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未来の会

第19回「精神医療ダークサイド」最新事情 36年ぶりの『トップガン』に癒される

第19回「精神医療ダークサイド」最新事情 36年ぶりの『トップガン』に癒される
そうだとしても「今日じゃない」

 36年ぶりの続編映画『トップガン マーヴェリック』が世界中で大ヒットしている。前作公開時、19歳だった筆者は、当時の米海軍主力戦闘機F‐14のド迫力のドッグファイト映像や、デンジャー・ゾーンなどの音楽にシビレまくったのを昨日のことのように思い出す。そして待望の続編では、前作が霞むほどの実写バトルが展開され、「なぜそこに都合よくF‐14が?」といった疑問などどうでもよくなるほどの、興奮と感動が押し寄せてくる。時の流れをものともしない不変のトム・クルーズも驚異的で、これで流行らぬはずがない。

 この作品には、メンタルヘルスにも生かせそうな心に刺さるセリフがいくつも登場する。「Don't think. Just do(考えるな、行動しろ)」。これは、考え過ぎて本来の力を発揮できないパイロットに、トム・クルーズ演じるマーヴェリックが浴びせる重要なセリフだ。意味合いは少し異なるが、認知行動療法の行動活性化で使えそうな言葉でもある。日本で認知行動療法を広めた精神科医の大野裕さんは、あれこれ悩んでやる気が起きない時には、まず行動することが大切だと講演会などで伝えている。「やる気は実際にやることで湧いてきます。『元気があれば何でもできる』というのは逆で、やるからやる気が出て、元気が出るのです」。確かに、やる前は面倒に感じる作業や運動でも、やり始めると楽しくなるものだ。やる気になるまで待っていたら、やらずに人生が終わってしまうかもしれない。あれこれ考え過ぎて身動きが取れない時、『トップガン』の熱いシーンを思い出しながら、「Don't think. Just do」と叫べば、重い腰にアフターバーナーが点火して動き出せるかもしれない。

 先のことばかり考えて不安になる人には、「Maybe so, but not today(そうだとしても、今日じゃない)」がお勧めだ。人間のパイロットは、じきに無人機に取って代わられて要らなくなる、と語る上司に対して、マーヴェリックが切り返した言葉だ。将来はどうであろうと今は違う。今日できることをしっかりやるだけだ。そう思えば、確かに心は軽くなる。

 過去の出来事に囚われ過ぎて迷い続ける人には、海軍大将になった友人アイスマンがマーヴェリックに伝えた言葉「It's time to let go(過去はもう水に流せ)」を勧めたい。そんなに簡単に水に流せるものではなくても、心の片隅にこの言葉があれば、回復のきっかけになるのではないだろうか。『トップガン』は前作も含め、単純で深みのないストーリーにみえるが、実はマーヴェリックが自責感と苦闘し続けるドラマでもある。だからこそ、アイスマンが人生の最後に伝えた「It's time to let go」は重く、温かいのだ。

 そして『トップガン』シリーズ2作品は、世界中のおじさんたちの人生とシンクロした。筆者も36年の間に色々あった。新聞記者としてやってきた仕事に悔いはないが、これから先、下る一方の人生を思うと暗い気持ちになる。そんな時、『トップガン』が颯爽と帰って来てくれたのだ。

 マーヴェリックは、もはや骨董品扱いのF‐14を操り、最新鋭戦闘機を撃ち落とす。演じるトム・クルーズの輝きにも全く陰りがなく、それぞれの分野で36年戦ってきたおじさんたちへの最高のエールとなった。「Maybe so, but not today」。未来は不透明でも、今日を大切に生きていこう。

ジャナリスト:佐藤 光展

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