、定額の国民年金保険料なら100万円以上の追加支払いが発生する。「60歳迄で支払い完了」と考えていた人には、受け入れ難いかも知れない。

 厚労省は年金底上げ策として、「マクロ経済スライドの調整期間一致と納付期間45年への延長はセット」(年金局幹部)との姿勢を崩していない。だが、実際にはマクロ経済スライドの終了時期前倒しを先行し、「45年加入」は次々回の制度改革という妥協シナリオも見え隠れしている。

 この他、男女で受給要件に差が有る遺族厚生年金の性差解消や、年下の被扶養者を配偶者としている人の厚生年金に加算される「加給年金」の廃止案等も改革の俎上に乗せられている。

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