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未来の会

第87回 「日本の医療」を展望する世界目線 医師が組織に属するということ ①

第87回 「日本の医療」を展望する世界目線 医師が組織に属するということ ①

少し前のことになるが、日本経済新聞において「開業医でもフリーランスでも、医師も何らかの組織に属することが必要である」と述べた。紙面が限られていたため真意が伝わらなかったかもしれないので、今回から、「医師が組織に属するということ」について考察してみたい。もちろん病院も組織ではあるが、今から順に述べていくように、病院と一般の組織(企業)はかなり違うのである。まず手始めに今回は、「医師の働き方改革」をキーワードに、「働き方」とは何か、注目すべきはどの点なのかを整理してみたい。

医師の働き方改革の背景

現在、医師の働き方改革が、2024年に向けて様々なところで議論になっている。改革が推進され、労働時間が減ることにより、医師の働く環境は良くなる。しかし一方では、アルバイトなどによって支えられていた収入が減少する、あるいは技術を習得する機会が減るとも言われている。直接に医師の働き方改革に関係があるわけではないが、その背景にある考え方を皆さんと一緒に考えていきたいと思う。

そもそも働き方改革という考え方はなぜ起きてきたのであろうか。少し遡ると、安倍政権においては経済の成長が最重要とされた。現実にどこまで達成されたかは経済の論客に譲りたいが、例えば医療費に関しても、国際比較でよく行われる「対GDP比医療費」などは、「国全体の経済力であるGDPが増加すれば医療費が多少増えたとしても比率が減る」という考え方である。これは、国力というものが絶対的なものではなく相対的なものであるという考え方に立脚していることによる。この良い例が為替レートであって、2022年10月現在の円安は、日本における国力(この場合の国力には広い意味では軍事力や政治力も含まれる)あるいは今後の経済力で国が儲かっている、すなわち黒字であるということを指す。ただ、ここで述べる「国力」というものの中心は経済力であり、それは物を売って黒字であるというだけではなく、投資をしたりして総合的に黒字になっているということも含まれる。いずれにせよ国力というものが相対的であり、日本の国力が落ちてきているので円安になってきている、というのは概ねの考え方としては納得がいくところではないだろうか。

働き方改革を推進する目的とは

さて、一見働き方改革とは関係ないようにも見える安倍政権の成長戦略や国力に関する話をなぜ延々としていたかというと、現在の岸田政権に照らし合わせるためである。現政権においても、未だに成長を重視すべきか、財務健全化を遵守すべきかという議論は続いているわけで、言い換えればまだまだこの成長重視の考えは日本において受け継がれているからである。

では、働き方改革というのは単に労働者の働く環境を良くするためだけに設定されたのであろうか。

もちろん答えは否である。このことには、人口が減少し続け、国力の低下が危ぶまれる今の日本において、いかに経済力を上げるかという考えが背景にある。経済力を上げるために必要なものは何か。それは、具体的に言えば「働き手の確保」である。労働時間の短縮を中心に語られる「働き方改革」が「働き手(労働時間の総量)」の確保を念頭にしているとは、ここが一見矛盾するところで分かりにくいところであるが、もし本当に働き手の確保をしたいのであれば、方法は3つしかないであろう。

1つは、絶対数として働く人を増やすということである。もう1つは、現在の人が長時間働くこと。3つめは、働く時間は同じであっても生産性を上げ、アウトプットの質を高めるということである。合理的に考えれば、3つともまとめて推進したいところではあるが、政治の世界においてはそれはなかなか難しく、やはり多くの先進国で労働時間が短縮され、個々人の QOLやウェルビーイングが重視されている時代においては、労働時間を増やすという選択肢は取りづらい。そこで、個人の生産性を上げる話と、働く人の絶対数を増やすという話に落ち着いてきたわけだ。なお、生産性についてはこの連載の第72回(2021年8月号)から7回に亘り考察したので、ここでは詳しくは触れない。

さて、働き手を確保するといっても、今までの状況で働きたい人は働いているわけだから、働き手を増やすには工夫がいる。そこで、今まで働いていなかった人の中で改めて働きたい人がいそうなエリアが注目された。1つは高齢者であり、もう1つは子育て世代の女性である。さらに言えば、私が今お手伝いしているような障害者や難病の患者さんにも、働く機会があるのが望ましい。

筆者の「働き方」の経験

ここで、私が20年前に気がついたことを少し紹介してみたい。筆者は、外資系の企業1社と内資系の企業2社で社員として勤務した経験がある。全て足しても10年弱ではあるが、医療機関に勤務しているのとは全く違った経験をしたのも事実である。

まず、外資系企業で特徴的なものとして、SOP(Standard Operating Procedures)があった。SOPは日本語に訳すと「標準職務基準書」であるが、最近よく言われるジョブ型の働き方や雇用において、その内容を確実に行うことが重要とされている。そして、この内容をどこまで達成できたかで給与が決まるとされる。半期に1回ほど上司との面談があり、そこで評価されたり、年に1回目標を立て、その達成率も含めて評価されボーナスが決まったりしたことを覚えている。

内資系企業ではそこまでしっかりしたSOPはなかったが、目標を定めたりすることは同じで、基本は同じように何かを達成できたかどうかで評価された。営業職など数字が明確に出る仕事でない場合には、定性的な評価も入ってくるので、最初の外資系企業で非常に驚いた以降は、少しずつ慣れていったのも覚えている。

また、内資系の企業では、管理職であったこともあり、部下の評価をしなければならなかったし、360度評価といって、上司のみならず同僚や部下から自分自身も評価される仕組みが導入された時には、少し焦ったことを覚えている。

筆者は最終的に2回転職を行ったため、面接はもう少し多くの数を受けた。その頃は、インターネットが今ほど普及していなかったせいもあろうが、担当者がいて、かなり緊密な関係を持ったことが思い出される。現在はそうした形態も変化しているかも知れないが、こういった形のヘッドハントの場合だと、リテイナー契約といって、「サーチ型」人材紹介のサーチを開始する前に手数料を支払う契約形態を採っている。それゆえ、顧客である転職希望者との時間も長く取れることになる。外資系企業の面接の際には、感銘を受けた本とか、尊敬する人とか、かなり幅広い質問を受けたことも覚えている。

ちなみに、少し検索してみると、このようなエグゼクティブサーチの会社のいくつかは、組織変革のコンサルティングも行うようになっているようだ。言い換えれば、人をはめ込むことだけでは組織を変革することは難しいが、さりとて、適切な人がいないと組織を変革することもできないということだろう。

これは一般企業についての話だが、医師の場合はどうであろうか。医師は専門家意識が強く、自律性も強い。したがってなかなか組織人になり切れない。自分が現在属している組織はさておき、自らの専門家意識や大学医局といったものに忠誠心が高い場合も多い。次号では、そうした特性を持つ医師が「働き方」を見直し、働く場を変えることについて考察を進めよう。

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