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米国の政治的思惑を中国との経済関係に持ち込む「愚」

米国の政治的思惑を中国との経済関係に持ち込む「愚」
サプライチェーンの中国依存は企業論理で解決すべき

 1945年の第2次世界大戦終結以来、21世紀の今日まで続いてきた世界経済の基本的な構造に、激震が起きようとしている。これまで経済力で圧倒してきた米国が、遂にその座を中国に明け渡す事態が目前に迫っているのだ。

 英国の著名なシンクタンク「経済ビジネス・リサーチ・センター」(CEBR)は昨年12月、中国が2028年までに国内総生産(GDP)で米国を抜き、「世界最大の経済大国になる」との報告書を発表した。

 同時期に米国インディアナ州立ボールステイト大学のビジネス経済研究センターも、やはり「2028年までに経済規模で中国は米国を追い抜く」との全く同一の予測を公表している。

 既に数年前から各国のシンクタンクやアナリストも2030年前後の逆転劇を予測しているが、ついにカウントダウンが開始されたのは疑いない。

 無論、米国の軍事力は依然圧倒的だが、今日、世界的覇権をもたらす上で軍事というファクターは大幅に後退している。

 より重要となっているのはGDPに象徴される経済力と技術力であって、グローバルパワーとしての影響力はこの2つを欠かす事が出来ない。このままだと米国は、いくら隔絶した軍事力を誇ろうが、覇権国家の座を中国に譲らざるを得なくなるだろう。

不可能に近い「デカップリング」の実現

 今や中国経済の強さは、コロナ禍で更に際立っている。20年度の経済成長率は2・3%と低めながらも、米国のマイナス3・5%、日本のマイナス4・8%、ドイツのマイナス4・9%と、軒並みマイナスに終わった他の主要経済国を圧倒したのだった。

 立ち直りが早かった中国は、今年の第1四半期のGDPの伸びでもプラス18・3%という数字を記録し、92年以降で最大となった。

 国連経済社会局(UNDESA)が今年5月に発表した「世界経済状況・予測」では、21年に中国の経済成長率を8・2%としたが、実現すれば10年ぶりの8%超えとなる。米国は6・2%で、今後も「中国優位」の趨勢はもはや動かし難い。

 このため、1月に発足した米バイデン政権の「中国敵視」政策は一層強まっている。予想される「米中逆転」が近づくにつれ、「中国が米国を抜き、世界最強の国になるのを阻止する」(3月25日のバイデン大統領の記者会見発言)という国家挙げての意思が鮮明になっている。

 同時に、日本でも「経済安全保障」という名目で米中のどちらにつくのかという一種の「踏み絵」が日本に突き付けられているとか、「中国に従属する事になる」と言わんばかりの言説がこのところ急速に目立つようになった。

 しかし、経済の実態から見ると、愚かな認識だ。まず米国自身、以前から叫ばれているような中国から経済を切り離す「デカップリング」を実現するのは、不可能に近い。

 グローバル経済で形成された米国が依存する中国のサプライチェーンを解消するのは自殺行為に等しく、日本も同様だ。実際、米国は最先端半導体等以外の分野で、本気で「デカップリング」を目指している気配は乏しい。

 次に、日本経済の「中国依存」を解消するのも不可能に近い。利潤法則で動く経済活動の結果としての現状を、政治的動機で動かそうとしても無理がある。

 19年度の日本の輸出相手国のトップは中国(香港も含む)で18兆3482億円に上り、2位の米国の15兆2468億円を引き離した。輸入も中国は18兆6696億円で、米国の8兆6217億円を圧倒する。

「日本経済は対中輸出で助かった」

 「従属」とは何を意味しているか不明だが、中国のGDPが日本を圧倒したら、経済上のデメリットはどこにあるのか。

 この5月も財務省の貿易統計によれば、輸出全体に占めるシェアでは中国がトップで22・2%。次が米国の17・6%。輸入はトップの中国が24・6%で、米国の11・5%の2倍以上だ。しかも対中国の輸出入とも、額の面で5月としては過去最高を記録している。

 結局、「コロナで日本経済はとんでもない危機に陥ると言われたが、中国への輸出で助かったというのが現実」(経済ジャーナリストの磯山友幸氏)なのだ。20年に中国がコロナ封じ込めにいち早く成果を上げ、経済の回復を成し遂げた事で、自動車や半導体、機械等の製造業を中心に輸出が好調に転じた。

 それでも、「日米同盟」の観点から「中国依存」を問題視する向きもあるが、中国でビジネスを展開する日本企業は約1万3000社に上る。北京の中国日本商会がこのほど発表した『中国経済と日本企業2021年白書』によると、中国進出の日本企業の63・5%が利益を上げており、しかも92・8%が中国での生産を見直す予定はなく、それどころか90・4%が中国での調達を拡大する意向という。

 米国は自国の事は棚に上げ、ウイグルでの抑圧等「人権」を振りかざして中国を「国際秩序」に反する「敵」として何とか影響力を削ごうとし、日本にも同調圧力を強めている。だが、経済競争で順位が入れ替わるのを政治的手段で「阻止する」という発想がおかしい。日本は10年にGDPで中国に抜かれたが、政府がそれを「阻止する」等と息巻きはしなかった。

 なぜ米国だけがこういう合理性を欠いた発想をするかと言えば、冷戦以降の長期間、世界中に800カ所以上の軍事基地を展開し、自国だけが特別に世界に君臨する特権が与えられているかのような「例外主義」の驕りから抜け出せないためだ。

 本来、世界の2大経済大国である米中両国にとって、経済・金融・貿易の面でウィン・ウィンの関係を構築するのは今後も不可能ではないはずで、中国もそれを望んでいる。

 かといって、このままそうした関係を続けていると、経済競争で中国に追い抜かれるのは時間の問題となる。

 のみならず、差が拡大していくと最悪の場合、米国の世界支配の最後の頼み綱である基軸通貨ドルの覇権が、一部人民元に切り崩される可能性すら皆無ではなくなる。一国だけの「世界支配」という長年維持してきた地位が消えかねない。しかも、米国が中国を圧倒するとはいえ、経済競争に軍事力の出番はない。

 つまり米国には、逆転を「阻止」出来るような切り札は存在しないのだ。トランプ前政権が中国に仕掛けた「貿易戦争」は完全に失敗に終わり、逆に中国の対米輸出額ではこの1月から4月までの合計額で、前年同期比の60・8%増となった。

 おそらく米国があらゆる口実を用いて中国批判を強めているのも、もはや打つ手がない故の焦燥感からだろう。

 日本は、米国のこの種の驕りに、愚直に付き合う必要はない。サプライチェーンを極度に中国に依存する事の弊害はコロナ禍で露呈したが、あくまで企業の論理で解決が図られる問題だろう。米国の政治的思惑を、企業が主体の中国との経済関係に持ち込むのは愚策でしかない。

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