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「国論を二分する政策」は高市首相の歴史的使命か

「国論を二分する政策」は高市首相の歴史的使命か

経済厳しく、先ずは武器輸出解禁とインテリジェンス強化

「国論を二分するような大胆な政策、改革にも果敢に挑戦していきたい」。高市早苗首相は衆院解散を表明した今年1月の記者会見で述べた通り、政府・自民党の施策を「高市カラー」に塗り替える政策転換を矢継ぎ早に実行に移している。

 我が国は先の大戦の反省から、軍国主義・国家主義に繋がり兼ねない政策には自主的に縛りを掛けてきた。例えば武器輸出は外国の戦争を助長する「悪」として原則禁止する等だ。戦後80年が経過し、日本は民主主義の国民国家として生まれ変わったのだから、その様な縛りは取り払って、他の民主主義国家と軍事面で助け合った方が良いと考えるか。それとも、何時か来た道に逆戻りしない様に軍事や国家権力への縛りは維持すべきだと考えるか。国論が二分され、従来の政府・自民党が先送りしてきたこうした課題に結論を出すのが高市政権の役割だという強い使命感が高市首相を突き動かしている様だ。

「責任ある積極財政」の成果は見通せず

 日本政府が「武器輸出三原則」(①共産圏②国連決議対象国③紛争当事国向けの武器輸出を原則禁止)を打ち出したのは1967年の事である。ベトナム反戦の世論が高まったのを受けた措置だった。45年の敗戦で軍と軍需産業が解体された後も日本は武器輸出を行っていた。50年に朝鮮戦争が勃発し、米国が日本を武器・弾薬等の兵站拠点として活用した事で軍需産業が防衛産業に名を変えて復活した。朝鮮特需で急速に戦後復興を遂げた日本は、東南アジア諸国に武器・弾薬等を直接、又は米国経由で輸出する様になっていった。「武器を輸出しない平和国家」の自画像が描かれたのは、佐藤栄作内閣が武器輸出三原則を策定し、三木武夫内閣が76年に三原則の対象地域以外への輸出も「慎む」との政府見解を示した結果だ。

 時は東西冷戦の真っ只中。日本は西側陣営の一員として日米同盟に自国の安全保障を委ね、吉田茂内閣以来の軽武装・経済重視路線を突き進んでいた。76年当時の雰囲気を物語るのが、宮澤喜一外相(後に首相)による「兵器の輸出をして金を稼ぐ程落ちぶれてはいない。もう少し高い理想を持った国として今後も続けていくべきだ」との国会答弁だ。

 それから半世紀が経過した。東西冷戦は終結したが平和な世界は訪れず、高市首相は今年3月の国会答弁で「今は日本を取り巻く情勢が非常に厳しいものになっている。我が国一国だけではなく、同志国を増やして一緒に地域の安定を実現しなければいけない。もう時代が変わった」との認識を示し、そして4月、武器輸出の原則解禁に踏み切った。

 中国やロシアの軍事的脅威が高まる中、ロシアの侵略を受けているウクライナに武器・弾薬を供与出来ない日本で良いのか、中国の海洋進出の圧迫を受ける東南アジア諸国やオーストラリア等の同志国に艦船等を供与した方が良いのではないか。こうした問題意識は筆者も共有する。高市内閣が改定した「防衛装備移転三原則」に於いても紛争当事国向けの輸出は認めないとされており、ウクライナへの武器供与は尚ハードルが高そうだが、フィリピン等への艦船供与は早速進んでいく事が見込まれる。

 高市首相が「国論を二分する政策」に位置付けるのは安全保障政策ばかりではない。衆院選では「行き過ぎた緊縮財政」から「責任ある積極財政」への転換を訴えた。しかし、財政規律を軽視する高市政権の姿勢が円への信認を低下させ、天井の見えない物価高にホルムズ海峡危機が拍車を掛ける。この状況で高市首相肝煎りの「食料品の消費税2年間ゼロ」に踏み切ろうものなら、物価高対策どころか、更なる円安が物価の急騰を招き、インフレと不況が同時に進行するスタグフレーションという最悪の事態も懸念されよう。防衛産業の発展を「経済成長にも繋げる。国民生活の豊かさにも繋げる」と語る高市首相の主張には、「責任ある積極財政」の成果が見通せない焦りも滲む。高市政権は今後、経済以外の分野で「国論を二分する政策」を推し進め、高市カラーをアピールしていく事になるだろう。

