
障害者雇用は、今や経営に於いて向き合わざるを得ない人権経営の指針となる課題である。従業員数40人以上の事業主には雇用義務があり、民間企業の法定雇用率は2026年7月に2.7%に引き上げられた。これを単なる制度対応として現場に任せきりにするのではなく、組織としての支援が欠かせない。本連載では、現場で実際に起きるトラブルを手掛かりに、経営者・管理職が知っておくべきノウハウを解説する。
障害者雇用に於いて、身体障害や精神障害への理解は浸透しつつある。一方、外見で障害特性を判断しにくい「内部障害」や「高次脳機能障害」については、本人が抱える心理的負担や、職場で必要となる配慮が十分に理解されているとは言い難い。
内部障害——「障害者になりたて」の心理
内部障害とは、内臓機能に低下や障害が有る状態を指す。身体障害者福祉法では、心臓機能障害、腎臓機能障害、呼吸器機能障害、膀胱・直腸機能障害、小腸機能障害、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害、肝臓機能障害の7つが規定されている。透析治療を受けている人や、ペースメーカーを装着している人、人工肛門・人工膀胱を使用している人(オストメイト)等、その内容は多岐に亘る。
病気によって日常生活に一定の制限が生じるものの、外見からは障害が分かり難く、一般の従業員と同様に働いている人も多い。
しかし、内部障害者には特有の配慮が求められる。内部障害者の多くは、人生の途中で病気によって障害を負った人であり、いわば「障害者になりたて」の状態にある。配慮を受ける事自体に慣れておらず、自分だけが特別扱いされる事への戸惑いや申し訳なさを抱え易い。その為、「自分の障害が周囲に迷惑を掛けていないか」と絶えず気に掛け、問題が生じると必要以上に自分を追い詰めてしまう事が有る。
或る大手家電メーカーに勤務する男性は、腎不全の為定期的な透析が必要であり、治療日は業務時間中に早退しなければならなかった。その度に職場で謝罪と感謝を繰り返す生活が長年続き、不眠を訴え、医療機関では「うつ病一歩手前の抑うつ状態」と診断された。
「職場では、いつも『迷惑を掛けてすみません』と頭を下げ続けています。そんな自分が情けなくなり、卑屈になってしまいました」
一方、会社側は困惑していた。
「早退や遅刻は認めている。職場の同僚も障害を理解し、本人に感謝や謝罪を求めている訳ではない。これ以上、何を配慮すればいいのか」
確かに、その認識は間違っていない。しかし、多くの内部障害者は、同じ悩みを抱えている。遅刻や早退の度に「すみません」「ありがとうございます」と言い続ける事で、自分を職場のお荷物の様に感じてしまう。その状態が長期間続けば、精神的不調に繋がる危険性も有る。
相談を受けた日本初の障害者の為の労働組合「ソーシャルハートフルユニオン」の助言により、職場で採用された配慮が、「誰も気を遣わず、本人も謝らなくて済む仕組み」であった。透析で席を離れる際、「ただいま透析治療中」と記したプレートを机上に置き、敢えて挨拶をせずに席を離れる。用事が有る社員もプレートを見るだけで状況を理解出来、本人もその都度謝罪する必要が無くなった。この様な措置(配慮)は職場に過重な負担を強いるものではなく、合理的な配慮として提供する義務が有ると考えるべきだろう。実際、本人だけでなく、周囲の心理的負担を大きく軽減する効果が有った。
オストメイトマークを大きく表記する
オストメイトとは、人工肛門や人工膀胱を造設した人を指す。排泄の処置には時間を要する事が有り、又、緊急時には衣類を洗浄しなければならない場合も有るので、多機能トイレの利用が欠かせない。しかし、外見から障害が分からない為、「元気そうなのに、なぜ障害者用トイレを使うのかと思われるのではないか」と利用を躊躇う人は少なくない。更に、多機能トイレの中には一定時間で自動解錠される設備も有り、設定変更が必要な場合も有る。こうした心理的負担を軽減する為には、オストメイトマークを分かり易く大きく表示すると共に、マークの意味や役割を職場内で周知する事が重要である。
「出来ないこと」を最初に伝える
内部障害者を中途採用する際は、仕事と治療の両立について面接段階から具体的に話し合う事が重要である。本人が必要とする配慮と、会社が対応出来る事、どうしても対応出来ない事を率直に確認する事が、双方にとって現実的な就労環境に繋がる。
例えば、「火曜日の午前中は必ず出社して欲しい」と会社が明確に伝えれば、本人が病院の予約日を変更する等、自ら調整出来る余地が生まれる。会社が対応可能な範囲を最初から明確に示せば、本人も代替策を考え易くなる。又、内部障害の中には過労が命に関わる疾患も有る。失業を恐れて無理を重ね、危険な状態に陥った事例では、企業の安全配慮義務が争われた。
どこ迄が安全な仕事量なのか、病状悪化時の対応や復職の条件についても、本人と十分に話し合っておく事が、安全な職場作りには不可欠である。
高次脳機能障害——「これからの人生」を支える
高次脳機能障害とは、交通事故や脳血管障害などによって脳が損傷し、記憶、注意、判断、感情のコントロール等、高度な認知機能に障害が生じる状態である。認知症と似た症状を示す場合も有る。その為、従来通りの勤務が難しく、短時間勤務やリハビリ就労となるケースが多い。
高次脳機能障害者が新たに採用されるケースは少なく、多くは従業員が在職中に事故や病気によって障害を負うケースである。この場合、職場復帰だけを目的とするのではなく、「これからの人生をどの様に生きていくか」という長期的な視点に立ち、会社として何が出来るのかを本人と共に考える姿勢が何より重要である。本人だけでなく、家族や医療機関、支援機関とも連携しながら、障害年金など利用可能な制度の情報を提供し、必要に応じて専門家へと繋ぐ事も有効な支援となる。
外見からは分かり難い障害だからこそ、本人が安心して治療を続けながら働ける環境を整え、「申し訳ない」と感じさせない仕組みを築く事が重要である。「さりげない配慮」の積み重ねは、本人の心理的負担を軽減し、結果として職場全体の安心感と信頼関係を育む事に繋がる。
〈次回予告〉うつ病と双極性障害への理解と支え方
『本書を読まずに障害者を雇用してはいけません!』(久保修一 労働新聞社)
久保修一氏「ココだけ」の補足の一言
久保 修一(くぼ・しゅういち)
1965年東京都生まれ。慶應義塾志木高校、慶應義塾大学法学部政治学科中退。日本初の障害者の為の労働組合「ソーシャルハートフルユニオン」前書記長。NHK 福祉情報番組『ハートネット TV』の「障害者雇用」レギュラーコメンテーターを始め、テレビ・ラジオ・WEB サイト・定期刊行物など様々なメディアで、障害者雇用に関する提言を発信。日本財団「就労支援フォーラムNIPPON」、千葉県障害者雇用サポート事業「障害者雇用セミナー」、東京都社会保険労務士会がん患者・障がい者等就労支援特別委員会、東京都労働相談情報センター等で講演多数。著書に『本書を読まずに障害者を雇用してはいけません!』(労働新聞社)、『職場にいるメンタル疾患者・発達障害者と上手に付き合う方法』(日本法令)等が有る。



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