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第35回「精神医療ダークサイド」最新事情 患者を癒やせる精神科病院とは?

第35回「精神医療ダークサイド」最新事情 患者を癒やせる精神科病院とは?
「心ある改革」に取り組む名誉院長

精神疾患の患者が入院する単科病院について、筆者が講演などで話題にする場合、2つの言葉を独自に使い分けている。「精神病院」と「精神科病院」だ。前者は昭和から続く隔離収容所、後者は患者のリカバリーに真剣に取り組む病院を指す。

精神病院は医療に値する行為を行っていないのだから、「病院」を名乗ることすらおこがましく、医療費の観点からみても一刻も早く消え去るべきである。一方、精神科病院の医師たちの創意工夫や努力には頭が下がる。

大阪府和泉市にある新生会病院(アルコール依存症治療専門、148床)の名誉院長・和気隆三さんは、80代半ばになった今でも、患者のための病院づくりに奮闘している。勤務医だった若い頃、断酒会との連携や、院内自治会などの治療共同体づくり、様々なクラブ活動の立ち上げなどを進め、自暴自棄になりがちな患者たちの回復力を高めていった。

1981年、新生会病院を開設。広い敷地に緑を増やし、1周120㍍のコースをとれる裏庭は、開放病棟から24時間出入り可能にした。「患者さんは心の不調を癒すために病院にやって来るのですから、心安らぐ環境が必要です。豊かな緑の中で体を動かし、良い人間関係を築く。そのような場を提供してきました」と語る。

給食の味にもこだわり、外部委託はせずに院内で作り続けている。「口の悪い患者さんも『給食だけは美味い』と褒めてくれます」。アルコール依存症の重症患者は、食事をせずに酒ばかり飲むので、栄養状態が極めて悪い。回復のためには、ビタミンやミネラルが豊富な美味い食事が必要なのだ。

最近、入院患者たちに万歩計を配る試みも始めた。沢山歩いてお腹が空けば、食事がますます美味くなる。「酒よりも飯だ」と思えるようになれば、しめたものだ。これぞ食事療法の鏡である。

名誉院長の向上心は止まらない。2023年11月、和気さんは病院改革を進める千葉市のK病院(受診者の急増を避けたい病院の意向で匿名)を見学することになり、筆者も同行させてもらった。

K病院のストレスケア病棟は、ホテル顔負けの個室が並ぶ。靴を脱いで上がる無垢材の床(一部個室はバリアフリー)、大きな窓、間接照明、快適なベッド、清潔なトイレ(部屋によってはシャワーもある)などを備える。状態が安定している患者は、部屋の内側からカギをかけられる。6000円から1000円の差額代が発生するが、院長は「いずれは全病室をストレスケア病棟並みに整備して、差額代をなくしたい」と語る。

入浴はもちろん毎日可能。女性患者のためのパウダールームもある。見学を終えた和気さんは「うーん、負けた。うちも女性ユニットを新設した時、パウダールームを作りました。でも、個室も待合室も、何から何までこちらの方がいい。職員を見学に来させたい」と悔しそう。和気さんの病院改革に終わりはない。

この2病院のような「心ある改革」を行う病院間のつながりが深まれば、精神科の入院医療は劇的に変わるだろう。和気さんの取り組みやK病院については、24年1月中旬に発売予定の拙著『心の病気はどう治す? あきらめるのはまだ早い! 名医に聞いた希望のガイドブック』(講談社現代新書)で詳しく取り上げるので、ぜひお読みいただきたい。


ジャーナリスト:佐藤 光展

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