憲法改正、非核三原則見直し、皇室の養子縁組も

その1つが、政府の情報収集機能を強化する「国家情報会議」設置法案だ。戦前・戦中は軍事優先、国家優先の国策の下、国民の監視、思想統制が徹底され、我が国は亡国の戦争へと突き進んだ。当時の国家警察を管轄した内務省は戦後、軍部と共に解体され、現在の政府の情報収集機能は警察庁、公安調査庁、防衛省、外務省等に分散している。政府の情報収集機能を強化する事に対しては、その矛先が再び国民の監視に向けられる事への忌避感が根強く有る一方、民主主義の国民国家体制を守る経済・外交・安全保障関連情報(インテリジェンス)機能の重要性は高まっている。

 中国やロシア、北朝鮮等の権威主義国家陣営から狙われるインテリジェンスを如何に守り、米国等の同盟国・同志国と共有していくか。その視点から言えば、インテリジェンスに接する政府・民間企業のスタッフを監視するセキュリティー・クリアランス(適格性評価)の強化が実は重要になる。政府のインテリジェンス機能を如何に強化しても、機密情報を扱う部門に敵対国に内通する者がいたのでは話にならないし、米国はその様な国と機密情報を共有はしない。国家情報会議の設置後は、各省庁が持つインテリジェンスを内閣に一元化し、セキュリティー・クリアランスを強化し、敵対国によるスパイ活動を防止し、本格的な対外諜報活動を可能とする議論が本格化する。

 「国論を二分する政策」の本丸は憲法改正だ。高市首相は4月の自民党大会で「憲法改正案の発議に目処が立ったと言える状態で来年の党大会を迎えたい」との決意を表明した。自民党は2月の衆院選で改憲発議に必要な3分の2を上回る議席を獲得したが、参院では日本維新の会と合わせた与党で過半数割れしたままだ。国民民主党等の一部野党の協力が見込める緊急事態条項の創設や参院選挙区の合区解消から手を付ける段階的な改憲が高市首相の念頭にある様だ。先ず緊急事態条項等で改憲の実績をアピールし、2028年の参院選で大勝した暁には本命の9条改正に乗り出すシナリオが想定される。

 亡国の敗戦から再出発した日本の国家としての有り様を定めたのが日本国憲法であり、その三原則が国民主権・基本的人権の尊重・平和主義だ。立憲国家に於いて憲法とは、主権を有する国民が国家権力を縛る最高法規であり、権力側が改憲の旗を振る事に批判的な声も根強い。戦争放棄と戦力不保持を定めた憲法9条を平和国家の根幹と考えるか、同盟国・同志国との安全保障協力の障害と考えるか。現行の9条はそのままに自衛隊の保持を明記した9条の2を追加する自民党の主張は、平和主義を維持しながら事実上の戦力として自衛隊を位置付ける苦肉の策だ。維新は9条2項(戦力不保持)を削除して国防軍を保持する案を主張しており、野党を巻き込んだ大きな議論に発展していくかも知れない。

 高市首相が師と仰ぐ安倍晋三元首相が憲法改正と共に意欲を示していたのが、非核三原則(核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず)の内、「持ち込ませず」を見直して米国の核を日本国内に配備する「核共有」の検討だ。高市氏も首相就任前は前向きな考えを示していた。再来年の参院選で与党が大勝すれば、長期安定政権の見通しが立ち、改憲論議と共に非核三原則の見直し論議も本格化するだろう。

 今後の焦点は「高市人気」が何処まで続くかだ。高市首相が進める「国論を二分する政策」は他にも有る。経済の見通しが不透明な中、その舵取りを誤れば、世論の離反を招き兼ねない。それでも首相は、皇室数の減少対策で旧宮家出身の男系男子を養子縁組によって皇族に戻す案を強行し、選択的夫婦別姓制度の導入は断固阻止するのだろうか。

党大会で会場からの呼び掛けに応える高市首相(自民党HPより)

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