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未来の会

第63回 コロナ騒動から見えてきた世界の動き①

第63回 コロナ騒動から見えてきた世界の動き①
コロナ禍は社会変革を促進する

 前回まで、新型コロナウイルス感染症によっていみじくもあぶり出された日本の医療の特徴、あるいは良さについて述べてきた。

 今回のコロナ騒動は様々な変革を促進するという特徴を持っており、かなり大きな点で国々の違いをあぶり出した。今回からは医療に限らず少し視野を広げてこのコロナ騒動について見渡し、社会学の視点で考えてみよう。

医療輸出

 中国から3月12日に、医師や医療機関が不足しているイタリアに医療支援のために医師団が派遣された。

 実は他にも同じような行動をとっている国がある、同じ社会主義国であるキューバである。具体的には、3月22日にキューバの医師団がイタリア北部のロンバルディアの医療支援のために派遣された。

 中国とキューバはどちらも社会主義国なので、「あー同じか」と考える人もいるであろう。しかしそうではない。

 ちなみに、キューバは感染の根源地である中国から遠いということもあってか感染者数は少ないと考えられ、中国のように強引に押さえ込んで感染を減らしているとも思えない。

 実際、キューバでは、8月5日時点で感染者数は累積で2701人、死者数は88人と少ない。

 ちなみにキューバの人口は2018年で約1134万人であり、約10倍の人口がいる日本では、同じく8月5日時点で累積患者数は4万1129人、死者数は1022人である。

 キューバはそもそも人道支援として医療を輸出している国である。筆者もそのうちキューバの医療を視察したいと思いつつなかなか行くことができないが、実はキューバは医療に関しては定評がある国なのである。

キューバ 

 外務省のHPでキューバの医療についてを見ると、下記のようである。

  「1959年の革命以降、予防医療に積極的に取り組み、母子保健や高齢者事業およびワクチン接種による疾病予防を徹底し、乳幼児死亡率 4.0、平均寿命78.45歳、医学校13、医師92,084名(医師1人当たり住民122人)、歯科医師数18,675名(歯科医師1人当たり住民602人)、病院150、ポリクリニック450、ファミリードクター診療所10,869、血液銀行29など中南米諸国の中では医療先進国に位置づけられます。しかし我々が満足する医療サービスを受けられるとは限りません。(中略)外貨獲得のために医療団の海外派遣が増加しているため、国内は医師不足です。診療の際の説明は不十分なため、いたずらに不安があおられる場合もあります。医薬品は、ワクチンをはじめジェネリック薬品の独自の開発・生産を活発に行い、アフリカや中南米、アジアの途上国へ輸出しています」

 日本とキューバの人口差を考えても、病院数は必ずしも多くはないが、日本の医師が約30万人であることを思うと驚くべき医師の数である。

 そして、上記のように、キューバは中南米では相対的に医療レベルが高い国なので、周辺のさらに医療レベルが低い国に医療を輸出するという戦略の国なのだ。

中国

 さて、ここで中国の動きの根本を考えてみよう。

秦の始皇帝は不老不死を求め世界中に調査団を派遣した。時代が変わり、中国に限らず、現在では多くの国において自国内で医療を完結させることは国民の夢であるし、国民皆保険がない国は、米国のように政策論争の中心になる。

 中国の大病院は受診に訪れた患者で大混雑していることが多い。

 そんな中、かつては最先端の医学の地であった中国が、他国に医療を求めに行くという医療ツーリズムの患者送り出し国になってしまっている。自国で高度な医療を受けられないので、多くの国民や富裕層が海外で医療を受けていたのだ。

 また、高度な医療だけでなく、通常の医療を受けるのにも困難があり、さほどの高所得層でなくても医療ツーリズムのニーズがある。

 誇り高い中国にとって、これは屈辱であったに違いない。米国に負けまいと、 IT で、特に5Gで世界を凌駕しつつある中国にとって、次はヘルスケア分野であると考えるのは必然であろう。

 実際、中国にも新薬メーカーが生まれており、ピンアンヘルスケアのように IT医療を展開する会社も増えてきている。

 その流れの中で、新型コロナ禍をきっかけにして、中国の医療を世界にアピールしたり、医療を使って覇権を握ろうとしたりする動きに出るのは想像に難くない。それが今回の動きであろう。

 中国のような社会主義国が強引に抑え込めば感染者数を抑えることは可能である。具体的に言えば、武漢などの都市の閉鎖である。もちろん、感染者数を抑え込むことでイタリアのような医療崩壊を起こさないことができるが、やはり感染者数はその国の医療レベルとは必ずしも関係ないと考えた方が正しかろう。

 すなわち、医療技術もそうだが、やはり中国は急速に発展した国であるので、諸々の技術に関してはやはり世界標準に達していないのではないかという見方ができよう。

 例えば、中国の半導体最大手の SMIC という会社があるが、やはり技術的には米国や韓国、日本に及ばないようである。 

 中国の現状でのポイントは、やはり急速に豊かになっている国民による莫大な市場の存在ということになろう。

 同じような人口大国であり、その人口の若さで中国を抜くといわれていたインドが、コロナ禍で悲惨なことになっている今、世界最大の人口を持つ中国という国に対しては、やはり注視が必要になるだろう。

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